ディナーの後で

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すんなり!スムーズ!予定通り!

完全とはいかないまでもここまでくれば合格だ。

本来の目的地までなんとか到着。

NYに行くより遠かった気分がしてた。

レストランの入り口で名前を告げる。

今日の為に予約した夜景ばっちり見えるホテルの最上階。

最高の席が準備してあるはずだ。

奥につながる個室のVIPルーム。

ここなら誰の目も気にせずゆっくり牧野と二人食事を楽しむとが出来るはず。

俺が楽しむのは料理より何より牧野だけど。

席に案内されてメニューが出てくるより早く支配人が顔を出した。

「ようこそお越しくださいました」

「お久しぶりでございます司様。今日はかわいい方を連れですね」

牧野を見てにっこり支配人がほほ笑んだ。

お世辞は抜きにしても牧野を誉めららるのはうれしいものだ。

気を良くした俺は「婚約者」だと紹介した。

「坊ちゃんはこんな小さいころから知ってるんですよ」

支配人が腰のあたりで手をふらふらさせて牧野に話しかけ出した。

ガキの頃、類にあきらに総二郎と四人、料理の投げ合いやったことなんて話されたらせっかくのムードに水を差す。

「挨拶済んだらもういいだろう」

不機嫌そうな態度をとる。

「私とした事が・・・失礼しました」感情は出さずに笑顔を作って支配人が頭を下げる。

「では・・・ごゆっくり」

なにもかも見透かされていそうな支配人の雰囲気は俺の居心地を悪くさせる。

そんなことはどうでもいい事で・・・

支配人にどう思もわれようと牧野と二人楽しい時間が流れればいいわけだ。

「あっ・・・待て!」

俺は大事なことを思い出し慌てて退室しようとした支配人に声をかけた。

俺に近づく支配人に耳を貸すようジェスチャーで示す。

この話が牧野に聞かれた日にはこの後お楽しみがおじゃんになる可能性もなくはない。

小声でそっと音が漏れないように支配人の耳元に唇を近づけた。

「今日このホテルに泊まることになっている」

「まだチェックインしてないからキーを頼む。あ・・あいつにばれないように・・・」

牧野の様子をチラチラ気にしながら早口に喋った。

それだけで喉がカラカラに乾いてきてグラスの水を一気に飲み干す。

「かしこまりました」

杓子定規に支配人が頭を下げた。

「ぼっちゃん、少し落ち着かないとばれますよ、総二郎坊ちゃんみたいになれとは申しませんが・・・」

眉をひそめて今度は支配人が俺に耳打ちするように忠告した。

「総二郎はよく来るのか?」

思わず小声でなくなっていた。

「ハイ、司坊ちゃんが頼まれたのと同じことなさいます」

「ご武運を」

ご武運を・・・そこだけ強調して支配人が出て行った。

「何こそこそ話してた?西門さんの名前も出てたみたいだけど?」

「あっ!えっ!なんだ!」

自分が出した声に思わず驚く。

今、支配人に言われたばかりだ!

落ち着け!俺!

「料理の確認しただけ、俺ヘンなもん食えないから・・・総二郎もよく来るみたいだ。そんな話・・・した」

おかしくのないのにヘラヘラ笑ってた。

眉をひそめてちょっと疑わしそうな牧野の目が俺の心臓にグサッと突き刺さる。

水を飲もうとグラスに手を伸ばしたが・・・空だった。

仕方ないから空のグラスに口を近づけ空気を飲む。

喉の乾きが収まるはずがない。

やっぱり・・・

どう見ても挙動不審に陥っている。

総二郎みたいになれるわけがない。

とっかえひっかえ女連れてきて、俺が照れくさくて言えねえようなセリフを総二郎は囁くのだろうなと想像する。

「・・・・」

女が喜ぶようなセリフ俺には思い浮かばなかった。

ここの料理何でも食っていいぞ!

俺のおごり!

お前のその食いっぷりに惚れている!

牧野が笑うようなセリフなら思い浮かぶが、とても甘いものには程遠い。

落ち着きのなさがドンドン牧野に暴露されてい行くようで・・・

牧野を見れずに視線が泳ぐ。

ウェイターがワインのボトルを運んできたのがいいクッションになってくれた。

「ワインでも飲んで落ち着こう」

注がれたワインを口に運ぶ。

落ち着くのはあんただけ!って・・・そんな目で牧野に見られてる気がしてた。

ワインの味なんてわかるわけねぇーーーーッ。

運ばれててきた料理も出されるままに口に押し込む。

「おいしいねッ」と、ほほ笑む牧野に「ああ」と生返事しか返せなかった。

料理もデザートに差し掛かる頃、支配人が現れて自然な仕草で名刺大の小さな封筒を渡してくれた。

この封筒に入ったのがホテルの部屋のカードキーなんて牧野には解かるはずない。

牧野の目の前バッチリ封筒が横切って大丈夫なのだろうか・・・

牧野に「それ、何なの?」と質問されたら・・・

俺・・・

正気でいられない。

冷たい汗が背中を伝った。

「お嬢様もどうぞ」

同じような封筒を支配人が牧野に差し出す。

なんで牧野にキーを渡す?

もしかして・・・

別々の部屋か?

そんなわけねえだろう!

思わず立ち上がりそうになった俺を片眼をつぶって支配人が押しとどめる。

「今日の記念のメッセージカードです」

「それでは失礼いたしました」

退室する支配人を俺は呆けた顔で見送った。

「『今日の夜の思い出に・・・楽しいひと時を』だって、洒落てるね。道明寺のカードはなんて書いてあるの?」

にっこりほほ笑んで牧野が俺の返事を待つ。

もしかして・・・

これがいつもの総二郎の手なのだろうか・・・

あいつの場合は自分でメッセージカードと花束準備してそうだがな。

ここで「部屋をとってある」なんてスウィートルームのキーをチラリと見せればうまく行く!

それは・・・・

総二郎の場合限定!

俺の場合・・・

相手はあの牧野だぞ!

カードに書いてあるのが部屋の番号なんてまだいえねぇーーーーー。

「同じこと」

そう言ってごまかして・・・

ジャケットのポケットに封筒をねじ込んだ。

さあこの後・・・

司どうつくしを口説くつもりなのでしょうか?

「なんて書いてあるの?」とつくしに聞かれて、

「部屋番号」て何気に口にする流れも考えたのですが・・・

ばらしたらそれまで!

みたいな気がして書くの辞めてしまいました。(^_^;)