第1話 それから

花より男子2(リターンズ)の最終話エンディングからのお話を二次小説として書いてみました

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-From 1 それから -

あこがれて夢を描いて入学したはずの英徳高校。

自分の居場所じゃないとすぐに気が付いた1年の春。

ただ、ただ、3年間が無難にすぎればいと息を殺した。

なんの楽しみも思い出もなく過ぎていく予定のはずだった。

なのに・・・。

伝説化されて卒業を迎えることになるなんて思わないつーの。

最悪の出会いだったと言っても過言ではない。

傲慢で、わがままで、自己中心的で初めて会ったときは絶対好きになるもんかと思っていた。

突然「赤坂ガーデンベルズ、午後一時」と言われても、それがデートの誘いだと周りがキャーキャーと大騒ぎしているのに思わず絶句したのを今でも覚えてる。

どうして私なのかと不思議に思っていた。

・・・・が。

「誰にも媚びることを知らないまっすぐな牧野に、惚れたんじゃないか、なんせ司を人前で殴るやつ初めて見たもんな」とF4の一人美作あきらは笑った。

「猪突猛進型だもんな司も牧野も」と相槌をうつもう一人のF4西門総次郎。

それを横で聞いてるのか、聞いてないのか関心ないのか長椅子に横たわり、あくびをしながら本を読んでいるのは私の初恋の相手花沢類。

お世辞でもかわいいとか、おしとやかとか女の子につける形容詞をつけることはできないんだろうか。

よりによって猪突猛進とはなんじゃーと、膨れて文句を言っても気にするようなF4でないことは十分承知している。

それにそんなタイプでないことを十分理解してる自分も悲しい。

そんな私を好きだと言ってくれてた道明寺司

F4のリーダーで私に赤札を貼って徹底的にいじめられた相手のはずなのに・・・

いつの間にか好きで、好きで、大好きで、何度も忘れよう、忘れなきゃと思い、枕をぬらした日々。

いっぱい泣かされたけどそれでもやっぱりあいつが好きで、大好きで・・・

「お前しかいない」と言ってくれたあの日。

私は忘れない。

卒業の日、遅刻して行った会場ではプロムも終わり後片付けも始まり静まり返っていた。

だが・・・

そこにあいつは待っていてくれた。

「俺様と結婚しろ」とプロポーズ。

ちょっと唇が震えていたのがあいつらしくなくて・・・

涙が溢れそうになる。

絶対私が断るとは思ったないだろうなと思ったら、うれしくて、うれしくて仕方がないのにちょっと、強気で言ってしまった。

「私があんたを幸せにしてやるよ」

「宣戦布告だな」の言葉とは裏腹にあいつは笑顔で私の手をにぎり、力強く私を引き寄せた。

体がふわりと浮いたと思ったら、私はあいつに抱きかかえられていた。

同時に会場が明るくなり、紙吹雪きと「おめでとう」の嵐。

「みんなに残ってもらっていた。なんせ俺様のプロポーズだからな」と満足そうに言い放つあいつ。

「ありえないつーの」

私のゆるんだ涙腺から一筋涙がこぼれた。

そこから新しい私たちの物語が始まる。

-From 2 挨拶は突然で -

数日後、仕立てのいいグレーのスーツを着込みきっちりとネクタイを締め緊張気味の道明寺が、テーブルをはさんでパパと向い合っている。

もちろんママも弟の進も私も神妙な面持ちで時間を共有している。

事の起こりは昨晩、あいつの突然の電話から始まった。

卒業式の思わぬプロポーズの余韻に浸って思い出し笑いを浮かべる私は、携帯の画面に俺様と表示された着信名に慌てて携帯のボタンを押す。

「もしもし」

「あっ俺だ。明日おまえんちに行くからな。家族みんなで待ってろ」

「えっ、家族って?なんで」

デートの誘い?

迎えに来てくれるの?

でも家族って?

