霧の中に落ちる月の滴 7

さぁ!お話はここから面白くなってくるはず。

類と司が顔を会わせなきゃ話は始まらないんですけどね。

類の記憶後退を知った司君はどんな態度をとるのでしょうか?

そこが第一のポイントですね。

 *

わずかに足元を照らすだけの絞った明りの中を歩く病棟の廊下にコツコツと革靴の音が響く。

面会時間の過ぎた夜に誰にも咎められず牧野のいる部屋に向かえるのは俺がずっと牧野の病室に泊まりこんでるのを病院中のスタッフが知ってるからに他ならない。

静かすぎる空間に音もたてずに開く病室のドア。

ドアの向こうでベッドに上半身を起こしたまま物思いにふける牧野の横顔。

窓ガラスから差し込む月の光が考え込む牧野の表情を切なく映しだしてる。

今、あいつの心の中を占めてるのは俺じゃなく類の事だと俺の本能が感じ取る。

類は目を覚ましたんだよな?

連絡を受けたのはあきらから。

牧野・・・

お前から必要以上に浮かれた声で連絡がなかったってことが気になってしょうがねぇ。

「おい」

ドアが開いたことにも気が付かないほど考え込んでいた表情がハッとなって振り返った。

「どうした?」

「昼間も寝てるから寝れなくて・・・。

今日も来てくれたんだ」

とってつけたように微笑んだ牧野。

俺が会いに来たことを心から喜んでねぇだろう。

「類が意識取り戻したにしては浮かない顔してるな。

真っ先に俺に連絡が来るって思ってたんだぞ」

牧野のベッドに腰を下ろした振動でわずかにマットレスが下に沈む。

「なにか、心配なことでもあるのか?」

類の状態が意識が戻らない事以外は落ち着いていることは説明を受けてる。

類の意識が戻った今あとは回復を待つだけの話だったはずだ。

「まだ、どっか痛むか?」

そっと撫でるように牧野の腕に触れる。

冷たい肌の感触。

腕から伸びたビニール製の管の中を通る黄色い色の液体。

身体の中に送りこまれる冷え切ったその液体が牧野の身体を冷たくさせてるような気がしてたまらなくなった。

「痛いとこなんてないよ。

随分楽になってきてる。

そうだよね。花沢類も目を覚ましたんだから!」

必死に明るく取り繕うように思える牧野。

何を隠してる?

お前のちょっとした違いにも俺は敏感に感じるんだぞ。

「隠し事をするな。何を考えてる」

じっと俺をまっすぐに見つめる牧野の瞳と牧野を食い入るように見つめる俺の瞳がぶつかった。

「黙っていても、花沢類に会えばわかることだから話すね」

まて・・・

あいつになにか後遺症がのこるとか?

歩けないとか?

取り返しのつかないこと。

そうなった、牧野は俺と結婚するどころじゃなくなるんじゃねぇか?

そう言うことなら牧野のふさぐ「気持ちも分かる。

「あのね・・・」

牧野がごくりと喉を鳴らすたびに心を落ち着かせる時間の必要を感じながらドクンと心臓が飛び跳ねる。

「花沢類の記憶が一部抜けてるの」

「抜けてる?」

「つまりは記憶喪失」

それだけ?

それならそこまで悩まなくてもだいじょうぶじゃねぇかとほっとしてる。

「俺がお前を忘れてしまったようなやつ?」

「私のことも道明寺のことも西門さんのことも美作さんのことも覚えてる」

それなら何が問題だ?

「今度の事故のことを覚えてないの・・・

私が高校を卒業して、道明寺と婚約したことも忘れてる」

「そんなこと説明すればいいだけだろう」

「それが、そうじゃない」

そこから牧野が俺に告げた類の記憶の亀裂。

あいつが牧野のことで俺を責めて、類が牧野のことを本気で思っていたあのころ。

類の記憶があのころに戻ってるってことは類の感情はその時のままってことか?

牧野をあきらめようとしてあきらめきれなくて再認識させられた想い。

類が牧野をあきらめてくれたから、牧野を取り戻せったって思ってる。

「気にするな」

牧野の頬に触れた手のひらに牧野の手が重なる。

傷つくのは俺たちより類。

類はもう一度、牧野をあきらめなきゃならないのだから。

俺は親友にもう一度あんな思いさせなきゃいけなんだな。

自分以外の感情なんてどうでもよかった頃ならなんとも思わなかったはずなのに、今の俺は類を自分に置き替えてしまう。

明日俺を迎えた類は冷たく牧野をフッた記憶のままにあのころのように俺を責めるのだろうか。

不安げな瞳はじっと何かを待つように俺を見上げてる。

牧野・・・

お前のそんな表情を見たくねぇし。

「さっさと、眠らねぇと襲うぞ」

俺の声に牧野が慌ててシーツを頭からかぶるようにしてベッドの中にもぐりこんだ。

そんな牧野を見てクスッとなったのはほんの一瞬。

そのまま一緒のベッドにごろんと横になった俺は眠れそうもなかった。

拍手コメント返礼

ゆみん 様

類と司の中で通じるのはどちらもつくしを思う気持ちですもんね。

つくしをあきらめられなかった司に、つくしをあきらめた類。

この微妙な心のやり取り切なかったもんなぁ~

そうそう司よりつくしがもう一度類をフルことができるのか!

つくしのやさしさが時として相手を傷つけることにもなりかねない憂いさを持ってますよね。

振りだしにももどった三角関係優位なのは類かもしれませんよ。

スリーシスターズ 様

お疲れ様です。

子供の行事忙しいですよね。

進学するたびに暇になりますけどね。

高校ともなるとほとんどなしで少し寂しくもなります。

今回は久々に2話Upできました。

寒いのと風が強いのとで外に出たくなかったんで時間がたっぷりとありました。(笑)

今回司君悶々としたまま朝を迎えるのでしょうね。

司と類の対面はいかに!

次週 こうご期待!!って感じかな。