恋をいたしましょう

 ☆恋をいたしましょう

1話:こいをいたしましょう

作:しぎりあさん

-From 1-
『合コン相手募集中!僕たちと楽しい時間を過ごしませんか?当方、皇帝陛下のお覚えめでたい将来有望な美丈夫ぞろい 三隊長+1』


「みぃぃぃたぁぁぁんん!」
 地獄の底からのような凶悪な声で、ルサファが兵舎の戸口にたった。手には、文字の書かれた木札を持っている。
「よう、ルサファ。風邪か?声がヘンだぞ」
 ミッタンナムワが、脳天気に振り返った。机の上には、ルサファが握りしめているのと同じような木札が積み上げられている。めざとくそれを見つけると、ルサファはミッタンナムワの胸ぐらを掴みあげた。
「おまえか!おまえなんだな!?」
「おいおい、俺以外の誰に見えるっていうんだ?」
 怒りに、ルサファが口をぱくぱくさせていると、今しがた入ってきた扉が轟音とともに吹き飛んだ。
「ミッタンナムワァァァ!!」
 スピード自慢の戦車隊隊長、カッシュだ。戦車に乗っても速いが、足で走っても速い。健脚で扉を蹴り壊して入ってきた。
「これは、なんだぁぁ!!」
 木札を突き出す。木札には楔形文字だけではなく、らぶりぃな花模様まで描いてある。
「なにがって・・合コン相手募集案内だ」
「カッシュ!?それをどこで?」
「王宮東の廊下つきあたりの、お知らせ掲示板でだ」
 言ってから、カッシュはルサファも同じモノを握りしめているのに気づいた。
「・・・これは、城門そばの掲示板に貼ってあった」
「王宮内のすべての掲示板に貼りだした。これから、市街の掲示板にも貼ろうかと・・」
「やめろぉ!!」
 同時にくり出されたパンチとキックをよけながら、ミッタンナムワは豪快に笑った。
「おいおい、照れるなよ。こいつは陛下の勅命でもある」
「勅命!?」
 思わず、ぴんと背筋が伸びたが、皇帝が合コン命令を出すはずがない、と思い直し、歩兵隊長をにらみつけた。
「忘れたのか?陛下は『子孫を残し、我らの子孫に永く仕えさせよ』と、おっしゃった。ユーリ様も立后され、無事ご懐妊となった今、我々もそろそろ、身を固めるべきではないか?そこで、だ」
 ミッタンナムワは、制作中の木札を掲げた。
「合コンをして、結婚相手をみつける!!」
 べつに合コンでなくても、他にいくらでも手段はありそうなものだが。
「だからって、掲示板にこんなもの貼る必要があるのか?合コンってのは、誰かの彼女の知り合いとかを紹介してもらえばいいことだろう?」
 カッシュがうなる。みょうに詳しい点が、ちと不審だ。
「だーめだ」
 ミッタンナムワが、ちっちっと指を振った。
「ここに、いるやつで、彼女持ちはいるか?」
 がーん。いなかった。さっきまでの怒りもどこへやら、しんみりしてしまう。
「気にするな(あんたに言われたくない・・・)軍隊ってのはむさ苦しい男ばっかりで、出会いの機会がない場所だ。だから、合コン」
 言われてみれば、なんとなくミッタンナムワが正しいような気がしてくる。
「合コンはいいとして、三隊長+1ってのは、なんだ?俺たちの他に、誰かいるのか?」
 ルサファが口にする。まさか、キックリじゃないよな。双子で手一杯のはずだし。それとも、イル・バーニ!やばい、口のうまさで人気独り占めされるかも・・・(けっこう真剣に考えている)
「おまえは、+1のほうだ」
 ミッタンナムワがあごで示す。机の向こうの方で、まったく目立たずにシュバスが木札に花模様を描き込んでいた。
「・・・シュバス・・・」
「こいつは、どうも人が良すぎて、女から最後には『シュバスっていい人だけど、友達以上には思えないの』と言われちまうタイプだ」
 ミッタンナムワの言葉を聞くと、新弓兵隊隊長は、筆を取り落とし机に突っ伏した。
・・なにか、つらい過去でも思い出したのだろうか?
「と、いうわけで、合コンをし、新たに出会い、燃えるような恋をして、一気にゴールインしてぼろぼろ、子供を作る」
 完璧だろう。ミッタンナムワが胸を張ると、シュバスがつっぷしたまま拍手を送った。
「・・・こ・・い・・」
 ルサファとカッシュは、ミッタンナムワの口からあまりにも似合わない言葉が出たので、呆然とした。
   


2話:盛り上がらなくて、どうする!?

作:しぎりあさん

-From 2-
「た、大変です!ミッタンナムワさん!!」
 シュバスが走り込んできた。
「さん、はいらねえ。おまえも隊長だろうが!」
 ったく、落ち着けよ。ぶつぶつ言いながら、ミッタンが振り返る。鉄剣の手入れ中で、ぴかぴかに磨き上げた刀身に自分の姿を映して悦に入っていたところだ。
「すみません・・でも、大変なんです!」
「なにが?」
 鏃を矢柄にくくりつけていたカッシュが顔をあげた。
「合コンの申し込み、来たんですよ!」
「ええっ!?」
 同時に声があがる。もちろん、ルサファもいた。
「どんな、女だイケてるのか?」
「イケてるも何も、元老院議員のお嬢さんがたですよ!!」
元老院議員のお嬢さんが、なんで掲示板を見るんだ?」
「・・・父親の差し金だな」
 なんといっても、現皇帝のお覚えめでたい側近である。娘を嫁がせたいと願う議員がいても、おかしくない。
元老院議員のお嬢さんなんて、身分が高すぎます。一晩遊んでポイなんてわけにはいきませんよ~」
「・・・シュバス、お前いいひとなフリして悪人だな」
 そうか、身分が高くて、美しい(かもしれない)深窓の令嬢などにお目にかかる機会は滅多にない。ミッタンは、不敵に笑った。
「俺は、陛下やルサファと違って女には乗馬能力や、剣の腕前や、気の強さなんて求めない(別に、二人が求めていたわけではない)、むしろ、カッシュのように胸のでかい女が好きだが、とくにそれにこだわるつもりもない。ただ、軍人として、帰るべき家に安らぎをもたらしてくれる女がいい」
「それと、燃えるような、恋、です!」
 うっとりと、シュバスが言った。 
  

3話:予想通り

作:しぎりあさん

-From 3-
 いやがるカッシュとルサファを説き伏せて、なんとか日にちのセッティングも済ませた。あとは当日の頑張りだ。
「ミッタンナムワさん、この服地味じゃないでしょうか?」
 シュバスが、いつもと全然変わらない服(少し上等かも知れない)を見せる。
「いや、似合ってるよ」
 性格の地味さに。ミッタンは頭を磨きながら適当に応える。
 カッシュとルサファは不満そうに、それでも装身具を磨いている。
 相手は元老院議員のお嬢さん。相手にとって不足はない、とはこのこと。
「ねえねえ、聞いたよ!!」
 叫び声と共に、飛び込んできたのは、皇后ユーリだ。
 あわてて室内のものが立ち上がる。
 ユーリはぴょんぴょん飛び跳ねながら(確か、懐妊中)嬉しそうに言う。
「あなたたち、合コンするんだって?」
「ええっ、どこでそれを!?」
 ユーリはいつぞやの募集広告を取りだした。
「噂になってるし、これも見つけたの!!」
「ユーリ様、私は決して・・」
 ルサファが言おうとしたが、ユーリはひらひら手を振って言葉をとめた。
「いいのいいの。でね、相談なんだけど・・・あたしも合コン、出ていい?」
「いけませんっ!!」
 同時に叫んだ。そんなことが皇帝に知れたら、どうなるか分かったもんじゃない。おまけに、しつこいようだがユーリは妊娠中だ。
「大丈夫だよ~カイルには黙っとけばわからないし。それにね、あたし女の子で出るんじゃないよ、男として出る!!」
「はあ・・」
 合コンに男として出てなにがあると言うのだろう。なにかあっても困るが。
「あたしね~合コンしたかったんだ~女子大生になったら!!でも、こっち来ちゃったでしょ?アバンチュールとか出来なくて・・」
 遠くに目をはせながら語り、急に服を取り出した。
「イル・バーニから服借りたの!!見習い中の書記ってことにして!!」
 イル・バーニ、なんで服なんか貸すんだ。4人はめまいを感じた。 

