第2話 抱きしめあえる夜だから 2

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-From 1-

「玲子さん、これ、かわいくないですか?」

道明寺と結婚してからの数カ月、自分で選んで買い物なんてした事がないと気がついた。

初めての給料もほとんど手つかずのまま。

お金のいらない生活て本当にあるんだよなぁ。

わざとSPが入りこめない下着専門店。

客が一人も入りこんでこないのはSPの所為だ。

仕事が終わって玲子さんと二人で道明寺ホールディングス本社を後にする。

無駄だと分かっていながらここからは護衛はいらないと言ってみた。

「これからが本番です」

にこりともしない真面目な顔が四方から迫る。

オフィス街を歩きながら気にしないと思っても目立つSP。

SPって・・・

そんなに目だっていい者なのだろうか・・・

いかにも重要人物がいると教えているようなものなのでは?

私が重要なのは道明寺だけだろうけど。

玲子さんに目配せされて店舗が並ぶ一角に飛び込んだ。

「わ~あ」

色とりどりの新作下着が並び、目を奪われる。

学生時代は1枚1000円の下着を懸命に悩みぬいて買ったんだよなぁ。

道明寺と付き合う前は下着なんて人に見せる訳じゃないから着れればいいと思ってた。

ブラとおそろいとか・・・

道明寺に見られちゃうとか考えていた淡い想い。

そんな昔じゃない遠い記憶。

今はいくらか値段も分からない高級下着が勝手に補給されている。

「つくしちゃん、こんなのはかないの?」

玲子さんが私の目の前に1枚のレースひらひらピンクのパンティーを広げてる。

「かわいいですね」

受け取って何気なくパンティー見つめる。

ぬっ?

これって・・・

真ん中・・・

一番大事なところを隠す場所・・・

割れてるんですけど・・・

「ギャーッ」

使い道に妄想が走って顔が熱くなる。

小さく悲鳴を上げてひらひらレースを放り投げていた。

「れ・・玲子さん・・・こんなの買うんですか?」

「一度彼氏にプレゼントされたわよ」

「さすがに自分じゃねッ」と玲子さんの頬も赤くなった。

道明寺が下着を選ぶなんてあるはずない。

でも・・・

こんな下着があると知ったら喜んで買いこんできそうだ。

これをつけろって強要されたらたまんない。

せいぜいTバック程度でとどめてほしい。

それも結構勇気がいるぞぉーーッ。

「このお店、試着室から外に抜け出せるわよ」

笑いあって寄せあっていた玲子さんの口元が私の耳元でつぶやいた。

「作戦実行ですね」

この高揚感はくせになりそうだ。

ドキッと高鳴る胸を押さえて二人で店の奥えと歩いて行く。

店の前に立ちはだかるSPの背中に向けて「ごめんなさい」と謝った。

-From 2-

走り出す店の外。

SPの立ち位置からは裏手の通り。

追いかけてくる気配はなし。

「あーーッ、緊張した」

乱れた息を整える。

タクシーを止めて玲子さんと二人で乗り込んだ。

タクシーに乗るの何年振りだろう。

タクシーを利用するのが庶民感覚と思える自分がいる。

もったいないから歩くと言っていた頃が懐かしい。

「さあ、なにをいたしましょうか?若奥様」

からかい気味の玲子さんの態度がなぜかうれしい。

「まずは腹ごしらえ」

「玲子さんの行きつけの場所に連れてって下さい」

「いいわよ」

玲子さんがタクシーのドライバーに行き先を告げる。

私たちを乗せたタクシーは誰も気にする者もなくSPだけを店の前に残して走りさった。

数分もしたら大騒ぎかな?

ふとよぎる不安。

なんとかなるでしょうと楽観的希望。

携帯を取り出し帰るのが遅くなるとタマ先輩に連絡を入れた。

「のんびり羽を伸ばしておいで」

年の功よりタマの功か?

