秘書西田の坊ちゃん観察日記32 (思い出は夢の中で 番外編)

このお話は『思い出は夢の中で 3』の番外編となります。

未来の司と対面した西田さんの反応♪

*

携帯から流れる着信音。

ルードイッヒ・ヴァン・ベートーベン作曲

交響曲第3番変ホ長調 作品55「英雄」

その音色を聴いて自覚するともなしに出るため息。

何か問題が・・・。

頭の片隅をよぎる不安。

「俺だ」

言われなくてもわかっています。

「会いたい」

え・・・

頭の中が高速で回転する。

坊ちゃんの言いなりに動く部下は普段から手配済み。

手足のように動く部下に不自由はしてないはずだ。

道明寺財閥の御曹司。

彼が黒と言えば白も黒となる。

私が動くのは坊ちゃんがやりすぎた時。

裏から手を回して事なきに収める。

普段は連絡を入れるだけですむ。

坊ちゃんは私のことを楓様の言いなりだと思ってるから煙たがる。

私に会う必要はどこにもない。

いったいなんだ?

会いたいとの予想外の言葉に私としては珍しく身構えた。

数時間後指定されたファミリーレストランに向かう。

この取り合わせも意外だった。

店内で一番目立たない壁際の席。

そこに座る坊ちゃんの隣に知らない女性が座る。

坊ちゃんの穏やかな表情。

時々優しく女性に向けるまなざしは愛しそうに女性を見つめる。

普段の殺伐とした感情は坊ちゃんの体からは少しも漏れ出してない。

私の知っている坊ちゃんはそこにはいなかった。

坊ちゃんに会ったのは昨日の夜。

1日もたたずにこんなに人は変われるものなのだろうか?

「お待たせしました」

疑問は心の奥に押しとどめお二人の前に座る。

なんとなく不確かな違和感。

私の知ってる坊ちゃんとどこか違う。

傲慢な態度は変わりないのだが威圧的なものの中に入り込める小さな隙間みたいな余裕。

誰もを排除して寄せ付けない壁がなくなってるのだ。

目の前に差し出された免許証。

17歳の坊ちゃんは免許をとれるはずがない。

「俺が免許取ったのは大学に入ってからだ」

私の疑問を察知したように目の前の坊ちゃんはつぶやいた。

手に取った免許証と坊ちゃんをしげしげと見比べる。

私の知っている坊ちゃんから少年のあどけなさを取って少し大人の雰囲気を付け足した冷静な顔。

感情を押し殺して見つめる冷静な瞳の輝き。

数年後の坊ちゃん?

このまま成長したら坊ちゃんはどうなるのだろう?

心配した日々が報われた気分が湧き上がった。

免許の更新年月日はどう見ても今から8年後。

「俺は今大学4年だ」

タイムスリップ・・・。

目の前の坊ちゃんはそれを信じさせるのに十分な情報を視覚と聴覚から与えてくれた。

こんなバカげた話に納得できる自分も意外だった。

「この方は?」

まっすぐ私を見つめる大きな黒い瞳

生命力にあふれて澄み切った瞳が臆することなく私を見つめる。

賢そうな表情に意志の強うそうな唇。

派手ではないが好感の持てる清楚なイメージ。

「あっ、今のお前は知らないのか」

「お前も認めた俺の婚約者」

「来年には結婚する予定だ。と・・・言っても今からプラス5年」

今まで聞いたこともないような上機嫌な坊ちゃんが目の前にいた。

女性は私がどう反応を見せるのか気が気じゃないような表情を作る。

くるくると感情のままに変わる表情はどれだけ素直なのだろう。

坊ちゃんはよほどにこの女性がお気に入りらしい。

未来のあなたを見ればこの女性がどれだけあなたを大きく変えたのかわかる気がします。

「私は何をすればいいのですか?」

このままお二人に協力するのは当たり前のような気がした。

早く未来に帰ってもらわないと未来の私が困ることになりかねませんから。

帰ってきたお二人に未来の私はなんと声をかけるのだろう。

「過去の私にまで未来から苦労をかけられるとは思いませんでした」

このくらいの言葉は準備しておいていいでしょうか?

「未来の坊ちゃんは幸せなのですね」

「バカげた冗談みたいなことも坊ちゃんだけなら信用できませんが、傍にいるあなた見たら信じられる」

坊ちゃんから移した視線は牧野つくしと言う名の女性を好意をもって見つめることができる。

「お前、俺のことは!」

不機嫌そうに荒げる声は現代の坊ちゃんより悪意がない。

「今の坊ちゃんのことは頭痛の種ですが、未来の坊ちゃんの方が私は好きです」

わずかに口角をあげて控えめに笑みが浮かんだ。

「俺も未来のお前の方が好きだ」

ククッと坊ちゃんが声を漏らす。

「こちらの生活のことは任せてください」

当たり前のように言葉が口をついた。

拍手コメント返礼

b-****様

リクエストをいただけるとなぜか張り切るんですよね。

使命に燃える性格!(笑)

たぶん司だけなら信用しないということもあるかもしれませんよね。

今週までは忙しそうです。しっかり日曜日は楽しんできます。

ありがとうございます。

美優様

さらっと~信用しすぎですよね(笑)

ふつうなら西田さんタイプそんなバカげたことあるわけありません!

なんて信じなさそうですけどね。

その場合は誰を司は頼るんだろう?

西田さんが信用したのは誰の影響が一番強いのかな?

やっぱり西田さんの坊ちゃんに対する思いなのでしょうか。