第8話 From one's heart 4

From one's heart 3からの続きです

*

-From 1-

牧野を脇に抱え込んだ状態のまま車は屋敷の門をくぐった。

「お待ちしておりました」

カクカクに頭を下げて俺達を出迎えたのは今一番会いたくねえ奴、西田だった。

西田の顔見てたらテンション急降下。

地面にぶつかる寸前でなんとか持ち直して踏ん張った。

今日の一番の功労者に、ホッと息を噴き出した牧野が西田の方に駆け出そうとする。

素早く牧野の腕をとり俺の方に引き寄せた。

「ここまで来て、西田かよッ」

皮肉たっぷりに牧野の耳元でつぶやいた。

固まった表情から唇を噛みしめて視線を下に向けた牧野の顎を荒々しく持ち上げる。

「無理やり連れてくるからでしょう!」

相変わらずの強気な言葉が返ってきた。

たまには俺が喜ぶような言葉が素直に出てこないものかと鼻の頭をつまんでやった。

「イタッ!なにすんのよ!」

「元気でたな」ニヤッと笑って西田に視線を移した。

「なにしに来た?」

「ぼっちゃんのしりぬぐいに」

冷めた感じでにっこりと西田が笑顔を作る。

「もう片付いたんじゃねえのか?」

毒々しさ丸出しで片唇上げて不敵に笑いを作る。

「お屋敷の使用人から連絡を受けまして・・・」

「お祝いの花束、メッセージなどが数十社、品物も届いております」

メモを取り出して次々に社名に個人名を西田が読み上げ始めた。

呆けたような顔でそれを牧野が見つめてる。

「すべて連絡をとって事実無根と伝える作業、まだ終わっておりません」

西田は無表情のままだが俺を非難してるのは明白で・・・

これ以上西田の発言聞いてるとなに言われるか解かんねえ雰囲気にいら立つが反論できるはずもない。

「あーーーー解かった!全部お前に任せる」

そう言うしかなかった。

「心得てます」

「坊ちゃん、道明寺の次期総帥として言動を甘く見ない方がいいですよ」

「ああ」

テンション下がったまま返事する。

西田が満足そうにほほ笑んで頭を下げて奥の方へ姿を消した。

「道明寺どういうこと?・・・ちょっと来て」

すごみを持った牧野の瞳が俺を睨んでる。

取調官にうながされて容疑者が取調室に連行される様に俺の部屋に連れていかれる。

完全に立場が逆転していた。

使用人の目を気にしての牧野の行動だろうが、そこまでされるってことは・・・

結構きつい状況が思い浮かぶ。

馬乗りで殴られる?それとも・・・蹴りか?

言葉だけじゃすまない雰囲気

仕方ない。甘んじて受けよう。

覚悟を決めた。

あーーーー車の中に戻りてえッ。

俺の部屋のドアがパタンと閉められた。

「あんたが喋ったの数人じゃなかったの!?」

俺が下げたテンション牧野に移行してた。

すごい気会いが入った牧野が怒り爆発させて俺に迫ってる。

車の中でいじめ過ぎた反動も・・・多分ある。

「俺が喋ったのは本当に数人!」

「その後あっという間に情報が流れたみたいで・・・俺のせいじゃねぇーッ」

「あんたのせいでしょうがーーーー」

「半日でこんなことになるなんて普通あり得ないでしょう」

「自分の立場理解してないからじゃない!」

息を吸うのも忘れた様に肩で息しながら一気に牧野がまくし立てる。

こいつ・・・

西田と俺の会話で全部気がついていやがった。

俺の一言、突拍子もない買い物でこんなに簡単に人が動くなんて俺も今日初めて気がついた。

恐ろしきは道明寺の影響力。

俺も甘く見くびってた。

「もうしねえ、軽はずみな行動はしないから、許せ」

左手で頭ごと胸に牧野を抱きよせ腰に手を回しギュッと力を込める。

「許せ」

牧野の耳元でつぶやいた。

徐々に牧野の身体の中から力が抜けていくのを俺は腕の中で感じとる。

どう取り繕っても弁解が出来るはずはない。

こいつの言うとおり俺が道明寺司でなかったら単なる誤解で解決していたはずだ。

素直に謝るしか道はない。

自己中の俺にしてはすごい決断なんだぞ!

