涙まで抱きしめたい 19

そろそろこのお話も終りが近づいてきました。

この二人のお話の続きはこのまま続けて書けるといいなと思っています。

私の描くあきら&葵のカップルも受け入れてもらっているようで、つかつくがいい(ある意味当たり前)と言ってもらうよりもうれしいのです。

ここまでかけるとは思わなかった予想外のカップル。

これからもあたたかく見守っていただけたらと思います。

*

「会社よりは静かだと思うから」

会社近くの公園のベンチ。

「あんまり食べたい気分じゃないだろうけど」

座らせた葵の前に差し出すサンド。

そのまま肩を並べて俺もベンチへ腰を下ろした。

木立ちから太陽の日差しが漏れる。

木漏れ日の光は柔らかく葵の手元を映し出す。

葵の膝に置かれたままの手のひらがギュッと拳を握った。

「アレ・・・見た」

握りしめたこぶしを見つめたままの葵の消え入りそうな声。

社員食堂での話は途中から聞く気もないのに耳に入った。

必死で本当じゃないと否定してた葵。

誰もあれが本当にあったと思い込むほど子供じゃない。

ただ楽しんでるだけだ。

俺と葵で想像することで、テレビのドラマが身近にある感覚で楽しんでる。

ほかにカップルが出来上がっていたら違った面白さがあるはずだ。

一之瀬と翔平とか?