4話:合コンのお勉強

作:ポン子さん

-From 4-
「さぁ、これで準備はできたわね。」
ユーリが張り切って言う。
「はい、ユーリ様。」
4人が声をそろえて言う。
「ちょっと、ちょっと、私は男として合コンに参加するんだから、ユーリ様はやめてよね・・・。そうねぇ、ユーリをさかさまにして、リュウ。うーん、リュウじゃ平凡すぎるから、リューイにしよう。わかった?リューイよ。」
ため息まじりにミッタンナムワがつぶやく。
「また、一人で目立とうとするんだから・・・。平凡なほうが我々にとっては都合がいいのに・・・」
「ん?なんか言った?ミッタンナムワ?」
ノー天気にユーリが聞いてくる。
「・・・いいえ、何も・・・。ハァ~。」

いざ出陣!!という所で、ユーリが大きな声を出した。
「そうだ!!」
「ちょっとみんな、合コンの盛り上げ方ってちゃんと知っているんでしょうね?山の手線ゲームとか、席変えのタイミングとか・・・」
「???ヤ、ヤマノテセンゲーム・・・?何ですかそれは・・・」
シュバスが不思議そうにたずねる。
「ほらほら、言わんこっちゃない。よし、まだ待ち合わせまで2時間あるから、山の手線ゲームの特訓をするわよ!」
なぜかユーリがいつも以上に生き生きと見える・・・。
(こんなところを陛下に見つかったら・・・・かなりヤバイ・・・)

草むらで、5人が丸くなっている。
「いい?山の手線ゲームっていうのは、ひとつの『お題』があって、それに連想して言葉を続けていくゲームなの。で、詰まっちゃった人が負け、って言うやつ。わかった?」
「はぁ・・・。」
「じゃあ、やってみよう。お題は・・・『カイル!!!』私からね。」
パン♪パン♪
ユーリは一人ノリノリで手をたたき始めた。
しょうがなく、残りの4人も手をたたく。

パン♪パン♪「かっこいい!」(ユーリ)
パン♪パン♪「えらい」(シュバス)
パン♪パン♪「もてる・」(ルサファ)
パン♪パン♪「スケベ」(ミッタンナムワ)
パン♪パン♪「キスがうまい!」(ユーリ)
パン♪パン♪「強い」(シュバス)
パン♪パン♪「幸せそう・・」(ルサファ)
パン♪パン♪「ヤキモチ焼き」(ミッタンナムワ)
パン♪パン♪「テクニシャン!」(ユーリ)
パン♪パン♪「肩幅広い」(シュバス)
パン♪パン♪「うらやましい・・・」(ルサファ)
パン♪パン♪「人の目なんか気にしない」(ミッタンナムワ)
パン♪パン♪「床上手♪♪」(もちろんユーリ)
パ・・・・ン・・・・。
「。。。。。」
「ユーリ様・・。それはちょっと・・・。」
(はっ)←ユーリ
「ハ八、ごめんごめん、なんだか楽しくなってきちゃって・・・じゃあ、もう一度ね。」
「さぁ!次のお題は~~~!!!」
中庭にユーリの大きな声が響き渡る。
こうして、まだまだ、5人の山の手線ゲームは続くのであった。




5話:はめはずしすぎるなよ

作:あかねさん

-From 5-
「ユーリ様、そろそろお時間なんですけど・・・・。」
「あっ、本当!?急がなきゃね!・・・あっ、言葉遣い直さないと・・・。」
いちいち細かいことを気にしているユーリ。
ユーリ様がいた世界の合コンは、こんなに大変なものなのか・・・と、
四人はしみじみと思うのだった。

「あら、あなた方が陛下の御側近の方たち?まぁ、かっこいい!」
合コンの現場(街の酒場)につくと、綺麗なお姉さん達が待っていた。
みんな色とりどりに着飾って、めまいがしそうだ・・・。
「あぁ、まずは自己紹介?俺は、ミッタンナムワ!歩兵隊長だ!!」
磨きに磨いた頭が、ぴかぴかと光っていてまぶしそうだ。
「・・・・・ルサファ。近衛副隊長です・・・。」
ぼそっとぶっきらぼうなのは、元々賛成してなかったルサファ。
ただでさえいやなのに、ここにユーリがいるからもっと困っているのだ。
「シュバスです!!弓兵隊長やってます!!」
地味なわりに明るくでたシュバス。
「・・・・・カッシュ。戦車隊長。」
こちらも、あまりのりきではない。そして最後に・・・・・。
「あた・・・・ぼ、僕リューイ。よろしくねぇ!!」
一番乗り気なユーリ様。しかも一番目立ってる・・・・・・・。

姫君達の自己紹介も終わり(長い名前だから、省略)いよいよ本番。
「私、リューイ君気に入ったわ。みなさんはどお?」
「あら、私はルサファさんよ。それか、カッシュさんね!!」
「そぉ?シュバスさんも結構いいと思うけど・・・・・。」
ひそひそと、しかし聞こえるような声で姫君達はささやきあう。
「おい、姫君達にはユーリ様のことばれてないのか?」
「あぁ、そうだな。陛下が凄く心配している気がする・・・・。」
「なぁ、こんな所見つかったら・・・俺達やばいな。」
「陛下、怒りますかねぇ・・・・・。」
今四人の心の中は別の不安でいっぱいだ。
しかし、当の本人は・・・・・。
「「きゃ~ん。やっぱり合コンって楽しいじゃない。今度は女の子として出たいな。
  あっ。ギュゼル姫に頼んでみようかなぁ・・・・・。」」

そして、その頃の王宮は・・・・・。
「陛下、まだ政務が終わってませんので!!」
ユーリの合コン行きを知っているイル・バーニは、必死でカイルを政務室にとどめていた。

6話:口止め

作:しぎりあさん

-From 6
イル・バーニは焦っていた。
 カイルが、ユーリが合コンに出かけたことを知ったら。あまつさえ、自分の服を着て変装していった事を知ったら。
 イルとて、服など貸したくはなかった。けれど、ユーリには見られてしまったのだ。
 口止めとして要求されれば、従うしかなかった。