プロポーズ後初めてのあいつからの電話にドキドキしながら携帯に出てみれば、事務的なあいつの言葉がかえってきて、思わず素っ頓狂に声を上げてしまう。

携帯越しにイラッとしているあいつの声が響く。

「お前はあほか、挨拶に行くに決まってるだろう」

私は携帯を耳から遠ざけながら、あいつのイライラを増殖させるようにダメ押しの一言を言ってしまった。

「なんの挨拶?」

「お前は、この前の俺様のプロポーズをもう忘れたのか?」

「いやだな、忘れるわけないでしょう」

あの時のことを思い出すと自然と顔がにやついてしまう。

きっとまたしまりのない顔になっているのかパパ、ママ、進の3人が私の顔を下から心配そうにのぞきこんだ。

私は家族3人に背を向け、小さく背中を丸めながら、あいつとの会話を続けた。

「だったら、わかるだろうがー」

気のせいか、あいつの言葉じりがどんどん荒くなっている。

怒っているあいつとは裏腹に私の思考回路は冷静に働かせているつもりだが答えが出てこない。

大体、あいつの行動はいつも突拍子で凡人には理解に苦しむことのほうが多いのが現実だ。

「結婚の挨拶に決まってるだろうがー」

ますますあいつ言葉じりの口調が強くなってきた。

「え?結婚の挨拶って・・・」

ここで私の思考は止まってしまった。

何やらあいつは延々とお前はプロポーズを受けたのだからこの先のことちゃんとしておく必要があるとか、俺様の結婚ともなればいろいろあるんだとか何やら一方的にしゃべってたかっと思うと最後に「明日絶対行くからな」と最後に付け足し電話を切った。

「明日、道明寺が結婚の挨拶に来るって」

「えー」

驚きの声とも歓声ともとれる声を上げる家族3人をよそに私の頭の中に結婚の二文字だけがぐるぐる回っている。

挨拶て・・・

プロポーズOKしたからって、今すぐ結婚を考えているわけじゃないよね?

高校も卒業したばかりで、私には大学に行って弁護士になるっていう目標があるわけだし・・・

そこまであいつもせっかちじゃないよねと思いつつ一抹の不安はあるが自分に納得させて、ベットの中にもぐりこんだ。

次の日牧野家は朝から大騒ぎであった。
大慌てでパパはいっちょらのスーツを着込み、ママは鏡台の前に座り込みいつもより念入りに化粧をしている。
進まで制服を着込んで鏡を見ながら髪の毛をなでつけている。
私といえば結構お気に入りの赤いぴらぴらのブラウスを着こみ、いつもよりは女らしく見えるかなと思える恰好をしてみた。
昨日の電話では、びっくりしたけれどあいつに会えるのはやっぱりうれしい。
そして玄関のベルが鳴りあいつの訪問を告げた。

あいつの家のトイレよりも狭い社宅の居間で、顔をこわばらせ見ようによっては怒っているようにも見える緊張しまくりのあいつを見るのは初めてだ。
パパもママも進までも額に汗をかきながら、あいつの言葉を待っている。
わたしといえば、日本語、間違わないよね?「娘さんと結婚させてください」て言葉で音読み、訓読みは間違えることないよねと思いつつも、あいつ天然の道明寺語録にまた一つ追加されたってことにはならないとはかぎらないと、ハラハラドキドキだ。
きっと母親がわが子を見守る心境はこんなんだろうかと思わずにはいられない。
だが、あいつはやってしまった。
「おとうさん、結婚してください」
「ハイ、喜んで」
パパもなに返事してるのか、あんたたち二人が結婚してどうするの。
「娘さんをください」でしょうがーーーー
自分の言った言葉の間違いにあたふたしてるあいつは少し可愛く見えた。
そして自然とみんな笑いを浮かべ一気に部屋の中の緊張がほぐれる。
改めてあいつは座りなおすとしっかりとした口調で「娘さんと結婚させてください」と頭を下げた。

-From 3 ふたり -

「早く来すぎてしまったか」

左手にはめたロレックスの時計に目をやると針は10時を指している。
久しぶり牧野と二人で会える。
そう思うと気が焦り、会える時間が待ちどうしく約束の時間より1時間も早く着いてしまった。
卒業式のプロムのプロポーズ以来、牧野の家にあいさつに行った以外はほとんど携帯だけで
なかなか会うことができない二人である。
4月になれば俺は一時ニューヨークに戻り、大学や仕事を片付けたら英徳大学に編入して牧野と大学に通うことを決めてた。
だがこれはまだ牧野には秘密にしている。
牧野は3月が過ぎれば遠距離になると思っているはずだ。
そのわずかな時間を一緒に過ごしたいと思わないはずはないと俺は思っていた。
が、実際には牧野は「大学はお金がかかるから春休みはバイト」などとほざき、なかなか会う時間を作ろうとしない。
ここ数日の携帯ではいつも最後は俺の口調は荒くなって喧嘩腰で終わってしまう。
だが昨日は「明日バイトないから会える?」と珍しく、しおらしい牧野の声が電話から響いた。
うきうきと機嫌良く携帯を俺が切ったのは言うまでもない。