牧野だから素直に謝ることが出来るんだ。

この世界で唯一俺が頭を下げることが出来る存在。

それが・・・

お前だけだってことをこいつは気がついているのだろうか。

謝りながらも牧野が俺の腕の中にいる幸せ感じてた。

そして、もう一度強く牧野を抱きしめた。

-From 2-

「あのさ・・・解かったから・・・離してくれない?」

頭に血が上ったからといってとんでもない所に来てしまってたと気がついた。

あの時は・・・

ほかの人の目が気になって・・・

普段人のいないこの家に使用人多すぎなんだよーーーー。

その無数の目が私達二人に注がれて・・・

道明寺に言いたいこと全部言ったら妊娠騒動を丸ごと暴露するようなものだと気がついた。

二人っきりになるとこ考えたら、道明寺の部屋しか思いつかなかった。

ほかにもたくさん部屋はあったはずなのにッ!

よりによってなんでこんなとこ引っ張ってきちゃったのかな。

弱り目に祟り目とはこのことだ。

道明寺に抱きしめられた私の視線の先に1週間前に押し倒されて拒否した舞台が広がってる。

このままいたら再現される!

そう思った。

妊娠騒動のその後にいきなりそんな気分になるような神経を私は持ち合わせてはいない。

それなのに道明寺ときたら妊娠騒動のさなか「子供作った方が楽しくねぇ」なんて言ってた。

どういう神経してるんだ!と怒ってみたが、このままいったら噂を本当にされそうな勢いだった。

私が無理やり部屋に道明寺を引っ張ってきたようなこの状況。

自分からオオカミの檻の中に身を投げ出したようなものじゃないか。

どうすればいい?

まだ生理続行中と誤魔化すか・・・

最悪、押し倒されても妊娠する可能性は薄い時期なはず!と自分を慰めた。

道明寺に「許せ」と抱きしめられた瞬間に解かんないうちにあいつの術中にはまっていく感覚に襲われる。

バカとか・・・

鈍感とか・・・

わがまま女とか・・・

いつも聞きなれた言葉なら、それをそのまっま反復して投げ返し睨みつけて部屋を出ていくことができるのに・・・

こんな時に限ってなぜ私が動けなくなるような言葉を囁くのだろう。

自分から道明寺を押しのける力なんてス~と身体から抜け落ちていた。

そして、もう一度・・・

「離して」と哀願する。

背中にまわしたいた道明寺の腕がフッワと解かれたように思えた。

その腕がゆっくり上に上がり私の頬を大きな手のひらがそっと挟んだ。

「許してくれるんだよな?」

手のひらがキュッと動いて私の顔を上に上げさせられたと思ったら潤んだような瞳がじっと見下ろしていた。

その瞳に中に私の顔が映し出される。

「ずるい・・・」

そんな顔されてしまったら、許すの言葉しか見当たらなくなってしまう。

いつもの自信満々にエネルギーを充満させて自分の存在感をはっきり示すそんな目力をいったいどこに隠したの?

やさしく愛おしそうに見つめられキュンと心臓が締めつけられた。

「許すしかないじゃない」

視線を下に向けながら甘えるような声になっていた。

もう一度、道明寺が私の顔を持ち上げる。

「すげー真っ赤」

私が視線をそらさないようにしっかり両手で固定されてしまってた。

キスされる・・・

そっとまつげを伏せようとした時、道明寺の唇が近づいたと思った瞬間に私の唇をスールした。

私の頬を挟んでいた両手は、一腕は腰にまわされて、もうひとつはそっと私の髪の毛を弄び、ギュっと抱きしめるように動いてた。

私の頬に道明寺の頬がやさしく寄り添う。

「俺・・・今回は先走り過ぎたけどすげー幸せだった」

「牧野がいつも俺の側にいて、子供抱いて、子供あやして、なんか、幸せあふれ出しそうで・・・」

「想像しただけで楽しくなってしまってこんなバカ騒動起こしてた」

「でも本当にうれしかったんだ」

言いわけのような・・・

なんかの告白みたいな・・・

くすぐったい感情が耳元を掠めてた。

耳元にやさしい音楽が注ぎ込むように道明寺の言葉が響く。

愛してる・・・

全然違うこと言ってるのに道明寺にそう告白されている気がしてきた。

胸の奥で何かがはじけて飛び出した。

うれしくて・・・

幸せで・・・

大騒ぎした妊娠騒動もすべて飲み込んでやさしさがあふれ出す。

気がつけば両腕を道明寺に回し、道明寺に負けないくらい力いっぱい抱きしめる。

「いつかきっとその幸せかなえてあげる」

From one's heart・・・

心の底からそう思った。

「でも大学卒業してからだからね」

照れたように笑ってそして道明寺の耳元で囁いた。

FIN

なんとかうまくまとまりましたでしょうか?

お付き合いありがとうございました。