 秘密。
 イルの自慢のストレートヘア。
 薄暗い書庫に、書物をさがしに入ったとき、うっかり燭台の火が着いてしまった。
 幸い何本かがカーリーになっただけで消し止めた。が、しかし。その数本をナイフで切り取ろうとして・・・ばっさり。
 いまや、イルの髪はつけ毛である。留めてある、と見せかけて接いであるのだ。
 接いでくれたのはユーリ。
 床に落ちた髪の束を見て硬直するイル(どうやら短くなると、感覚が鈍るらしい)に気づいたユーリが、丁寧に束ねてつけ毛を作ってくれた。
「でも、ニセモノなのよね」
「ユーリ様、このことはどうぞ、ご内密に」
「いいよ」
 ユーリはにっこり笑った。

「どうして、私がユーリに会いに行ってはいけないのだ?少し顔を見るだけだ」
「陛下、急ぎの仕事がございます!!」
 ああ、こんなことなら。いっそ、つけ毛だとばらされる方が良かった・・・ 

7話:こまし

作:しぎりあさん

-From 7-
 イル・バーニが孤軍奮闘しているとき、何も知らないユーリはちゃっかり姫君の一人とツーショットになっていた。
 盛り上がりすぎた合コンメンバーはそのまま二次会の店に流れることになったのだが、姫君の一人だけが帰ると言い出した。
「じゃあ、ボクも帰るよ」
 ユーリも言った。なにしろ、一応妊婦なんだから夜遊びは良くないだろうし、そろそろ後宮に戻らないとカイルも帰ってくる。
「そ、そうしたらいい」
 三隊長+1は、内心安堵しながら同意した。しつこいくらいに、真っ直ぐ家に帰るように(王宮だが)念を押す。
「家まで送って行くね」
 姫君に言ったのは、やっぱり女の子一人で帰らせるのもどうかと思ったからだ。(自分も女の子なんだが)


「リューイさまは・・・書記見習いではありませんね」
 姫君が、ぽつりと言った。盛り上がる宴会の間も、ひとり大人しかった姫だ。静かにしていて目立たなかったが、そうとうな美人である。
「え?」
 やっぱり、服がぶかついていたせいかと、ユーリは思った。
 くすり。姫が笑った。
「だって、その香はとても高価なもの。書記見習いがつけられるものではありませんわ」
「そ、そう?」
 ユーリは香をたく趣味はないので、やっぱりこれはカイルの移り香だろう。
「そのような香は、皇族の方や・・・皇帝陛下」
「こ、皇帝陛下に会った・・お会いしたことがあるのですか?」 
「いいえ・・・遠くからお姿を拝見しただけ」
 姫君が、うっとりと思い出すような目をした。どうやら、この姫もカイルのファンであるらしい。
 ユーリは、姫を観察した。美人だけど、控えめで、おまけに胸が大きい。
 はっきり言って、かなりカイルが好みそうだ。
「姫は、陛下のことを・・」
「まあ、私ごときが陛下のお側にゆけるとは思っていませんわ」
 姫君が淋しそうに否定した。
 ますます、カイルの好みのようだ。大人しくて、胸が大きい。
 大人しくも、胸が大きくもないが、皇帝の寵を独占しているユーリはため息をついた。
「・・・貴女ならきっと、陛下もお気に召すでしょうに・・・でも良かった」
「・・え?」
「・・・貴女が、陛下のものにならなくて・・・」
 姫がユーリの顔をまじまじと見つめた。と、その美しい頬が朱に染まった。
「リューイさま・・私、ここで結構でございますわ・・送っていただいて、ありがとうございました!!」
 言うと身を翻した。
「あ!!」
 待って、のポーズでユーリが固まる。真っ赤になった姫君の顔。よく、考える。
(もしかして、私・・コマしてる!?)
 その通り!!がんばれユーリ、あと一押しだ!!(押してどうする?) 
 

8話:追跡

作:ひーちゃん

-From 8-
姫の後姿を見送りながら
ユーリは自分が急いで宮廷に戻らなくてはならないことを思い出した
「早く帰ろっと♪」
そうだこんなとこで女性をこましてる場合ではないーーー
とイル・バーニが居たら頭を抱えてるであろう
そんなイルのことなど思い出すはずもなく
「今度の合コンはいつだろうかな
出来たらおなかの目立たない頃までにもう一回」などと
ユーリは合コンが御気に召したらしくスキップ状態で家路を急いだ
「今度は王様ゲームでもみんなに伝授しなきゃ
でもこっちだと皇帝ゲームかな」
頭の中は次の合コンの企画でいっぱいだ
そのため警戒心まったくゼロ状態で自分の後をつけるふとどき者が居る事など
気づくはずもなく宮廷の門をくぐった
そのふとどきものはそれを確かめると
後をつけるように申し付けられたご主人に早速報告した
「宮廷に帰られました」
「やっぱりあの方は、どこかの国の皇子か皇室関係の方なのね」
はやくお父様に言って黒髪の黒い瞳の16~7才の男性のリストを作ってもらわないと」
そこには自分はリョーイほれられてるとすっかり信じきり、目を輝かせ
これからの恋愛ストーリにうっとりしている姫君がいた
なんと罪作りなユーリ

9話:なみだ目

作:しぎりあさん

-From 9-
 ユーリはるんるん気分で自室に戻った。
 合コンは盛り上がったし、首尾良くぬけがけもできたし(おいおい)、それに同世代の若い女の子と話すのは楽しかった。なにしろこちらに来てから、ユーリは若い女の子には殺されかけるか、いじめられるか、崇拝されるかしかしていない。
(おまけに、イマドキの流行もわかったし)
 鼻歌混じりにイルの服を脱ぎ、寝台の下に押し込んだ。シワになるかな?
 いつもの服に着替えていると、皇帝の来訪が告げられる。
「カイル~」
 入ってきたカイルに抱きつく。今日一日は楽しかった。最後に大好きなカイルの顔が見られるのだからなお楽しい。
「ユーリ、会いたかった。実はイル・バーニがな・・」
 ユーリを抱きしめながらカイルが言う。
(イルがどうしたんだろう?つけ毛がバレたのかな?)
 ちょっとだけ心配していると、カイルの言葉が止まっていた。
「?」
 いつもは、ユーリを抱きしめながら、その日あったことを(執務室の中でたいした事があるわけでもないが)くどくどと喋るカイルだったが、この日は違っていた。
「・・・ユーリ、お前この香り・・」
 言うと、いきなりカイルはユーリの身体を嗅ぎだした。鼻をくんくんいわせている姿は、散歩中のアライグマのようだ。
「カ、カイル?」
「私以外の男の匂いだ・・・イル・バーニか!?」
 素晴らしい鼻だ。さすが一国の皇帝ともなると常人より優れた能力を持つらしい。
(あ、イルの服着ていたから・・!)
「ユーリ、なぜお前の身体にイルの移り香がある?・・・そうか、今日イルがお前に会いに行く私をとめたのは、お前に会っていたからだな!!」
 物理的に考えて、カイルを引き留めていたイルがユーリに会えるはずもないのだが、嫉妬に狂っているので考えがおよばない。
「え、な、なに言ってるの?」
 心のうちにやましいところが全くない、とは言えないユーリが(ツーショットだったし)焦っていると、カイルは寝台に歩み寄り、下からイルの服を引っぱり出した。
 重ねがさね、すごい鼻だ。
「これはなんだっ、ユーリっ!!」
「・・・イル・・の服・・・」
 これは、下手な小細工はしない方が良いのではないか、とユーリは思った。


 そのころ、イル・バーニは泣いていた。自室で、切れてしまった髪の毛(つけ毛)を梳かしながら、めそめそと。
「ああ、こんなことになるなんて・・・自慢の髪だったのに・・・」     


