第7話 満ちる月に欠ける刻 4

第7話 満ちる月に欠ける刻 3からの続きです。

-From 1-

*

手持無沙汰でなにをやったらいいか全く解からない・・・そんな感じだ。

「こうやっててもどうにもなんねえ」

突然道明寺が叫びだしグルグル落ち着きなく部屋中を歩きだした。

「まずはあの時の状態作りだすんだろう!」

気のせいか道明寺の目が恐ろしくすわっている。

今道明寺に睨まれたら素直になんでも「ハイ」と返事をしてしまいそうだ。

立ち上がった私は徐に歩き出す。

確か私は窓際の机の椅子に座ってて・・・

「お前じゃねえだろう!」

後ろの方から道明寺の慌てる声がした。

そうだった・・・

今の私は英 慶介で・・・

あの時・・・

幽体離脱してお空の上をプカプカ・・・て・・・慶介君は言ってなかったけ?

どうやって浮かぶ?

浮かぶことなんてできないじゃないかぁーーーーー

思わずバルコニーに続くバカデカイ窓を開け放っち足を数歩踏み出して上を眺める。

ロープでも吊り下げて飛んでみるのて出来るかな?

空の上まで何のさえぎるものもなく、ただただ昨日と同じ満月が顔を出していた。

飛ぶことは出来そうもなく・・・・諦める。

昨日は満月なんて久しぶりに眺めたせいか、なぜだか月に飲み込まれそうな感じがしていたこと思い出す。

綺麗だなぁなんて久しぶりに月を見て感動して結構ロマンテックに思えてたんだよ。

あの時までは・・・

私を椅子ごと道明寺が抱きしめて・・・

「ご褒美くれ」なんてあいつが言い出すから、なにかされそうなヤバイ感覚感じて・・・

それからおかしくなったんだと思いだす。

道明寺っーーーー

あんたさえ大人していれば私はこんな目にあわずに済んだんだ。

悪の根源はやっぱり道明寺だ!

気がついたら両手を握りしめ拳を握っていた。

ムカッとした気持ちをなんとかねじ込めクルッと180度向きをかえ、満月から部屋の方へと視線を移す。

「・・・・」

「・・・・・・・・・・?」

なにやってる?

私がPCの前に座って・・・

その私に道明寺が抱きついて・・・・

数メートル後ろから、花沢類!西門さん!美作さん!

さ・・・三人でジーと静かに見つめてる。

昨日の再現だと解かったが・・・

やだーーーーーー

自分の抱擁シーンなんて見たくない!

それも観客付きなんて

いったいなにやらせるんだーーーーーー

羞恥心の集中砲火浴びてるようで瞬く間に全身火だるま焼けつくような熱さが私を襲う。

こんなの見せられない!見てられない!

考えるより先に身体が動きだす。

バルコニーから目標まで至近距離。

決死の思いで椅子を挟んで抱き合う二人めがけて私はダイブしていた。

-From 2-

昨晩の牧野が入れかわった時の様子の再生・・・。

PCの前の椅子に牧野が腰かけて俺が後ろからギュっと抱きしめたところからリピートした方がいいだろう。

一人頷く。

「おい、お前ここ座れ」

外見は牧野の英 慶介に指図する。

素直に俺の横を通り椅子に腰かけた。

中身は違っても見た目は牧野だ。

やっぱり・・・

牧野は、牧野で・・・

抱きつく俺は結構うれしいかもなんて思わずにやついてしまった。

さっきはあんなに牧野の身体を借りものに英 慶介が語った言葉にむしゃくしゃ腹が立ったはずなのに・・・

ゲンキンなものだ。

それは否定しねえッ。

昨晩の様に椅子ごと後ろから牧野を抱きしめる。

いつものシャンプーの素直な牧野の匂いが俺の鼻をくすぐる。

中身は違ってもやっぱり牧野は牧野で・・・

抱きしめてる俺には何ら問題はない。

いつもならいろいろ文句を言いながら素直に抱かせてもらえない分、今日の牧野は俺のなすがままで・・・

俺の心の隅にちょっとした邪心が湧きおこる。

いつもは・・・できねえことしてみてぇ。

牧野の首に回していた腕を少し下に下げ思いっきり牧野の胸ごと抱きしめた。

「やっぱ、やわらけぇ」

ムフッて、くすぐったい気分になって来た。

「あの・・・確か・・・結構嫌がってましたよね・・・」

シャープペンシル首筋に当たられて・・・」

こいつ・・・

どの辺から見てやがったんだ。

思わずギョッとなる俺。

「あーあーこの際だなんて邪な考えもってんじゃねーの」

ニヤリとするあきらを「うるせえ」と睨みつけた。

「あいつの嫌がりは単なるポーズで・・・彼氏が抱きついて嫌がるやつなんていねえだろうが」

俺・・・

なんで慶介とか言う野郎に弁解しなきゃなんねえ。

あほくさい。

「イヤ、牧野の場合は司に抱きつかれのマジで嫌がってる時あるぞ!」

「蹴りいれられることもあるじゃねえかぁ」

今度は総二郎が俺につ込み入れてきやがった。

「バカ野郎、それは単に恥ずかしがってるだけだろうがっ」

どいつもこいつも俺の邪魔ばかりしてたまには協力しろと言いたくなる。

こいつらに協力させたら遊ばれるのが落ちだろうけどな。

「でも・・・」

なにか言いたそうな表情で俺の腕の中の牧野が俺につぶやく。

「ごちゃごちゃ言わず続けるぞ」

頭ごなし否定してもう一度ギュっと抱きしめた。

「やっぱ・・・やわらけえ~」

この後・・・

倒れるんだよな・・・

俺達だけで倒れてもその場の再現にはならない。

空をうろうろしていたという英 慶介。

牧野・・・

どう再現するつもりなんだろう・・・

飛べるはずねえよな・・・

英 慶介の姿を部屋の中で探す。

いねえ・・・どこ行った?