11時を少し過ぎた頃、ようやくバタバタと必死こいた表情で駆けつける牧野の姿を見つけた。
「てめえ、ここでどれだけ俺様を待たせれば気が済むんだ」
俺は声を荒上げ、ようやく待ちあ合わせ場所に現れた牧野に背を向け1歩踏み出した。

踏み出したつもりだったが・・・

突然、俺の体は後ろに引っ張られる状態で引き戻され格好になる。

牧野の奴、こともあろうに俺さまのマフラーの片方を引っ張り首を絞めやがった。

「何するんだ、この野郎。俺を殺す気か」と振り向いた瞬間、俺様の唇に何か柔らかいものが触れる。

えっ、牧野の唇?と気がついた。

牧野は必死に背伸びをしながら俺のマフラーを自分に引き寄せたのだ。

ちょっと、ふれあうだけのあいつの唇は戸惑うように俺の唇から離れ、「ごめん」と牧野は小さくつぶやいた。
かわいすぎる・・・
こうなっちまったらどうしようもない。
それに牧野からキスしてくるなんてこの先、何回あるかわかんねえレアな体験とも思える。
こんな時、どうしようもなく牧野に惚れ込んでいる自分を再認識しちまう。
こいつのこんな顔、俺以外の誰にも見せたくない。
マフラーを握りしめていた手を離そうとする牧野を俺は思わず両手で抱き締めた。
「人が見てる」と俺の腕から逃れようとする牧野。
自分からキスしといて何を今さらと、俺は「かまわねえ」と牧野の耳元で囁きながらあいつを逃がさないように両腕に力を入れた。



最近は電話ばかりでなかなかあいつの呼び出しに応じていない私。
道明寺が家に来てくれたあとはなんだか幸せで足が地についていないような感じだったことも否定はしない。
なんせ半年前は道明寺に無視され、果ては他の女性と婚約までした姿を見せつけられ、気分はどん底だったのだから。
道明寺と簡単に会えるのもあと1か月足らずということもわかってはいるが、浮かれてばかりはいられない事情もあるのだ。
私は家の事情も考え高校を卒業したら就職するつもりだった。
だが、静さんにあこがれた私は、弁護士になりたいと親に頭を下げ大学進学を宣言した。
大学の推薦を受け奨学金も受けられることにもなったが、やっぱり、家の家計が苦しいのはまぎれもない事実なのだ。
休みの間はバイトしまくって少しでも家計の足しのために働くのが牧野家の長女の務めだと私は思っている。
バイトを理由に断り続ける私に、道明寺の怒りのボルテージがMAXに近づいているのがわかる。
なんとかバイトを調整してやっと今日の日を確保した。
道明寺がふかふかなキングサイズのベットですやすや寝息を立ててる頃、バイト先の先輩に頼みこみシフトを変えてもらった私は夜中の3時までファミレスの仕事をしていた。
ようやく家に戻り自分のベットに倒れこむ頃には時計は4時を回っていた。
気がつけば、外は明るくなり目覚ましは10時を回っていた。
慌てて準備をし家を飛び出し、なんとか11時を20分も過ぎたころ約束の場所にたどり着く。
走ってきたせいで息は上がりぜいぜい状態。
ちょっとの間歩くのをやめ呼吸を整えながら道明寺の姿を探す。
わーーーやばい、怒ってる。
私の目に飛び込んできたのは、キョロキョロあたりを見回しながら1メートル四方を歩き回っている道明寺の姿だった。
私を見つけた道明寺は一瞬ホッとしたような表情を見せたが、すぐに、私に謝らせる間もなく一方的に私を責める言葉を投げつけてきた。
「そんなに怒らなくてもいいでしょう」やっとそれだけ言った私に、あいつは背を向け歩き出そうとする。
子供みたいにすねるあいつはかわいくて、私にちょっとした悪戯心がわきあがる。
あいつのマフラーの片方を握りしめ思い切り自分のほうに引き寄せていた。
そして気がついたときにはあいつの顔が目の前に近づいて思わずキスしていた。