10話:ば、ばれる~~~。

作:ポン子さん

-From 10-
「どういうことなんだ、ユーリ。説明してくれ・・・。」
目をつぶったまま、ユーリの告白に耐えようと準備しているかのような表情のカイル。
(ヤバイ、やばい・・・。どこまで話せば納得するんだろう。身重の身体で合コンに行ったなんていったら怒るだろうし・・・)
「う~んと・・・。話せば長くなるんだけど・・・。」
「長くても短くてもかまわない。事実を話せ。」
(ははは・・・。これはマジで思いつめちゃってるよ。カイルってば。)
「あのね、私暇だったの。」
「ん?!」
「赤ちゃんがいるから遠乗りにもいけないし、3姉妹は忙しそうだし・・・。
で、思いついたのが着せ替えごっこ。」
「き、着せ替えごっこ?」
創造していた方向とは違うほうへ話が進み困惑気味なカイル。
「そう。私の国では、女の子は着せ替えごっこをして遊ぶのか好きなの。いろんな服を着たり、着せたりして遊ぶの。それをしていたのよ」
「う~む・・・。」
「私、男の子っぽい服はいつもきているし、女の子っぽい服はあまり好きじゃないし。
で、思いついたのがイルの服だったのよ。イルにお願いして借りちゃったの。」
「イルがおまえに服を貸した・・・。あのイルがよく貸したな・・・。」
(脅迫して借りたんだけどね・・・。)
「う・・ん・・・。外に出て行かれるよりはまし・・・とか何とか言って貸してくれたんだよ・・・。」
「なるほど・・・。確かにこのイルの服にはおまえの髪の毛もついていて、
イルが脱ぎ捨てて行ったというより、おまえが着ていたというほうがしっくりくる。」
(よしよし、もう一押しね)
「今度はカイルの服を借りちゃおうかな~?なーんて!!」
カイルがにやっと笑う。
「借りるのは服だけでいいのか?外側だけでなく内側にももっと興味を持ってもらいたいものだが。」
「え、カイルってば何言ってるのよ。」
ほほを赤らめるユーリ。
そうだよな。このごろ忙しくって、あまりユーリにかまってあげられなかったからな。
暇だったなんてかわいそうに・・・。これから私がたっぷりとかわいがってやるからな。
ユーリにうまく丸め込まれたカイルはユーリを押し倒しながら、イルの服を床に放り投げた。
「あっ、カイル・・・」
「いいから何も言うな・・・。明日は暇な時間がありがたく思えるくらいにさせてやる。」
そういいながら、カイルの手はユーリの身体をまさぐり始めた・・・。
(なんだかうまくいったみたい、良かった。)
ここは、カイルの好きなようにさせておいたほうがいいと判断したユーリは
カイルと共に絶頂へと駆け上っていった。

「イルに服を返さないといけないな・・・。」
1戦どころか3戦を終えまどろんでいたときにカイルがつぶやいた。
「おまえを退屈させた私も悪いが、私の妻に自分の服を貸すイルをちょっといじめてやりたい。」
いたずらな目をしてカイルが言う。
しかし手はまだちゃっかりとユーリの身体を探検中。
「ちょっとカイル。イルは私のために服を貸してくれたんだよ。私が無理やり借りたんだから、変な事言ってイルをいじめないでよ。」
せっかくうまくいきそうだったのに、慌てるユーリ。
「わかっている。少しいじめるだけだ。では、早速イルの部屋に行ってくる。」
「あっ、ちょっと待ってよカイル・・・。私も行く」

イルはまだ自分の切れてしまった髪(付け毛)を眺めて悲しみに暮れていた。
身体の一部のように大切にしていた髪。何でこんなことに・・・、ううっ。
「イル、はいるぞ。」
ハッ!陛下。なぜこんな時間に・・・。
しかも今は髪がついていないというのに・・・。
「陛下、しばしお待ちを。どうかなさいましたか?」
かなり慌てているイル。
カチャ。
イルのお待ちくださいなど聞いていないカイルは部屋に入ってくる。
万事休す。イルはとっさに髪を頭に当てる。
「陛下、何か・・・?」
「ユーリにおまえの服を貸したと聞いたが・・・。」
ドキッ。ばれてしまったのか・・・。
果たしてばれたのは合コン参加か私の髪か・・・。
「い、いえ、出すぎたことをしてしまい・・・。」
しどろもどろのイル。
そこへユーリが慌てて部屋に入ってくる。
「こんな夜中にごめんね、イル・バーニ。カイルに着せ替えごっこのためにイルに服を借りたって話したら、陛下がいるにお礼を言うとか何とか・・・。」
ユーリもかなりあせっている。
合コンのことはカイルに話していないのにイルにバラされてはかなわない。
と、イルの頭に目をやると、イルは手を頭に当て、髪を必死に抑えている。
「お礼・・・。まぁ、そんなわけだ。イル、ユーリに貸した服を返しにきた。」
服をイルに差し出すカイル。
イルは受け取ろうとしてハッと気づく。
片手が使えない・・・。
陛下から物を受け取るのに片手というわけにはいかない。
しかし両手で受け取ると髪の毛が・・・。
ヤバイ、ヤバイ、バレル、バレル、どうしよ~~~う!!!
「どうしたのだ、イル?それにさっきから頭をおさえているが。怪我でもしたのか?見せてみろ。」
「い、いえ、何でもありません。」
慌てて後ずさるイル。

いぶかしげなカイル。おろおろするユーリ。片手を頭にやったまま硬直するイル。
夜空に星が一つ流れていった。

11話:一時的回避

作:あかねさん

-From 11-
 「あぁ、カイル!!いたい!!足首ひねったみたいなの!!」
イル・バーニがおろおろしていると、ユーリがその場に倒れ込んだ。
カイルとしては、イル・バーニの頭よりもユーリの方が大切だ。
服をぽいっと投げ出してユーリを抱きかかえた。
「イル、医者を呼べ!!」
カイルは急いで、自分の部屋へと帰っていった。
「・・・助かった・・・・・・。ユーリ様のおかげだ・・・。」

翌朝。
ユーリはベットに縛り付けられていた。
「そんなにひどくないんだから、いいでしょ!?」
「ダメだっていってるだろ!?」
イル・バーニはあの後、急いで髪の毛をつけると医者を呼びにいった。
しかし医者にそのまま診察されては、ウソがばれれてしまう。
そこで、イル・バーニ。機転を利かせて、こういったのだ。
「陛下は、ユーリ様の脱走をくい止めたいとおっしゃっていた。
 そこで、そなた達には偽の診察を・・・・もちろん、陛下は納得済みだ。」
そういうわけでユーリは、ベットに縛り付けられているのだった。
「ユーリ様、足の具合はどうですかな?」
朝早くにおきて、きちんと髪の毛のセッティングをしたイル。
しかしユーリの視線は、イル・バーニに対して冷たかった・・・いや、
恨みがこもっていた。
「「せっかく助けてあげたのに、なんだ!この仕打ちは!!」」とでも、いうように。