バルコニーにいた!

なにしてる?

上を見上げて固まている・・・

しばらく夜空を見上げていたと思ったらクルッと半周して俺と目があった。

目が飛び出しそうな顔して今度は口が「あ」の状態で開いたまま動きが止まる。

俺が牧野の胸に腕添えてるの気がついた?

ばれたら・・・蹴りぐらいじゃ済まないかも・・・

これぐらいで切れられたら彼氏の面目丸つぶるじゃねえか。

たまには俺もいい想いしてぇーーーーーー。

あいつ・・・

目がつりあがってきてないか?

そして・・・

走り出したと思ったら必死の形相で俺らめがけて飛び込む勢いだ。

さっきのは冗談でこれ以上なんにもする気はない!

牧野落ち着け!心の中で叫んでいた。

どんどん英 慶介のド迫力がアップで近づいてくる。

ま・ま・牧野!

お前・・・今男だ!

そのまま力加減なしで飛び込んできたらやばいぞ!

いつものお前の一回りはある体格考えろ!

手加減・・・

俺の気持ちもむなしく爆弾が爆発するみたいな勢いのまま英 慶介の体格が牧野の体にブチ当たり、俺は空の椅子ごとひっくりかえり床に投げ出されていたのだった。

-From 3-

下敷きになっているのは外見英 慶介でその上に外見牧野が覆いかぶさっている。

倒れる前に一応自分の身体をかばったのだろうか・・・

俺の気持ち届いた?

ここで・・・

ホッとするはずが俺・・・

固まったまま動けなくなってしまった。

覆いかぶさってるのは身体だけでなく・・・

唇まで覆いかぶさってるじゃねーか!?

牧野が牧野にキスをした!

シャレにもなんねえッ。

見た目は俺の前で別な男と牧野がキス!

以前類が牧野にキスしたと知ってすげー嫉妬したこと思いだす。

その時以上の衝撃。

今度は実写版見せつけられて俺が正気でいられるはずねえじゃねーか。

このっーーーーーーーー野郎っ!

飛びかかろうと思ったが・・・

牧野なんだよな。

どうしようもねえっ

思わず拳で壁をぶちぬいた。

「こんな偶然2度も見られるとはね・・・」

「確率半端じゃねーよな・・・俺達」

ぼそぼそ横であきらと総二郎が言い合っている。

「確か・・・司は牧野との偶然のキスがファーストキスでこの辺から牧野を意識しだしたんだよな・・・」

てめえらなにがいいたいんだ。

そんな昔の出来事ほじくり出して・・・

こいつらの考え理解できない。

耳だけはこいつらに傾け視線は牧野を凝視し続ける。

ガバッと二人飛び退いて・・・

そして呆然とした顔で見つめ合っている。

こいつらの頭の中・・・今どうなってるのだろう。

自分が自分に・・・だろう?

まあ唇の感覚は違ったとしてもあまりいい気もちがするとは思えねえ。

「わっーーーー」

飛び退いた拍子に牧野が大声あげた。

そして・・・

自分の顔をまさぐるように触り始めた。

英 慶介と俺を交互に見つめ、類、あきら、総二郎と視線を移す。

「戻った!」

そう言いながら俺の首に両腕巻きつけ懐に飛び込んできた。

「戻った!戻った!もどったよぉぉぉぉーーーー」

「本当に牧野か?」

力強く牧野が何度も頷く。

「まきの・・・」

今度は俺の方から牧野の存在を確かめるようにガシッと抱きついた。

まて・・・

俺の思考が時間を少し巻き戻す。

と言うことは・・・

俺以外の男とキスしたの見せつけられた事になるじゃねーかぁぁぁぁぁーーーーー

じろりと英 慶介を睨む。

「司、不可抗力なことでこいつを怨むな。もしかしたらキスの御蔭で戻れたかもしれないしね」

相変わらず類は冷静に物事分析しやがる。

類!お前も牧野にキスしたんだったよな!

お前にだけ言われたくねえよ。

またムカムカしてきやがった。

「お前さ・・・さっき英 慶介が入れかわる前・・・思いっきり抱きついてたよな」

「男にあんだけ抱きつかれて英 慶介どうだったんだろう・・・」

「男に思いきり抱きつかれて・・・胸触られて・・・俺なら絶対いやだ。トラウマになりそう」

総二郎がニヤリとする。

お前・・・

英 慶介の気持ち思いやっている訳じゃねえだろうがぁぁぁ

牧野に俺の行動知らせるつもりで、わざと言ってねえか?

「そうだったけっ・・・」

牧野に気がつかれたらヤバイじゃねえか。

総二郎の言葉に俺のムカムカも影をひそめる。

「胸・・・触ってたのッ」

久しぶりに聞こえる怒の籠った牧野の声・・・

俺の背中に冷や汗が流れた。

抱きついてた牧野の身体が俺から離れ顔面パンチをお見舞された。

                                      

                                       FIN

終わりました。

て・・・無理やり終わらせてしまいました。

最初と最後はオチャラケぶりを司に発揮してもらって終了です。

やっぱりこれが私の中の司のイメージなんですよね。

大丈夫!大学卒業するころは立派に大人に成長させた司を描きたいと思っています。

成長してるかな?(^_^;)

最後までお付き合いありがとうございました。