唇を離したとき道明寺は真っ赤な顔をしていたが、すぐに私を抱き締めた。

恥ずかしがる私にお構いなく力一杯に。

-From 4 少ない時間 -

「相変わらず良く食うよな」

道明寺の残した料理に手を伸ばし口に運ぶことに夢中な私に道明寺は少し呆れ気味だ。

「だってもったいないでしょう。料理もおいしいし、あんたみたいに上品には食べれませんから」と舌を出す。

「俺、おまえのその何だ、うまそうに食う感じ?好きだけどな。見てるこっちまでたのしくなるっか、食欲も湧いてくる」
「その割にはあんまり食べてませんけどね、司君」
「おまえみたいに皿までなめたみてーに食べれるか。えっ、今何て呼んだ?司て呼んだよな」
「なに、悪い?」慌てたように私は口にパンを放り込んだ。
「もう一回呼べ」
「ん?何を?」
「名前だよ」
「誰の?」
「俺の名前に決まってるだろうが」
そう命令口調で強制されると呼べなくなることが道明寺にはわからないのだろうか。
まだまだ道明寺のことをF4のみんなみたいに司と呼ぶのは抵抗がある。
道明寺は、尾っぽを振っておやつを待ってる子犬のように目を輝かせて、私を見つめている。
でも、勇気を出して言ってみたけどこれ以上は照れくさくてもう無理だ。
「も・・・もったいないから・・・また、いつか呼ぶ・・・」
道明寺との視線を外すようにうつむきながらつぶやく。
「もったいないてなんだよ」
そう言いながらも、私の頑なな態度に道明寺も渋々諦めたようだ。
「それじゃ、約束だからな。まあ、『つかさ』ておまえに呼ばれるのは、ほかの奴らに呼ばれるのと違ってくすぐったいつぅか、いいもんだな」
別に約束するようなことでもないけど、しまりのない顔でうれしそうに話す道明寺に、私も笑顔で「うん」と頷いた。

久しぶりのデートは、私の遅刻でずいぶん道明寺をいらだたせたみたいだけど、私のキスで今は上機嫌の道明寺だ。
こんな風にデートできるのもあと少しなんだよね。
そう思ったらバイトで会わない時間を作ってる自分が悲しくなってきた。
でも、会いたくないわけじゃない。
毎日会っていて、そして、突然全く会えなくなることへの不安が道明寺に会うことを躊躇させている気持ちもある。
でも、こんな風に二人の時間を過ごすとやっぱり別れたくないと思ってしまう。
少しバイト減らそうかな。
食後のコーヒーを飲みながら、物思いにふけっている私の目の前に道明寺が何か差し出してきた。
「これ、おまえの」
キャッシュカード?
思わず手にとって名前を確かめる。
「このキャッシュカード、ドウミョウジ ツクシになってるんだけど・・・・」
「まあな、結構気に入ってるんだ」
気に入ってるなんて簡単に言うけど、簡単にできることじゃないよね・・・
それ以前に、このカード問題ないのかと法律家希望の私としては考えてしまう。
「これって偽造にならないのかな?」
「馬鹿か。ちゃんと使えるんだから偽造にはならねえぞ」
「そうじゃなくて、偽名だよね?」
「いずれはそうなるんだから別に作っといても大丈夫だ」となぜか胸を張る道明寺。
「ちゃんと銀行で作ったんだ誰にも文句は言わせねえ」
きっと、道明寺の力を使って、強引に作らせたんだろうな・・・。
銀行員の困惑の顔が目に浮かぶよ。
「それと、大学の授業料も全部振り込んどいたから、生活費もこれから使え」
「キャッシュカードにはたっぷり入ってるからな。いくら下ろして使っても心配いらねえようにしといてやる」
「えっ」
授業料?生活費?て、道明寺にとってはたいしたことでは何のだろうけど私にとっては半端ない大金だ。
「こんなのいらない。それに道明寺にそこまでしてもらう理由はない」
私はキャッシュカードを道明寺の前に突き出した。
名前まで勝手に変えられたカードを持たされて使えるわけないじゃないか。
私の身にもなってみろと、叫んでみたいが店の雰囲気を考えればできるはずがない。
あいつは涼しい顔をして、お前もうれしいだろうと言いたげだ。
「いずれ結婚するんだし夫が妻の面倒見て何が悪い」
「まだ妻でも夫でもないでしょう。道明寺に私の生活みてもらう必要ないし・・・」
まったく、いつもいつもなんでこうなんだろう。
道明寺に嫌味を言いたい訳ではないが、道明寺の世間ずれした感覚は私の神経を逆なでする。
「ごちゃごちゃ言うな。これがあればバイト辞めても問題ないだろうが。俺はお前と毎日でも会いたい。それが理由だ」
道明寺は時々直球で私の心を震わすような言葉を投げかけてくる。
ぶっきらぼうで投げやりな言い方だけど、それが道明寺の照れ隠しなんだと最近わかってきた。
「反論は聞かないからな」相変わらずの強引さで道明寺は再びキャッシュカードを私に突き返した。
こうなったら道明寺は頑として私が道明寺の申し出を断るのを受け付けないだろう。