12話:あとしまつ

作:しぎりあさん

-From 12-
ほくほく顔の元老院議員が、訪ねてきたのは、その日の昼だった。
 議員は、まずミッタンナムワ(合コンの企画者)のところに来た。
「ミッタンナムワ様、お元気ですかな?」
「・・・ああ、元気だ」
 見かけない顔だ。ミッタンは、不思議そうに見る。
「・・・いや、遠回しはやめましょう。実は、先日、娘が合コンに出ましてな」
 なるほど、と納得する。誰か気に入った相手がいて、父親を通しての交際申し込みだろうか?
「それで、ですな。娘はすっかりのぼせあがってしまって・・殿方も、かなり乗り気だと伺いましたので」
 誰だ、それは。ミッタンは考える。たしか、ルサファは二次会で隅の方で黒髪美人に涙目でくどくど話を聞いてもらっていた様な気がする。カッシュは、金髪のグラマーとどの馬に賭ければいいのか盛り上がっていたような気がするし。シュバスは赤毛の太い目に、私の注ぐ酒が飲めないのかと絡まれていた。俺は、栗毛の細身と飲み比べをしていたな。あの女は強かった。
「殿方は、リューイ様とおっしゃられるのですが・・」
「リューイ!?」
 ミッタンは大声を上げた。真っ直ぐに帰ったんじゃなかったのか!?
「ええ、なんでも、かなり積極的でいらしたとか・・それで、やはり父親としても一度会ってお話をしたいと」
 議員は嬉しそうに言った。相手は、かなりの身分の人物がお忍びで来ていたようなのである、娘の話では。
「リ、リューイは・・・」
「リューイ様は?」
 ミッタンはごくりとつばを飲み込んだ。
「実は、イル・バーニ様のゆかりの方なのです」
 ああ、イル・バーニ、許せ。
「なんと!あの、皇帝陛下の乳兄弟のイル・バーニさまの!?」
 議員は、大喜びで声をあげた。 

13話:責任

作:あかねさん

-From 13-
「え、えぇ。それで、実はデスね。・・・そう!もう国に帰りました!」
なーんてはなしを、聞いているはずがなかった。
もうその場に、議員のすがたはなかった。

「お~い!大変だぞ!ユーリ様に思いを寄せる女性が現れ・・・もごっ!」
ミッタンは、このことを他の連中に知らせようと走ってきた。
しかしすべてを言い終わるまえに、ルサファに口をふさがれた。
「ばかっ!このことは内緒なのに、大声で話すな!!」
「あぁ、すまん!しかし、ユーリ様のことを大変気に入った方が・・・・・。
 それで、とっさにイル・バーニの名前を出したんだが・・・・・。」
ミッタンは、そのことを話した。
当然、何個頭が増えようと解決策など見つかりもしない。
いまさら、リューイはユーリ様でした♪なんていってみろ!
まずは皇帝陛下だ。(一番恐ろしい)懐妊中の最愛の妃を合コンなどに連れだした
のがばれれば、命の保証はない。
そして次ぎに、ユーリ様。
彼女は多分、それで陛下に怒られてその八つ当たりを我々にしてくる。
はっきり言って、ユーリ様の八つ当たりは怖い。
そして最後に、三姉妹。
懐妊中のユーリ様を外に出したことがばれれば、きっとすごいことになる。
・・・・恐ろしくて、想像もできない。
「とにかく、ここはいる・バーニ様にお任せしよう。」
一番の解決策だった。

一方その頃イル・バーニは・・・・・。
「陛下、ユーリ様の所へまいりませんか・・・?」
「なんだ、イル。行っていいのか?」
カイルは、これチャンス!とばかりに、後宮へ急いだ。
もちろん、イル・バーニも一緒に。
ユーリは足首捻挫のため、ベットから動けない(動いてはいけない))
カイルは、たわいもない話をしユーリはその間にこにこしていたが、
イル・バーニのことをうらみったらしい目でみていた。
コンコン
「失礼いたします、イル・バーニ様、ご来客です。」
「おぉ!イル・バーニ様。これは、陛下、皇妃様。・・・少し、お話が。」
「イル、行ってやれ。」
カイルは、イル・バーニがいなくなればもっと長い時間政務をさぼれると思い
イル・バーニを行かせた。
パタン
「イル・バーニ様、実は合コンに来ていたリューイ様のことなのですが・・・。
 なんでも、イル・バーニ様のゆかりのものとか・・・・・?」
イル・バーニは、悟った。
三隊長+1め!責任を押しつけたな!!


14話:どうにもこうにも

作:しぎりあさん

-From 14
「・・・やっと、二人きりになれたな」
 カイルがにこにこしてユーリの手を握った。別に、朝だって夜だって二人きりなんだが、この際どうでもいいだろう。今この時、二人きりというのが重要なのだ。
「あ、そうだね・・嬉しいなあ」
 出ていったイルを恨みながら、ユーリはとってつけたような明るさでこたえた。
(あたしひとりでカイルを誤魔化せって言うのね?)

 ユーリに恨ませているイルは、もっと苦境に立たされていた。
「リューイ・・・」
「そうです、イル・バーニ様!!」
 誰だ、リューイって。考え込んだイルだが、幸か不幸かポーカーフェイスなので不審に思われない。
「娘も、かなり本気でしてな」
「娘さんが、本気・・・」
 議員はすでに揉み手になっている。
「何しろ帰ってきてから、なにも手につかない様子で・・それで私がミッタンナムワ殿にお聞きすると、なんと、イル・バーニ様のゆかりの方だとか!」
「ミッタンナムワに・・・」
 ミッタンと言えば、合コン。合コンと言えば・・・ユーリ様。リューイ。ユーリ。
「そうか!!」
「そうです!!」
 謎が解けたとばかりにイルが大声を上げると、議員も叫んでイルの手をしっかり握った。
 汗ばんでいる。嬉しく、ない。
「リューイというのは実は・・」
「実は・・?」
「わ、わたしの・・・ゆかりの者でして」
 言えない。妊娠中の皇妃が男装してお宅の大事な娘さんをひっかけましたなんて。
「そうでしょう、知ってますよ」
 議員はうんうんうなずいた。
「あ~つまり・・・ち、父の・・・隠し子なので」
 済まない、父よ。田舎でのんきに盆栽を育てているはずの父親に、イル・バーニは詫びた。
「と、すると、異母兄弟?」
「そうです。長年秘密のだったので皆さんご存じなかったことですが」
 

15話:大事

作:あかねさん

-From 15-
「はい、それはもう初耳で!!そうですか、異母兄弟ですか・・・・。
 それで、イル・バーニ様。いつ頃ご紹介いたしてくださいますか?」
「えっと、ですね・・・。あぁ、だから、国から呼び寄せるのに一週間は
 軽くかかりますね。・・・ううん、そうだな。」
この際ここで、リューイはユーリ様です。
ごめんなさい。といえば、問題はなかったのだろう。
しかし、イル・バーニが恐れているのはそんなことではなくて、ただ一人。
カイルだ。現皇帝陛下だ。
今ここで、こいつにユーリ様のことを話せば、絶対に陛下の耳に入る!
陛下は、服のことを知っている=犯人はイル・バーニ。
きっと、何日かぶんの政務を押しつけられる・・・・・。
「イル・バーニ様。それでは一週間後、楽しみにしていますね。」
議員は去っていった。
まぁ、この一週間のうちに策を考えればいいさ・・・・。