私の窮屈感をしっかりタマ先輩は気がついてくれている。

その言葉に誘われる様に「あいつSPを張りつけたんですよ」と愚痴ってた。

「それで坊ちゃんが安心すれば安いもんだろう」

SP4人分・・・

けして安い料金ではないと思うんですがタマ先輩。

「分かってます」

「それと・・・SPを置き去りにしてるのでタマ先輩の方でうまくやってもらえませんか?」

「ブハハハハ」

聞こえてきたのはタマ先輩の壮大な笑い声。

「坊ちゃんもよくやってたねぇ」

「そのしりぬぐいは私じゃなく西田さんだったけどね」

「まあ楽しんでおいで」

笑い声を響かせたまま携帯はきれた。

玲子さんに連れていかれたのは洒落た作りのレストラン

・・・じゃなくて・・・

赤い暖簾のかかったこじんまりとした安普請のお店。

店の中はいかにも常連さんの憩いの場という感じだ。

なんだか女性二人で目立ってた。

周りは仕事帰りのサラリーマンが数組。

それで店の中はいっぱいだ。

どうみても玲子さんのイメージーは静かなフレンチレストラン。

カッコイイウェーターの洗練された給仕。

こんな感じなんだけど・・・

目の前にいるのはタオルを頭に巻いた中年のオヤジ。

「よっ!久しぶり、今日はかわいい子連れてるね」

「私もかわいいでしょう」

「いつも美人」

「ありがとう」

カウンターの前に席をとり私はちょこんと頭を下げた。

何気ない二人の会話の中に気心の知れた気さくな関係がうかがえる。

「ここ見た目は悪いけどおいしいのよ」

「見た目って俺の事じゃないだろうね」

「大将、自覚あるんだ」

打てば響くような会話のやりとり。

聞いてる方も楽しくて笑いがこぼれ出す。

「こんなお店好きです」

緊張感がなくて・・・

和気あいあいって感じで。

そこになじんでいる玲子さん。

またその人柄にほれ込んだ。

いつの間にか店の中はグループがまじりあい、仲間の垣根も超えていた。

昔からの知り合いみたいにジョッキでの乾杯の掛け声が上がっている。

玲子さんと私もその中に溶け込んで乾杯の音を重なり出していた。

私達二人以外は若いサラリーマンのお兄さん。

その中の2、3人とは玲子さんとは顔見知りのようだった。

これを道明寺に見られたら・・・。

やばくない?

道明寺の不機嫌丸出しの顔がフッと浮かんで、頭をブルッて追いだしていた。

今ここにあいつが現れるはずはないのだからと・・・。

-From 3-

「初日から遅くならない方がいいわよね?」

玲子さんが見せる心使い。

もともと道明寺がSPさえ私に張り付けなければ真っ直ぐ帰宅していた変わらぬ日常のはずだった。

何の異論もあるはずがない。

「ありがとうございました」

玲子さんに見送られてタクシーに乗り込んだ。

気さくなお店で、飾り気のない会話。

久しぶりに味わった手足を伸ばしきった肩の凝らない時間。

本来の自分に戻ったよう・・・。

数ヶ月前の生活だったんだよなぁ。

今の生活に不満がある訳ではない。

道明寺の傍で、道明寺と一緒に責任も重圧もすべて受け入れると決めたのだから。

それでも・・・

やっぱりこの感覚は生き返る!

二十数年積み重なった感性はそう簡単に書き直せるものじゃないと改めて思いしらされた。

夜の9時を回る頃には自分の部屋にたどり着く。

学生時代に道明寺の携帯に呼び出されこそっと家を抜け出して、朝方家に戻った時の罪悪感を思い出す。

違うのは帰り着いた玄関先でSPが仁王立ちで張り付いていた事。

「心配してました」と、頭を下げられた。

「すいません」

「でも、今までどおりでいいですから」

さっきの店に置き去りのSP相手には強気になれず声のトーンも低くなってしまう。

「そんな訳にはいきません」

「明日もお迎えに上がります」

きっぱり拒否して45℃の会釈を返された。

道明寺に早く連絡を付けて警護の事は取り消させると心に誓う。

連絡をつけたい相手は雲の上。

明日にならないとどうしようもない。

明日までの辛抱と自分に言い聞かせた。

シャワーを浴びて部屋着に着替えてホッと一息つく。

自分の部屋で落ち着かず結局、道明寺のベットに寝そべった。

自分の部屋のベットはお飾りで使う形跡は今のところ皆無。

道明寺の匂いがする・・・。

ベットのシーツは毎日すべてとり変えてあるはずなのに、あいつの残像を求めてる。

1週間は長いよ。

離れて半日を超えたばかり・・・

いつもの部屋に一人ではさびしさだけが募り出す。

結婚するまでは忙しくて滅多に会えなかったのに、こんなにさびしい気持ちになることはなかった。

この生活にも屋敷にも慣れてないからだと理由をつける。

1日目からこうなるなんて情けない。

明日になったら道明寺に連絡を入れてSPの事を文句を言ってやる。

声を聞いて、会いたいと言いたくなったらどうしよう。

こんなんじゃダメだ!

湧き上がるさびしい思いを閉じ込めるように頭からガブッと布団をかぶった。

続きは 抱きしめあえる夜だから 3 で

この後の展開まだまだ未定です。

明日までに考えつくかな・・・(^_^;)

そろそろ司君の出番も考えないと・・・

まだ飛行機の中か・・・

携帯もつながんねーーーーッ。

拍手コメント返礼

ささ様

お久しぶりです。

いえいえ毎回来て楽しんでいけるだけでうれしいです。

怒涛の夏休みも残り半分をきりましたね。

あと少し♪

夏バテしないようにお互い頑張りましょうね。

お暇な時にまた感想を聞かせてくださいませ~。