うっ・・・ダメだ。

ありえないだろうッ。

ばかげた妄想はすぐに頭から追い出した。

戸惑ったままの表情はそのまま俺を見つめ続ける。

あれを全部読んだのなら、きわどい性的描写も目に触れたはず。

あそこまで思い通りに事が進んだら俺も苦労はしないよな。

あの物語の中の俺は葵に会う前の俺で恋愛なんて簡単だと思ってた。

自分の思い通りに反応を見せる彼女。

それに満足してる自分。

そこには今の俺の姿はない。

今の俺は葵の反応を気にしてる臆病な自分と戦ってる。

情けないくらいに葵の見せる表情に左右されている。

「本当のわけないとか、会社の中であんなことするわけないとか?」

おどけるように言って笑顔を向ける。

この方が葵は反応をしやすいはずだとわかるから。

それでも見る見るうちに頬が色づく。

「知らなかったよね」

少し悔しそうに葵が唇を噛んだ。

「ごめん、あの犯人はジー様だった」

コーヒーでサンドを流し込みながら告げることじゃない。

それでも軽めの気分で言いたかった。

「ジー様って・・・会長!」

「会長があんなの書くの?」

昭和生まれのおっさんが書けるわけない。

あれを書いたのがジー様だと結びつけるその発想の方が俺は驚く。

どっちかというと金にモノを言わせてと考える方が安易な気がする。

「その手の小説のプロを雇って書かせてるらしい」

「あっ・・・そうか」

ようやく俺を見た葵は今度は自分の勘違いに気が付いて恥ずかしがる表情を頬に残す。

「結婚が決まるまで書き続けるって宣言されたんだけど」

脅してるつもりじゃないが葵の表情がこわばったように見えた。

俺たちの関係が進まないのにしびれを切らしたジー様のもくろみ。

翔平をわざと葵に近づけたり、俺以外の相手がいるぞと焦りの種を植えつけられた。

翔平もおもしろいとジー様のたくらみに一役買ったというのはさっき白状させた。

あの小説でうまい具合に会社内で俺と葵の関係が受け入れられればおもしろいと考えてたらしい。

やりすぎだ。

どこからそんな発想が80歳目前のジー様から出てくるのか。

午前中に俺のところにやってきたジー様はネタの提供は一之瀬だとばらして笑った。

「東条さんは社長との関係が変に噂されるのを嫌ってる感じでしたから、知らないうちに話題の中心になってたらうまく行くと思ったんです」

「少し刺激は強すぎましたけど、あそこまでの指示を出したつもりはないんですけどね」

一之瀬がからんでいたのなら俺と葵の付き合いの進行具合が小説と合っていたのも察しが付く。

ジー様も一之瀬も葵の事をすごく気に入ってるみたいだ。

外堀は着実に埋められている。

もちろん一番気に入ってるのは俺だけど。

「ごめん」

そう俺に言わせるのは葵の落ち込んだ表情。

手に握らせたサンドを口に運んで一口食べて葵が息をつく。

「これ、おいしいね」

クスッと俺に向けられた笑顔。

それだけで俺も自然と唇がほころぶ。

「しばらくはうるさいだろうけどそのままの葵でいればいいから」

「無理する必要はないから気にするな」

遠くで車のクラクションがピーと響く。

無理強いは禁物と警告してくれてるように響いた。

「いつかはって思ったことが早くなっただけだからそんなに気にしなくていいのに」

はにかんだようにほほ笑んだ葵は残りのサンドを口に運んだ。

「犯人は会長かぁ・・・」

「何となく怒れそうもない相手だね」

「あきらのおじいちゃんてわけじゃないけど時々見せる会長の子どもみたいな無邪気な表情が好きなんだよね」

笑った顔は少しあなたに似てると葵が小さき声で付け足した。

誰もが威圧的な圧迫感を感じるジー様。

俺がジー様に似てるとは思わない。

ジー様の中に俺を探す葵の心。

それは俺の身体の奥でくすぐったい想いを芽生えさせる。

ジー様が俺に似てるって言うやつはお前だけ。

「まあ、あくまでもあれは小説だしッ」

自分を納得させるように葵は、よし!とか、大丈夫!と言葉を繰り返してる。

それがおかしくて、うれしくて、そしてまたこいつを好きになる。

きっともうお前なしじゃ生きられない。

「あきら・・・」

「なに?」

目の前の葵はフーと大きく息を吐いて瞼を閉じる。

「急にと言うか、突然だけど」

ベンチから立ち上がった葵が俺を見下ろす。

真剣な思いつめた表情。

次の言葉を探すように震える唇。

言いにくそうにごくりと喉元が上下する。

「別れるとかいうなよ」

葵の発する言葉が怖くて言わせないように立ち上がった俺は胸元に葵を押し込めるように抱きしめた。

「別れるとか言えるはずない」

胸元で震える声は驚きと戸惑いをまじ合わせてる。

「・・・結婚・・・してください」

「えっ?」

突然何も聞こえない、見えない真っ白な感覚。

今、聞き間違いじゃなければ聞えた単語は結婚の音。

身体だけじゃなく心が震えた。

「結婚って・・・」

「私からプロポーズしたら悪い?」

怒ったような、拗ねたような表情がはにかんだ。

「プロポーズなら俺からだろう?」

「相手を好きな方がするべきだと思うから」

「それじゃ、やっぱり俺だ」

顔を隠すように葵が俺の胸の中に顔をうずめる

「もう、一人じゃ生きていけそうもないから」

俺の胸の中の葵がそうつぶやいた。

                            END

この後のお話は、引き続きUP予定です。

しばらく休憩予定ですが、皆様の反応で早まる可能性はあるだろうな~。

載せられやすい私の性格が怖い

拍手コメント返礼

えりぴょん様

お似合いの拍手が何よりの応援です。

ありがとうございます。

ゆめ***様

一日何回も読み直してもらえるなんてうれしいです。

今回はバタバタとUPしたので後で付け足した部分もあるんで、すいません(^_^;)

私の魅力にいえいえ、この場合はあきらと葵の魅力に引き込まれて楽しんでください。

次回作も楽しいお話を用意しております。

no***様

小説を書いてるのは一之瀬さんという予想が多かったですよ。

会長と一之瀬さんが組んだらあきらも簡単には手を出せないでしょう(笑)

この二人に大好きだと一票の拍手。

うれしいな~

司が陰でいじけてるかも~。

han****様

ありがとうございます。

無事落ち着きました♪ ←本当?

たぶん結婚はできると・・・

その時期が問題だ~。

駿君の入園式に出向くようじゃ~どうなってるんだ?と思ってる私・・・。

F4にとって駿は特別ということでごまかします。

休憩ってどれくらい?

もう一つの連載を終わらせてからなんて考えてますが、まだ終わりが見えないんですよね(^_^;)

あきら&葵のストーリーの方が頭の中で盛り上がってるので困ってます。

とけい草 様

最期までお付き合いありがとうございます。

つくしに似ているようで似ていない女性。

シッカリとあきらに包み込まれているようで実はあきらをしっかり包み込んでくれる女性が葵ちゃんだと思ってます。

こちらはあきら君本人より姑と小姑で苦労しそうですけどね。

miho様

おめでとうと頂き感謝します♪

オリキャラとあきらのカップルは挑戦的な要素も多いので受け入れて楽しんでもらえるとすごくうれしいです。