しかし現実は、そう甘くはなかった。

「イル・バーニ!一週間後に、お前の異母兄弟が来るそうだな!?」
翌朝。どこをどうしたら陛下の耳にこの話が入るのか、イルには全く想像が
できなかった。
しかし、カイルは知っていた。
「お前に異母兄弟がいたなど初耳だな。しかも、黒い髪黒い瞳のかわいらしい
 男の子らしいではないか!!楽しみだな!!」
カイルは、すっかり乗り気だ。
そしてその後ろには・・・・・・。
「あら、イル・バーニ。異母兄弟が来るんですって?なんでも、元老院議員の
 お嬢さんがたいそう気に入ったとか・・・?お話があるから、部屋まで来て!」
この前より、事を大きくしてくれたわね!!!!!!
      *        ユーリのへや       *
「イル・バーニ!どうするの?カイルはすっかり乗り気だし・・・・。
 この際、その日に私が・・・・・・・。」
「いえ、それは無理ですな。きっと陛下は、ユーリ様を宴に参加なされる。
 つまり、席を空けれないということです。具合が悪くて休むのも無理。
 きっと陛下は、宴にはでないでしょうからね・・・・・。」
「じゃぁ、どうするの!」
「この際、陛下に本当のことを話されるのが一番です。陛下なら、きっといい知恵
 がおありになるはずだ。」
イル・バーニは、もうあきらめていた。
策がないことはない。
しかしこれを実行してしまうと、ばれたときに陛下のお怒りは二倍だ。
それならいっそ、今のうちに謝った方がいい・・・・・。

16話:脅迫

作:ポン子さん

-From 16-
「いや!カイルに本当の事を言うのは絶対だめ!」
「そう申されましても、ほかに手がありません。」
イルはユーリの目を見据えていった。
いくらイルの目が座っていようともそれで引き下がるユーリではない。
「そんなこと言ったら、私はまた後宮に閉じ込められて出産するまで出してもらえないじゃない。下手したら一生ここから出られないかも・・・。何とかいい策を考えてよ。元老院長官の腕の見せどころよ。」
「わたしの腕は別のところで見せるものです。」
さらっと流すイル。
ユーリの目がきらっと光る。
「ふ~ん、そんなこと言うんだ。じゃあ、カイルに全部イルのせいだっって言っちゃおうかなぁ~?イルに服を借りて遊んでいたら、あまりにも似合うから誰かをだませるかやってみようってイルにそそのかされて外に出たっていっちゃおうかなぁ~~?」
一瞬イルがたじろぐ。
「ユーリ様、それは脅迫ですか・・・?」
「そんな脅迫だなんて。ただ、私はカイルにそう言おうって思っただけ。」
勝ったっ!ユーリは思った。
「・・・・・。わかりました。それでは私の乳兄弟のリューイに偽の使いを出して
一週間後ここへ来るように言いましょう。しかし、リューイは病のために
ハッツゥサに来るのは無理だと言う返事をもらう。これでどうでしょう。」
にっこりと笑ってユーリが言った。
「やればできるじゃない、イル。」

元はと言えばミッタンが悪い。何で私の名前を出したんだ・・・。
偽の使いはミッタンの役目にしてやる。
ミッタンナムワ!どこにいる!
必死に王宮中ミッタンナムワを探して歩き回るイル。
ミッタンはその頃・・・。

「と、言うわけなんだよ。なんだかおおごとになっちまったぜ・・・。」
ミッタンナムワが合コン仲間を呼んで事の次第を話していた。
「ユーリ様がイルの服を着て現れた時から何かおきると思っていたんだよな・・・。」
カッシュがため息と共につぶやく。
「これが陛下の耳に入ったら俺達どうなっちゃうんだろうな・・・。」
ルサファが不安げに言う。
「首・・・・・・・・?」
目に涙を浮かべてシュバスが言う。
「よくて首だ。極刑になっても文句はいえないだろう・・・。」
ミッタンナムワが苦しげに言う。
「・・・・・・・・・。」
沈黙が続く。
「この際三姉妹も仲間に引き入れてしまうってのはどうだ?三姉妹はユーリ様に仕えているからユーリ様に非が及ばないようにするだろう。陛下のお耳に入ればユーリ様もきついお叱りを受ける。そうなったら、また夫婦喧嘩が始まり三姉妹は気をもむだろう。
それを事前に防ぐとか何とか言って・・・。」
カッシュが言う。
「そうか、いくら陛下と言えども側近すべてを首にすることはできないしな・・・。」
「それが一番いい考えかもしれないな。」
ミッタン、ルサファが答える。
シュバスはうん、うんと何度もうなずいている。
「ならば、それを三姉妹に伝えるのはカッシュ、おまえだな。」
ミッタンが言う。
「な、何で俺が・・・。」
カッシュが顔を引きつらせて言う。
「この案を考えたのはおまえだろう。それにおまえは女官の扱いの経験があるしな。」
ミッタンはまじめな顔で答えた。
「・・・そんな。・・・・・ん?女官の扱いと言えば俺よりも腕のいいやつがいるじゃないか!」
カッシュはうれしそうに言った。
4人の顔がきらっと光る。
「キックリ!!!」

17話:協力人数。

作:あかねさん

-From 17-
「お前達、いったい何の用が・・・・・。」
四人の意見がまとまったところで、キックリは連れてこられた。
ちょうど廊下を歩いていたので、ここまでひきずってきた。
「いやぁ、じつはおまえに頼みがあって・・・ごにょごにょ・・・・・。」
ミッタンナムワは、今までのことすべてとこれからキックリにしてもらいたいこと
を話した。
「・・・・・と、いうわけなんだな。どうだ、良い案だろ?」
キックリは、かたまってしまった。
自分が知らない間に、ユーリ様が外へでていた。
しかも、合コンに・・・・・・・。
そしてさらには、いつもは止めるはずのイル・バーニが服をかした・・・・。
今、キックリの頭は混乱していた。
「とにかく、三姉妹を味方に連れ込め!!」
「な、なんで私がそんなことを・・・・・・・・!!」
キックリだって、カイルは怖い。
しかも、ユーリが絡んだときは・・・・・・。自分は関わりたくない!!
「そぉかぁ・・・・残念だなぁ。じゃぁ、陛下にはキックリがユーリ様をたぶらかした とでもいっておくか。いやぁ、残念残念。」
そういって四人は、カイルがいると思われるユーリの部屋へと向かっていこうとした。「わぁぁぁぁぁぁ!!!!まって!!!!分かった、分かった!!!
 リュイとシャラとハディに言う!!」
ニヤリ・・・・・
こうしてキックリも、罠にはまった。

「えぇ!?陛下とユーリ様が近々けんかする!?なぜよ!!」
早速五人(キックリを先頭に)三姉妹のところへやってきた。
「いや、実は・・・・ちょっとユーリ様が、脱走なさって・・・・で、それが陛下に
 見つかると・・・・その、ほらまぁ、あれだろ?」
「確かにそれはやばいわね。でも、キックリ。なんであんたがそんなこと・・・まさ  か!!」
ハディの言葉を受け継ぐように、リュイ&シャラはいった。
「「あんたがユーリ様をたぶらかしたんじゃないでしょうね!?」」
ガラガラガラ・・・・・・!!!
大きな雷が二つ、キックリに落ちた。見事命中。
「・・・で、そんなわけだから、三姉妹も協力してくれ。」
「ユーリ様のためならば、協力せざるをえないわ。」
こうして、三隊長+1とイル・バーニの問題が、キックリと三姉妹と、
合計9人の側近すべての問題になった。
(これで、連帯責任だからな!!)
ミッタンナムワは、心の中で叫んだ。 

