十六夜の月は甘く濡れて 13

いよいよ悪の巣窟へ!

ハードボイルド的にな雰囲気が少しはあるでしょうか?

鍾乳洞の中を出口を求めて彷徨う緊迫感が漂うお話を考えてたんですけどね。

つくしちゃんが花沢類に「何でもする」といった時点で雲行きが怪しくなってきたような気がします(;^ω^)

つい明るい光を求めたくなるのは悪い癖だなぁ。

*

「これでは不十分だ」

モニター画面に映し出され姿はサングラスをかけて表情を隠した男。

聞こえた声は高めの声に変声機を使って変えてる機械音のような声。

俺の背中に隠して表情を見せないように牧野とキスしてるように見せた画像ではだめだと不安も漏らす声。

それは不満を押し隠しながら冷静を装ってる。

「あいつが表情を変えるにはもっとインパクトが必要だろう」

口角を上げて作る笑みには苦々しい恨みの表情が見える。

もともと司に恨みを思ってるってことはここに来る前にわかっていた。

親友が恋人を奪い取る昔からあるような恋愛小説を組み込んだ復讐劇。

それが相手のやりたいことだとわかるのは簡単だった。

どんなつもりで俺の偽物を仕立て上げたのか。

それが間違いだったってモニターの男が気づくころにはきっとこの事件は解決してる。

「それより、本当に本物は大丈夫なんだろうな?」

「本物の花沢類はまだパリにいるはずだ。

動けないように手は打ってる」

それなりの力がある相手だとわかる言いよう。

司とやりあおうって思ってる時点でムリがあると思うけど。

俺達F4の3人でもあいつとやりあう危険は避ける。

とくに牧野を使うなんて無謀この上ない死に行くようなもの。

俺のそっくりさんが俺たちの手中にあるってことにまだこいつは気が付いてない。

自分の力を過信してるのバカならあとは楽だ。

いつの正体がわかるのは時間の問題。

それはたぶんあきらがしっかり調べてるはず。

過信してるのが俺たちのほうってことはないはずだ。

モニターの中に何かヒントになるものはないかと目を凝らす。

無精ひげのままのやつれた頬。

痩せた顔色も悪い男は神経質に肘掛けに小刻みに指を動かす。

後ろに移る数台のモニター。

切り替わる画像は外の景色と部屋の様子映し出す。

芝生の敷き詰められた広い庭に円形の噴水、その中央には人物像のモニュメント。

どこかで見た記憶が・・・

どこだ?

俺が出かける範囲は司やあきら、総二郎と比べても少ないほうだ。

思い出せ。

「しっかり働け」

そうつぶやいたモニターの男はそのまま電源を落として暗くなったモニターの中に消えた。

報告をするモニタールームは地下一階。

牧野のいる部屋は2階。

部屋の中は自由に歩ける作り。

周りが海に囲まれてることを除けば快適に過ごせる。

ヘリで運ばれた時間を考えれば、小さな島に立つ別荘。

船着き場もないところを見ればここに来る手段は空だけだってわかる。

ここまでの情報はあきらにも伝えてる。

「上空から探す」

自信はあると胸を叩いたあきらのことだこの場所はそろそろ割り出したはずだ。

部屋に戻った俺の前にベッドで寝てる牧野。

開いた窓からそよぐ風がレースのカーテンを揺らす。

差し込む太陽の光は柔らかく木々の影を床に映しだす。

無理やり連れてこられてお部屋の中に押し込められてる雰囲気は薄い穏やかな空間。

ベッドの端にそっと腰を下ろした反動でわずかにマットレスが沈む。

振動には気が付かないままに枕に頬をうずめて寝息を立てる牧野。

俺・・・男としての自信なくすよ。

警戒心のない無邪気な寝顔。

俺が本気になったらどうする?

指先はかすかに眉にかかった牧野の前髪をかき分けるように触れる。

形の整った眉。

長いまつげは伏せたままかすかに震えてる。

目覚めれば、大きな瞳はきらきらと輝いて、曇りがなくって、生命にあふれてる強さを秘めてまっすぐに俺を見つめくる。

あんたを守りたい。

悩んだり・・・

落ち込んだり・・・

悲しい表情は牧野には似合わないから。

もう、二度とそんな牧野は見たくないから。

「う~ん」

ゆるゆる伏せていたまつげが動いて牧野の瞳が俺をとらえる。

「花沢…類・・・?」

うつろな思考が一気に目覚めて慌てた表情に変わった。

「いつから・・・いたの!」

飛び起きようとした牧野をとどめるように身体を重ねてベットに押し倒した。

「司のためなら何でもするっていったの覚えてるよね」

俺の身体の下で牧野が身体をこわばらせてるのが伝わってきた。

「牧野、協力して・・・」

つぶやきながら牧野を落ち着けるようにそっと髪を撫でた。