でも道明寺にお金を出してもらうのは私のプライドが受け付けない。
こんな他人名義みたいなキャッシュカード使えるわけないと思う私の気持ちなんて道明寺には理解できないだろうな。
「じゃあ・・・借りとく・・・・」
「私も道明寺と会う時間増やしたいし・・・」
道明寺は、満足したようにうなずきながらコーヒーを一気に喉の奥へ流し込んだ。


 道明寺がNYに旅立つ前日私は道明寺の屋敷を訪れた。
あれから私はバイトの時間も減らし少しの時間でもあれば道明寺との二人の時間を過ごしている。
外で会うときは道明寺の警備のためという名目で時々SPという邪魔な存在があるけど道明寺は慣れてるせいか全く気にしない。
周りに誰がいようがいまいが関係なく抱きついてくる道明寺に私は落ち着かず、デートのときめきも半減するというのが本音だ。
屋敷を訪れるのは道明寺専用のメイドとして屋敷に住み込んで以来だ。
玄関で扉が開くのを待っていると顔見知りの男性が私を笑顔で迎え入れてくれた。
一応道明寺の恋人ということで一定の距離をおいて大事に接してくれていることが判る。
それ以外にも道明寺を黙らせることができる唯一の人物として道明寺家の使用人たちに私は認識され尊敬されているらしいと以前タマ先輩から教えてもらい、喜んでいいのかどうか疑問を持ったことをふと思い出した。

部屋に通された私を道明寺は満面の笑みで迎え入れながらすぐに私を抱きしめる。
慌てて私を案内した男性が部屋を出て行くのが背中越しにもわかる。
「ちょっと・・・恥ずかしいから・・・そんなすぐ抱きつかないで・・・」
私は道明寺の腕を思い切り振り払った。
「なんで?別にかまわねーだろう」
私の態度に道明寺が不満そうな表情で抗議する。
「ちょっとコートぐらい脱ぐ時間待ってよ」
春になったといっても外は雨のせいか今日は少し肌寒い。
私は白のブラウスに薄めのコートを羽織る感じの装いだ。
私はコートを脱ぎながらソファーに腰を下ろした。
ふと窓の外を見つめる。
窓を伝う雨だれがさびしく思えるのはやっぱり明日から道明寺と遠く離ればなれになる思いからだろうか・・・。 


「牧野・・・」
いつの間に道明寺は私の横に座わったのか、私の肩に道明寺の手がそっと触れる。
「会いたくなったらすぐに、帰ってくるから・・・」
道明寺を見つめ、私はわずかに笑みを浮かべた。
道明寺が無言で私の体を引き寄せる。
ゆっくりと道明寺の顔が私に近づいてきた。
私も目を閉じて道明寺の唇を待つ。
唇が重なった瞬間、道明寺が強く私を抱きしめた。
道明寺から抱き寄せられると、つま先から全身に熱が広がるような感じになり、私の体中を幸せな気分が包んでくれる。
ついばむような口づけを繰り返す道明寺に私はそのまま体を預ける。
この心地よさを永遠に感じていたいそんな思いがあふれだす。
道明寺は私の体を横たえて唇を首筋に移動させた。
その瞬間、私の体がこわばり私の思考が現実に引き戻される。
「ちょっ・・・ちょっと待って・・・」
慌てて私は道明寺の体を突き放した。
「今日は・・・ここまでじゃ・・・ダメ?」
自分でも酷なことを言ってるとは思いつつも言わずにはいられない
「あっ~」
案の定、道明寺の額に青筋が浮かぶのが見える。
いつかは道明寺とは思ってはいるが、心の準備というか決心がまだできていない。
私のわがままだとは思うけど道明寺ならわかってくれるよね。
そんな思いでじっと道明寺を見つめる。
道明寺は頭を抱え「ふ~」と大きくため息をついた。
そのあと「まったく、お前にはかなわねえ」と笑いながら、私の頭に手を置き、髪の毛をくしゃくしゃにするようになでた。
翌日道明寺はNYへと一人旅立っていった。

「つづきは今度な」と言い残して・・・。

拍手コメント返礼

hatake様

拍手コメントありがとうございます。

結婚前から結婚後ソシテ家族が増えて・・・

お話はどんどん膨らんでます。

初体験までのドキドキ感。

分ります。

この話ではまだまだですものね。

peko 様

コメントありがとうございます。

まずは手始めの物語。

ここからいろいろなお話に発展しています。

花男のイメージを壊さないことをモットーに取り組んでいますのでここから楽しんでいただければ嬉しいです。