18話:作戦会議

作:しぎりあさん

-From 18-
「まず、問題は二つだ」
 イルは面々を見まわして言った。この迷惑なプランに引きずり込まれたのは9人。ユーリも入れると10人か。部屋の中には、ユーリをのぞく他のメンバーが集まっていた。
「ひとつは、陛下だ。ユーリ様が後宮を抜け出されて合コンに参加されたことがお耳に入れば、我々全員が危険だ」
 ユーリは、会議の間中カイルを足止めすることになっている。寝所で。
「もう一つは、ユーリ様にコマされた姫君と、その父親」
 ハディが手を挙げた。イルがうなずく。
「なぜ、ユーリ様は姫君をおコマしになったのですか?」
 そんなこと、分かるもんか。三隊長+1はうなった。なぜだか分からないが、先に帰ったはずのユーリと姫君は抜き差しならない(ある意味)状態におちいってしまったのだ。
「父親が出てきたのは、まずいよな」
「ああ、本来目的のある俺達が、カップル成立できなかったのもまずいが」
 悔しそうなミッタンの言葉をききながら、シュバスが真剣にうなずいた。彼は、その後なんどかデートをしたのだが、「やっぱりシュバスさんって、いいひと過ぎて」と断られていた。
「まず、しばらくの間陛下はユーリ様に誤魔化してもらって、親子の方を片づけましょう」
 キックリが提案する。双子もうなずいた。
「ユーリ様はご懐妊中ですもの、ご無理はさせられませんわ」
 ご懐妊中なら、静かにしておいてくれ。それは、誰のつぶやきだっただろう。
 イルが咳払いをした。
「まず、リューイを亡き者にする」
「ええっ!?」
「ハットウサに来る途中、不幸な事故に遭ったことにするのだ」
  

19話:一番の問題事項

作:あかねさん

-From 19-
「リューイを亡き者にしてしまえば、手は出せない!!!」
自信ありげにイル・バーニが言う。
そんなの、あたりまえなのだが・・・・・・。
「しかし、死体はどうするので?」
鋭い質問だぞ!!さすがわ、女官長(関係あるのか?)ハディ!!
「・・・どうにかなる。死体は・・・・・・我々で片づけたことにする。
 それでだ、その不幸な事故を知らせるタイミングだが・・・・・。」
「やはり、宴が始まってすぐに伝令を装った兵士が駆け込んで・・・・・。」
ぴた・・・っと、キックリの発言がとまった。
「伝令役はどうするんですか!!!!!」
8人の声が重なった。
側近がその役をしたのでは、ばれてしまう。と、言うか、伝令をやっている時点で
おかしい。かなり、おかしい。
「兵士も仲間に引き入れるのか?それは、さすがに・・・・・。」
「・・・・・・しょうがない。この際、こうしよう。」
イル・バーニが話したのはこんな作戦だった。
1・兵士は、陛下のところへ行こうとするが途中で側近と会う。(キックリあたり)
2・それを聞いて、イル・バーニはショックを受ける。
3・イル・バーニは姫君の父親に謝る。
4・宴解散。
          以上。
「どうだ、この完璧な作戦!!!!」
「確かに・・・・あとは、あの勘の鋭い陛下をいつまでだませるか・・・・ですね。」
そこが一番の問題といっても、間違いじゃないかもしれない。

宴前日。
ユーリは側近を集めて、会議を開いた。
もちろんカイルは政務室だ。
「で、どうなったの?」
側近達は、この前決まったことをユーリに報告した。
うんうんとうなずいて、聞いているユーリ。
「いかかですか?」
「いいね。・・・あとの問題は、カイルをだませるか・・・・だね。
 だって昨日もね、なんかイル・バーニの様子がおかしいとかずっと言ってるの。」
やはり一番の問題は、陛下なのかもしれない・・・・・。

そして、宴当日。

20話:事件はさらに大きくなる・・・

作:ポン子さん

-From 20-
華やかな衣装に包まれた踊り子と楽師が宴に出席した者を楽しませている。
もちろんカイル、ユーリ、リューイにぞっこんの姫とその父親もいる。

「イル。おまえの乳兄弟はまだつかないのか?予定よりもずいぶん遅れているようだが・・・。」
「はっ、そろそろかとは思いますが・・・。申し訳ありませんがもう少々お待ちいただけますか?」
「うむ。他ならぬおまえの乳兄弟だ。多少の遅刻も大目に見よう。」
カイルはイルの乳兄弟に会えるというのでかなり機嫌がいい。
おそらくリューイからイルの弱みでも聞き出そうと企んでいるのだろう。
酌をしながらも少々落ち着きのない3姉妹。
宴も盛り上がりつつある。
そろそろ時間である。

「失礼致します。」
額に汗をにじませたキックリが大広間に入ってきた。
音楽が止み、皆の目がキックリに注がれる。
(ドキドキドキ・・・。)
キックリの心臓は今にも飛び出しそうだ。ちなみに額の汗は緊張から来ている冷や汗である。
(よしよし、予定どうりだな・・・。)
イルはごくりとつばを飲み込むと足を踏み出した。
「何事だ。ここは宴の場、側近といえども無礼は許されることではない。」
「ハッ、申し訳ありません。しかし、今早馬が参りまして、
西のはずれで賊に襲われたと見られる男が倒れているとの事。」
「なに?もしかして・・・。ん?キックリ、手に持っているそれは・・・。」
「はい、男はすでに息絶えておりまして、身元も分からないということだったので
所持品を持ってきたそうで。このチョーカーは男が身につけていたものです。」
震える手でチョーカーを受け取りしばらく見つめてから、目を閉じるイル。

(イルってば、たいしたものだわ・・・。あの震え方、まるでアル中・・。)
ハディは感心してイルを眺めていた。役者さながらのイルのおかげで
キックリの怪しい芝居もごまかせている。
(なるほどねー、あぁいう切羽詰った演技でいつもカイルを執務室に閉じ込めておくんだ・・・・。)
ユーリもイルに魅入っている。
元々こんなことになったのは自分のせいだという事など忘れているようだ。

「イル、まさかそのチョーカーはおまえの乳兄弟のものなのか?」
カイルも真剣なまなざしだ。
「はい・・・。こ・・・これは、間違いなくリューイのものです。は、母親の、形見として、大切にしていた物です。」
言葉も途切れがち、しかも涙声。
(イル・・・。ちょっとやりすぎじゃぁ・・・。)
普段クールで感情を表さないイルがこんなに取り乱すとかえって怪しまれる。
しかし、カイルは国を治める皇帝という立場で今回の事件を考えているため
イルの不審な行動はさほど気になっていないらしい。
「キックリ、すぐに賊に関する情報を集めよ。そのための兵はいくら使ってもかまわん。
必ず捕まえてくるのだ。それと、男の遺体はどうしたのだ。」
「はい、・・・・ま、まだそのままに・・・。」
おどおどしながら答えるキックリ。
「なに?すぐにここへ運ぶんだ。丁重に埋葬してやらねば・・・。」
(え?!)←イル
(え?!)←キックリ
(え?!)←3姉妹
(え?!)←ユーリ
(え?!)←3隊長+1

まずい。遺体などないのに持ってこい等・・・。
その上丁寧に埋葬・・・?
「あー、陛下。恐れながら・・・。」
イルが口を開いた。
「なんだ?」
「せっかくなんですが、私どもの部族では死んだら遺体はそのままにしておくのが習わしでして・・・。形見の品がひとつあれば残りは大地に返すという・・・。」
「そんな話聞いたことないぞ。」
怪訝そうにカイルが言う。
「え、えぇ、あまり知られておりませんから。しかし、リューイを思ってくださるならば
ぜひそっとしておいてやっていただきたいのです。」
「西のはずれに放置しておけというのか?はげたかや動物に食われてしまうぞ。」
「えぇ、それも自然の原理。食物連鎖です。」
しれっとしたままイルは言う。
「・・・・。まぁ、おまえがそれでいいというならばそうしよう。
 しかし、賊は必ず捕まえるぞ。この国でそのような残忍な事件が起こって
 それを放置しておくようなことはできないからな。」
「御意」

