霧の中に落ちる月の滴 2
*「大丈夫か!」
ドンドンと窓を叩く音。
籠るように聞こえた声にうつろに開いた目に映ったのは知らない男の人の必死に叫ぶ表情。
「ダメだ!レスキューを呼べ」
切羽詰った緊張感のある声を夢を見てるように見てる自分がいた。
飛び散る火花と金属を切り裂く音で花沢類の車で事故にあったことを思いだす。
「花・・・ざわ・・・る・・い・・・」
る・・・い?
私の身体をかばうようにもたれかかる花沢類の身体はピクリとも動かない。
つぶれた車と私の間に挟まったままの花沢類の身体。
暖かい花沢類の温もりにほっとしたのは一瞬。
生暖かい感触の触れた手のひらは真っ赤に染まってる。
血・・・?
どちらの血か分からないままに手のひらを染める朱の色。
「花沢類!」
「返事してよ!」
必死に呼びかける私に反応するように私の胸元で花沢類が苦痛にゆがんめるように眉を寄せるのが見えた。
*気が付くと白い天井が見えた。
ピッピッと聞こえるモニターの音だけが響く。
少し身体を動かすだけで軋むように全身が痛む。
指を動かすことが精いっぱいで顔を横に向けることもままならない。
「牧野っ」
痛みをこらえて視線だけがその声の主を捉える。
私より苦痛にゆがむ表情で見つめる道明寺が見えた。
か弱そうなその声は初めて見る道明寺の打ちすえられた姿。
私より重症な怪我をしてるのは道明寺じゃないの?
「ばかやろう。心配させんじゃねぇよ」
泣きそうな声でバカッてなによ。
手のひらにしっかりと感じる道明寺の手のひらの温もり。
絡んだ指先はもう離れないと私に伝えるようにしっかりと絡み合っていた。
上腕から伸びる白い管の先に見える点滴の落ちる水滴。
ここは病院だって・・・
助かったんだって・・・
道明寺の手のひらから伝わる熱にほっとしてる。
そしてよみがえる事故の記憶。
ぶつかった衝撃で揺れた車。
身体のすぐそばにトラックの運転席が迫ってきた恐怖。
それを隠すようにかばってくれたのは花沢類。
「牧野!」
花沢類の決死の叫び声がまだ耳の奥に残ってる。
「道明寺、花沢類は!
一緒にこの病院にいるんだよね?」
唇を動かすだけで頭が殴られたように痛む。
「まだ手術中だ」
「行かなきゃ」
「バカ、お前も重症なんだぞ」
自分じゃどうにもならない身体。
たぶん起き上るのも無理な状態だって思う。
それでも寝てられないよ。
「お前が、無理して類が喜ぶと思ってんのか。
類がお前をかばったからお前は助かったんだよ」
怒ったような道明寺の声はそれでいて切なく暗く重い。
道明寺の言葉がもう一度私に事故の瞬間の映像を思い浮かばせる。
右から飛びこんできた車。
車の運転席を車に向けるようにハンドルを切った花沢類。
瞬間的にハンドルを切るなら左にだって思う。
私をかばう為に運転席をトラックの正面に向けた。
そして、その上で花沢類は私の前に身体を投げ出してくれていた。
両手でかばうように抱え込んでくれた花沢類の高まる鼓動の音が一瞬にして私を包み込むのとトラックのぶつかる衝撃に消えた意識。
助けが来るまでどのくらいの時間がかかったのか今の私にわかる必要はない。
ただ・・・
私より・・・
花沢類のほうが重傷で・・・
まだ手術していて・・・
花沢類が庇ってくれなければ私のほうが今も生死の境を彷徨っていたのかもしれない。
「道明寺・・・」
「ん?」
「助かるよね?」
「心配するな。あいつがお前にこんな思いさせたまま死ねるわけねぇよ」
道明寺のその言葉は私より自分に言い聞かせてるように思える。
「死ぬな。類」
道明寺が小さな声でそうつぶやくのが聞こえた。
拍手コメント返礼
みや 様
今回つくしちゃんの記憶喪失は封印。
類君がどう回復を見せるかが見せ場でしょうか。
もうしばらくはハラハラ感をお楽しみいただけたらとおもいます。
スリーシスターズ 様
今のこの状態じゃ司も嫉妬するわけにはいかないですよね。
類はつくしの恩人になってしまってるし、つくしと喧嘩したことも忘れてるでしょうね。
1話よりは落ち着いてもらってよかったです。
この後の展開にはいろいろな仕掛けをご用意しております。
超大作になるかも・・・(;^ω^)
ゆみん様
『ゆ』が一つ多いんじゃないかな?とは思っておりました
やはりそうだったか~(笑)
類君なら身を挺してつくしを守っちゃうとおもうんです。
司も守るでしょうけどね。どうして司じゃないのか!
そこがみそ~~~~~。
元旦から中毒患者続出?
どこの病院に運ばれちゃうのかな?
同じ病室に同じ症状の患者が集まったら処方箋は更新しかないですよね・・・。(;^ω^)
みえこ 様
明けましておめでとうございます。
類が死ぬなんて展開嫌ですよね。
死なせません!
まあも様
明けましておめでとうございます。
ハイ(^^♪ アンハッピーエンドにはませんよ~
最後はハッピーじゃなきゃいけませんからね。
あきら葵カップルも気にいっていただけてうれしいです。
絵梨 様
明けましておめでとうございます。
今年もよろしくお願いします。
類の事故後の設定。
意識が戻らず幽体離脱してつくしの周りをうろうろ~
目覚めた類の記憶が・・・
魂が入れ替わっちゃった!(入れ替わりどこかで書いてしまってますが・・・)
別に何事もなく治療に専念。
類の身体に後遺症が残って歩けなくなるとか?
もうほかにはないか!
私の頭のなかに浮かんでるのはこんなものでしょうか。
ほんとつくしの周りはうらやましいくらいイケメンぞろいですよね。
スリーシスターズ 様
二度目のコメありがとうございます。
私の小説を分類するとこのお話は『perfect dungeon』『ソラノカナタ』の系統に入りますね。
どちらにより近くなるかは書き上げてみないと私にもわからないんですよね。
以前の作品を超える面白さを求めているんですがどうなるかな~(;^ω^)
ゆみん様
禁断?
え?ゆみん様がいちゃこら以外で禁断!?(爆)
失礼いたしました・・・(;^ω^)
神の手の私がしっかりと類君を元気に復活させる予定ではいますけどね。