戯れの恋は愛に揺れる 37
おはようございます。
台風の影響はいかがでしょうか?
珍しく学校も臨時休校にならず、子供はがっくりと肩を落として家を出ていきました。
さてこのお話もうしばらくお付き合い願いたいと思います。
『最上階~』の続きをお待ちの皆様方にはもうしばらく我慢を強いることとなりますがお許しくださいませ~。
「もっと、やさしくできないのか」
傷に塗り込まれた薬草は予想以上に痛みを伴い皇子は顔を歪める。
「泣いて損した気分・・・」
頭の上から自分に注がれる皇子の視線を感じながらツンとした声を発したつくし姫は顔も上げずに司の腕に包帯を巻く。
床に倒れこんだつくしの身体に覆いかぶさる司の重み。
一瞬の出来事に戸惑いながらも、亜門が切り付けてきた恐怖はつくしの身体を覆いつくした。
それでも互いにつくしを、司を守らなければと思ったのは覚えている。
床に強打した背中の痛みを感じながらも頭を抱え込んだまま自分の身を守ってくれた熱い皇子の息が頬に触れる。
必死で司の身体の下から這い出して「皇子」と叫んだつくしの瞳は涙で潤んで視界がぼやけて皇子の表情もうまく見れない。
「傷は!」
「死んじゃ、ヤダ」
襟にしがみついた指先は震えてうまく力が入らない。
「ツッ・・・・」
二人の前方から聞こえたうめき声。
強かに腰を打ったようで起き上がることもできずに亜門が座り込んでいるのが見えた。
「え・・・?」
体勢からいえば亜門は自分たちと一緒に倒れこんでいてもおかしくはないはず。
位置関係のバランスが異様に映る。
「死んじゃねぇよ」
司皇子は胡坐をかくように床の上に体を起こした。
「お前は大丈夫か?」
司の問いかけにつくしはこくんとうなずく。
「だよな・・・
すげー勢いで足蹴りしてたもんな」
何のことかわからないきょとんとした表情のつくしを前に司はくくっと笑みをこぼす。
「わかんねーの?
あいつが床に転がってるのは、お前の足蹴りが横っ腹を直撃してああなってんの」
「え?」
もう一度倒れて起き上がれに亜門に視線を投げながら、つくしは自分がやったとは到底認識できないっといった表情で司に視線を移した。
「おかげで、俺はかすり傷で済んだ」
袖口からツーっと一筋流れた血筋が司の指先からぽたりと床を赤く染める。
「血が・・・」
「大したことねぇよ」
肩口を抑える司に、つくしは自分の腰ひもをほどいて血止めをするようにぎゅっと肩に結び付けた。
「往生際が悪かったな」
亜門を連れていくあきらの君。
「司の大太刀回りもかすんだな」
司の傷を確認した後、安堵の表情を浮かべながら総二郎の君はつくしに微笑む。
「応急処置頼むよ。俺より姫のほうが司はおとなしくしてるだろうしね」
いつの間に準備していたのか類の君は薬箱をつくし姫に手渡した。
水で洗い流した後の傷は確かに司のいうように浅く、血止めを塗れば収まりそうだ。
ほっとして息を吐きながらもつくしは流れ落ちてきそうな涙をぐっとこらえる。
自分を助けに来てくれた皇子にけがまで負わせたのだすまない気持ちが無性にこみ上げて泣きたくなる。
それなのに、さっきから、手当てをするたびに司は痛いとか、やさしくしろだとか、ふてぶてしい態度で全くやさしさを感じない。
泣いて損した。
本気でつくしは思い始めて手に取った薬草を必要以上に司の傷口に塗り付けていた。
「なにもされてねぇだろうな?」
手当てが終わって薬箱を片付けてようとしたつくしの手が止まる。
脱ぎ捨てられた打掛け。
司の腕に縛った腰ひもがなくなった分、下着を隠すようにつくしは小袖を羽織っているだけの状態のままだ。
貞操は守った。
唇を重ね合わせたのは一瞬で・・・
それでも、司に問われるとなにもされてないとは言い切れない自分がいる。
「何か、されたのか!」
たたみかけてくる司の瞳が怪しく光ってつくしを腕をつかんで引き寄せた。
「抱き着かれただけだし、
口づけされそうになったけどあいつの唇を噛んで逃げだしたから」
「噛んだってことは触れたんだよな?」
不機嫌にゆがむその表情は怒りを隠そうともせずつくしに詰め寄ってくる。
「亜門のやつ、ぶっ殺しておけばよかった」
突然床から立ち上がった司は憮然と言い放って亜門の連れていかれ方向に今にも走りだしていきそうな勢いだ。
「ダメッ」
今頃朝廷の役人に引き渡してあるはずの亜門を司といえども勝手にできないことは司も承知している。
勢いで言った司を必死で止めようとつくしがしがみついてくる。
「この件にお前がかかわってることは内緒にしとかないとあとあと面倒になるから、
なにもしない」
「お前を屋敷から無理やり連れだしたのは俺だということで決着をつけるから、そのつもりでいろ」
そう言い終わった司はふわりとつくしを抱き上げた。
抱き上げられた不安定さにつくし姫は慌てて司の首にしがみつくように腕を回した。
「俺から離れるな」
戸惑いを浮かべるつくしの唇に司は触れそうなくらい美しい司の面容が近づいてくる。
「二度と離すつもりもないけどな」
色気を帯びたまなざしでじっと見つめられかすれた司の声につくしは衝動的に司の唇に自分の唇を重ねてしまっていた。