とりあえず、事件の根源のリューイは亡き者になったが、
今度はいもしない賊を国を挙げて捜索する事になってしまった。
もちろんその指揮をとるのは3隊長+1。
この事件の始まりも3隊長+1。
4人はだんだんと大きくなっていく事件に放心状態となっていた。
ユーリは酒でほほを赤く染めカイルの腕の中で幸せそうにしている。
(ユーリ様・・・。事の重大さを分かっておられるのですか?)
恨めしそうにユーリを見つめる4人であった。

21:最終手段

作:如月さん

-From 21-
宴の最中、とある1室でイル・バーニを始とする側近達が集まっていた。もちろんその席にはカイルを上手く丸め込み宴を抜け出てきたユーリの姿もあった。
「・・・こんな事になって本当にごめんなさい!!私が浅はかだったわ。」
まるで教師に怒られた生徒のようにシュンと気落ちしていた。そんなユーリの姿を横目で見ながら、イルがため息をつきながら一言。
「そう思われるのでしたら今後、この様な事は控えていただきたいものですな。・・・ユーリ様はこの帝国の皇妃いう自覚がまだおありでないようですね。それに・・・」
その一言にユーリはますます気落ちしていった。イルの説教はまだまだ続いていた。
「う、うう・・・ごめんなさぁーい・・・もうしません。だから何か対策法を・・・」「わかりました。しっかり反省なさっているようですし、対策法をお教えいたしましょう。しかし、これは成功する確率がかなり低い物です。よって最終手段だと思っていただきたい。それから用意する物がいくつか・・・」
その言葉に全員が身を乗り出してイルに詰め寄った。
「何?何なの?」
「それは一体どんな方法ですの?」
「「何を用意すればいいんですか?」」
「最終手段でもなんでもやりましょう!!」
全員の鬼気迫る雰囲気に少し気おされながらも冷静に説明していった。
「いいですか、最終手段とは犯人をあげるよりも、もう一度リュ―イを生き返らせることです。そのためにはユーリ様の髪の毛一部、少量の血、それからより人に近く作られた人形。これらが必要です。」
(えっ?人形に、私の髪の毛と血が必要?)
(一体どんな対策法なんだ?イル様は何を考えていらっしゃるのだ?)
ユーリは頭の中が真っ白になった。もちろん周りに側近達も首を捻るばかりだった。


23話:人形つくり

作:HARUさん

-From 23-
※※※数時間後※※※
イル・バーニの指示した“より人に近い人形”が数体用意された。が、どうやらそれらはイル・バーニの思う物ではなかったようである。
「・・・これらではダメだ。特にこれなんかは全くもって問題外だ!どこが人に近いんだ?」
そう言って摘み上げた人形はまるで芝居で使用される操り人形の形をしていた。
「え?それではダメなんですか?関節があるので人に近いのではないかと思ったんですが・・・。」
その人形を用意したのはシュバスであった。(彼らしい・・・)
「関節があれば良いと言うものではない。・・・まぁあったに越したことはないが、しかし、これではもし万が一何か衝撃を受けた場合壊れてしまう可能性がある。よって、作りの素材は木ではなく・・・ん?ユーリ様、何をなさってるのです」
イル・バーニが延々と人形について語りだしたのを見てユーリはその問題の木を組み合わせ、その上から土を付け、人形を作り始めた。
「・・・要は壊れなきゃ言い訳よね。なら、木で骨組みを作って上から土を付けて形を作る。これならば壊れにくいはずよ。」
言いながら完成した人形はその場にあるどの人形よりも精巧に作られていた。
(思ったより結構器用な方だったんだな)
「で?これをどうするつもりなの?」
全員の視線を受けながらイル・バーニは静かに答えた。
「これにユーリ様の髪の毛一房と血を少々埋め込み、これを注ぎ入れます。これで“身代わり人形”を作ります。」
そうして取り出した物は小さなビンに入った乳白色の液体であった。


23話:成功

作:こなゆきさん

-From 23-
「この粉をちょっとかければあら不思議!!人間のできあがり」とイルは、得意げに説明している。その姿に一同絶句した。イルがこの様な怪しい技術を持っていようとは!!ナキアより怖いのでは、誰しも心の中で思っていたが誰もその事には触れようとしなかった。イルが、「ユーリ様、これで問題解決です。これを盗賊に見立てて皇帝陛下に処分してもらえば丸く収まります。」
「わかったは、ではこれを使わせてもらうわね。」
3隊長+1は、できたての人形に服を着せ皇帝陛下の所に持っていった。
「陛下、この前の盗賊を捕まえてきました。どうぞご処分を!!」
内心3隊長+1は、「早くこんな事は終わらせたい!!まったく」と思っていた。

24話:嘘八百

作:如月さん

-From 24-
連れてこられた男(注:人形)の顔を見たカイルは息を飲んだ。
なんとその顔は、愛しのユーリにそっくりだったのだ。(当たり前だろ)
「・・・本当にこの者が、今回の盗賊なのか?嫌、お前達を疑うわけでは
 ないんだが、その、この顔はまるでユーリその者ではないか・・・」
「「「「えっっっ!!?」」」」
実は3隊長+1は完成した人形の顔ははっきりと見ていなかったのだ。
呆然とするカイル達。その時突如人形が喋りだした。
「申し訳ございません。実は、僕、否私はリュ―イと申します。今回の騒ぎは
 兄、イル・バーニに頼んで起こした私の責任でございます。」
(どういう事なんだ??)
(人形が喋るなんて、イル・バーニ様おっしゃってたか?)
(盗賊の予定なのに、何でリュ―イになってんだ?)
3隊長の疑問は深まるばかりである。その間にも人形はペラペラとある事ない事嘘八百を喋りだしている。
「・・・なるほど、そういうことだったのか。こちらに来る事が禁止されていたのか。
 そのために起こした騒ぎだったということか・・・」
「はい。本当に申し訳ございませんでした。まさか私も、こんなに大事になるとは
 思ってもいませんでしたので・・・」
人形とは思えないほどの人間くささでまんまとカイルを騙した面々。
このままあっさりと事はすむのだろうか・・・

25話:イル・バーニ、どういう事だ!?

作:☆moko☆さん

そう思った3隊長+1、ちらりとイル・バーニの方見てみると、何とイル・バーニ自身ビックリしていた。 イルの特徴(?)は何があっても冷静沈着なポーカーフェイス。 3隊長はアホと言うほどぽかんと大口開けて、正に『開いた口が塞がらぬ』というかのようであるのに、イルは、その細くて鋭い目をめいっぱいに広げているだけだった。その点は、さすがと言おうか、何といおうか...。 実はイル・バー二の持っていたあの薬。あれは、前皇太后ナキアに物だった。 こんな事もあろうかと、前もってイルはナキアの元に出向いて薬を手に入れたのだった。 人形がその者そっくりになるとは聞いていたが、まさか動いてしゃべる、という事までは知らなかったのだ。 3隊長+1、イル・バーニ、キックリ、3姉妹、ユーリは、呆然としながらそれを眺めていた。