霧の中に落ちる月の滴 11
類君の記憶はまだ戻る気配はありません。
しかしまだこのお話いろいろと複雑な背景があるんです。
つくしと司の喧嘩の発端は?
つくしと類を襲った事故は故意に引き起こされたものでその犯人は!
類の記憶が戻っても解決しなければいけないことはあるんですよ司君!
頑張ることはたくさんあるから~
*それは不安なのか、罪悪感なのか・・・
胸の奥に燻った黒い影。
牧野・・・
お前も眠れない夜を過ごしたのだろか。
見上げた空はくぐもった思いとは裏腹に満月の月が浮かぶ。
一人になりたくなくてもぐりこんだ病院のベッド。
俺の腕の中であどけない表情が寝息を漏らす。
なんもしねぇでただ抱いて眠った夜。
右腕に感じる重みがうまく言えねぇけど胸にジンと甘い余韻を残してる。
牧野の頭の先に伸びて見える俺の腕。
上に向けた手のひらにそっと置かれてる小さな手のひらが見える。
ギュッとつかんでるわけでもねぇのにしっかりとつながってるような温もり。
窓の外に向けた視線の先で明るくなった空に白く跡を残す月が見えた。
牧野を起こさないように腕を頭から抜いて会社に戻った。
仕事を終わらせてまた病院へと向かう。
会わないと落ち着けなくてしょうがねぇ。
「司」
復活できてない感情に相反する相変わらずの声。
「ギャーギャーうるせぇんだよ。サル!
ここは病院だぞ」
「なによ。せっかくつくしの見舞いに来た滋ちゃんにそれはないと思うけど」
身体を寄せて冗談ぽく笑みを浮かべる滋。
「相変わらずだな」
「つくし、花沢さんと一緒に事故に合ったんだって?
独占欲が人一倍強い司がよく許してるよね」
俺と牧野が喧嘩して、あいつの愚痴を類が聞く。
俺たち3人の中に出来上がってる方程式。
それを説明する気にはなれない。
「てめぇに関係ねぇだろう」
「一応元婚約者としては気になるとこだと思うけど?」
首を傾げて微笑んでも可愛くねぇよ。
なんだかんだ言いながら近すぎるこいつとの距離。
勝手に腕を組まれたり俺に触ってきたのは忘れかけていた記憶。
「離れろ」
「え?このくらい大した距離じゃないでしょう?
それともつくしが怖い?」
「怖くねぇよ」
からかうように俺の腕に腕を回した滋から乱暴に腕を抜く。
コツコツと響く足音とはまた別の音が床に響く。
その音がとぴたりと音を止めた。
不機嫌になりかけた俺の表情は一瞬で戸惑った表情を見せてるって思う。
「類・・・っ」
小さく唇を揺らしただけの消え入るような声。
喉元にごくりと飲みこんだ息のほうが大きな音を立てた気がした。
「二人で、牧野に会うの?」
蔑むような感情が宿る類の瞳が俺を刺す。
類の記憶の中じゃ滋が婚約者のまんま。
フッた相手のことも考えずに婚約者を連れてくるようなどうしようもない男に類には見えてるんだろう。
牧野を傷つけるな。
そんな感情が籠る冷たい視線。
類・・・
お前が牧野のことを本気で好きだったと俺に思いださせる。
牧野をあきらめてくれとお前に膝をついて頼んだのは俺。
お前が牧野をあきらめてくれるなら俺は何度でも土下座できる。
それが今じゃないってことが今は苦しくてしょうがねぇ。
「帰れ」
「帰れってなに?」
不満な声を上げたのは滋。
「いいから来い」
「ねぇ、私なにか睨まれるようなことした?」
類を振り返る滋の腕を俺は引っ張って類の前から離れた。
現実とは違う記憶をたどる類にはまだ俺たちのことは理解することは無理。
類の前で牧野と滋を会わせるのは地雷を踏むようなものだ。
「ちょっと、離してよ」
「あいつは俺とお前がまだ婚約してるって思ってる」
「え?」
きょとんとした理解不能の表情で滋が俺を見た。
「事故で、ここ2年くらいの記憶が抜け落ちてんだよ」
「それって・・・」
「だから、類はまだ牧野のことが好きで、俺は牧野をフッてお前と婚約したって最低な奴に思われてんだよ」
無言で俺を見つめる滋。
さすがに声も出ねぇって反応。
「だったら、大変じゃない」
俺の腕をさっきは振り払った滋が俺に食いつくように迫る。
そうだよ。だからいろいろ悩んでんだ。
「もし、記憶が戻らなくて、つくしが事故でかばってくれた花沢さんに恩義を感じて同情したら、司フラれちゃうかもね・・・・」
頭の隅に引っかかってる何かをご丁寧に滋が引っ張りだしてきた。
「何があっても、牧野を離すつもりはねぇから」
今まで何度も叫んだ結論。
これだけはは誰も変えられないと俺は信じてる。
たとえ記憶は戻らなくても類とならわかりあえるはずだから。
拍手コメント返礼
Jacqueline 様
拍手でコメントいただくのは珍しいと思ったら・・・
一番のりだったんですね。
最近拍手一番の競争が激化ぎみ?
スリーシスターズ 様
滋ちゃんと桜子はなかなか我が家じゃ登場しないんですよね。
でもここは滋ちゃんを出さないと~
なんて意地悪な私・・・(;^ω^)
>ここで遊び心出して、婚約者のふりしちゃおうか!なんて言わなきゃいいですけど・・
内心やらせてみたい。
でもそうするといつものごとくお遊びに走りそうなので今回は我慢します。(笑)
種明かししちゃったらお話が終わるのだ。
歩くみかん箱 様
このお話のつかみは切なさでばっちり引き込んで~
いろんな(・・?が加わって面白さを増してくると思ってます。
>つくしちゃんは、類くんに恩義を感じてても流されるような子じゃないと思うけど、、
そうですその通り。
でも司が不安なのですよ。
類につくしをあきらめてもらったという引け目ありますからね。
もう一度この思いを類にさせなきゃならない司君。
その辺の心理描写がうまく描ければいいんですけどね。
文才がもっとほしいよ~。
ゆみん 様
空気を読まない滋ちゃん。
そこがドミソなのよ~
え?
サルとお月さま?
棚ぼた狙いで滋が狙うのはもしかして!のパターン。
きゃ~それは・・・無理ッす。