戯れの恋は愛に揺れる  35

亜門の君に抱きしめられたままほっといてしまいました。

この時間の流れではもう決着はついていそうですが・・・(;^ω^)

つくし姫の貞操は守れたのか?

あぶねぇ・・・かも・・・

「離してください」

抗えば抗うほどにつくしを抱きしめる腕は強くなる。

胸元に触れた頬を離そうとしても後頭部をしっかりと抑え込みように5本の指先が黒髪の奥に差し込まれていくようだ。

吸い寄せられるようにつくしの頬は厚い胸元に触れ、司皇子とは違う直衣の香りを鼻先がかぎ取る。

必死で抑え込もうとした手のひら。

ダメだとでもいうように握られた手首に感じる指の強さ。

「この状況で、抵抗されるとは思わなかった。

どの姫も喜んで身体を投げ出すか摺り寄せてくれるのですけどね」

つくしの態度を非難する色を見せながら嬉々とする表情を見せる。

やはり・・・

皇子じゃない。

その確信が一層、この腕から逃れなければとうつくし姫の感情を呼び起こさせる。

「これ以上抵抗するようなら、無傷ではいられませんよ」

脅しではないとでもいうようにつくしの腕は高く釣り上げられ、司そっくりの顔の前まで上半身を引き上げられた。

そして腰にまわされたもう片方の腕がしっかりとつくし姫の身体を持ち上げてくる。

「姫に手荒なことはしたくないのですよ」

頬に触れたその声は何のぬくもりも感じることなく冷酷に響く。

「どうするつもりなのですか」

震えそうになる気持ちを隠すように必死に耐えるように喉の奥から声をつくし姫は絞り出す。

「私はそんなに悪い相手ではないと思いますよ。

皇子よりも劣るところもないはずです。

あなたが東宮妃になりたいのであればいずれその地位につけて差し上げることもできますよ」

冷たい声の感情に冷気を帯びた瞳がつくしを覗き込む。

自分を熱く見つめる司の瞳とはまるで相対する温度差。

司に見つめられはいやでも身体の奥から熱が湧き上がる。

今、目の前のその瞳はゾッとする怖さをつくしに植え付けてくる。

「いやです」

身が引きされようと思い通りにはなりたくないと抗う気持ちをつくしは全身に込めた。

「聞き分けのない方ですね。

そんな態度も男心をくすぐると司皇子は教えたなかったのですか?」

顔を背けようにも動きようがないように両頬を抑えこまれる。

抗うことができない力の差を感じながらもつくしは必至でその手から逃れようと腕に力を入れた。

大きな岩に抑え込まれたように微動だにしそうもない筋肉質の身体はそのままつくしを覆いつくすようだ。

「ぐッ」

痛みを突き離すように床に投げ出されたつくしを唇に血をにじませた亜門が見下ろす。

抗うつくしのその顔に押し付けられた唇をつくしの歯がとらえて傷を負わせた必死の抵抗、

舌先に感じる生臭いにおいと味がつくしの口内にわずかに残る。

「ここまで、拒まれたのは初めてですよ」

不愉快さを隠すように亜門は口角をわずかに上げて笑みを作る。

亜門がもう一度つくし姫に近づこうと膝を折ったその時、あわただしい足音が廊下に響く。

その足音は迷うことなく奥まったこの部屋に近づくように大きく響く。

闇を引き裂くように開かれた扉。

仁王立ちの状態でじっと二人を見つめて対峙するその顔はそっくりといっても過言ではない。

「貴様ッ」

怒りの感情をそのまま絞り出す声。

胸元を見出し床に倒れこむつくしの姿と、そのつくしを襲おうと肩に手をかけようとする亜門の姿が司に衝撃を与えたのは間違いない。

冷静につくしを探していたはずなのに目の前の状況が、一瞬にして司の感情を爆発させる。

抑え込んでいた司の感情の糸がどこかでプツリと切れた音が聞こえた。