第12話 ないしょ?ないしょ!ないしょ!? 16
*-From 1 -
どうにかしなきゃなッ、牧野の格好。
ジーパンに薄手の白いブラウスのラフな格好。
午前中までビル内をコンテ運んで動いてたのだから仕方ない。
これじゃどう見ても学生のあて名書きのバイトの雰囲気。
俺とつりあわねぇぞ。
こいつのことだ大した服を持ってるわけねぇし。
昼からは俺の横でハンコを押している。
真剣に書類を見詰める横顔はドキッとするほど凛としてて目が離せねぇ。
俺がニ度惚れしてどうする。
俺のまじめなところを見せて再認識させるのが目的のはずだ。
反対じゃねぇか。
俺の視線に気がついたのかきょとんとした表情を牧野に向けられてそれにもドキッと心音が一つ。
これでは仕事が終わるまでもたねぇ~。
デスクの左横の内線電話。
受話器を取って短縮番号を押す。
「ハイ」
低音無感情の言葉が一つ。
「1、2時間外に出たい」
どうにかしろの印を含んで無言になる。
「お出かけですか?大体の予測はしてました」
だったらため息交じりで反応するな。
受話器をガチャッと切って隣をみる。
「どこに行くの?」迷惑そうな視線を向けられていた。
「お前の為だぞ!」
「はぁ?」
「私の為って、今度はなに?」
非難めいた疑問符をぶつけられる。
「その恰好じゃ、釣り合わねえだろう」
「今から買いに行く」
言い終わらないうちに椅子から立ち上がり牧野の腕を引っ張るように歩きだす。
「えっ・・・ちょっと!」
「いいから行くぞ!」
前のめりに倒れかかる牧野にお構いなく部屋を出る。
「そのままご帰宅でもかまいません」
待ち構えていた西田がそう言って頭を下げた。
でかした西田。
秘書室の中を牧野の手を引く格好で足早につき進む。
驚く秘書達の顔にもニヤケてしまう。
牧野の方はこわばったままの表情で顔を隠すように俯いてしまってた。
見送る西田が「ハー」と長めのため息をひとつ。
今は気にも留めない。
エレベーターに乗り込んだところで牧野がガシガシ手を振り払われた。
するりと俺の手の中から牧野の腕が逃げ出した。
「もう恥ずかしい」
牧野はゆであがってしまっている。
「別に気にするな」
ククッと喉元からあふれる笑い声。
止めようがない。
地下室まで直行のエレベーター。
牧野は点滅する数字をハラハラしながら見つめてる。
もう誰にも会う心配はないぞ。
教えてやんねけど。
車に乗り込んで会社を出る。
いくつもの高級ブティックが立ち並ぶ通りに車を向かわせた。
自動ドアをくぐった側から店長が愛想よく顔を出す。
「こいつに合う服を頼む」
「かわいらしいお嬢様で・・・」
御世辞はいらねぇよ。
次々に試着させられてゼロが多いなんて愚痴ってる。
それなりの装いは俺といるには必要なわけで、そこのところをまだ牧野は理解してない。
選びきれない牧野は無視して俺が選んでやった。
「こんなに要らないのに・・・」
「一週間だけだよ」
素直に喜べばいいのに戸惑った表情のまんま愚痴ってる。
「最低でも7着必要だろう」
同じ服を着せられるわけないだろう。
仮にもお前は俺の婚約者。
「結婚すればこれくらいじゃたんねぇぞ」
「けっ・・けっこん!」
牧野の声が裏返る。
来年の今頃はきっとそうなってるはずだ。
「そろそろ覚悟しとけよ」
機嫌のいい明るい声でそう言って牧野の背中に腕を回して抱き寄せた。
-From 2 -
「次は靴にバックか」
鼻歌が出てきそうな機嫌のいい声が耳元に響く。
まだこれ以上買うの!?
ここまででも軽く百万単位は超えてるだろう。
私にしたら完全に宇宙を飛び出してる桁はずれの買い物。
「好きな女に買ってプレゼントするって男の楽しみなんだぞ」
なんて耳元で優しく囁かられたら愚痴る言葉も出なくなった。
「桁が違うから困るんだ」
いまさらいってみても不機嫌な顔をされるだけ。
お金の額なんて道明寺にはあってないようなものだと思い知らされている。
「俺のそばにいるときはそれなりの格好必要だろう」
「俺の股間にかかわる」
こかん?
じっと見つめて慌てて眼をそらす。
「そんな悩ましげに俺を見るな」
照れくさそうな道明寺の横顔。
こかん?
股間?
・・・。
沽券じゃないのか?
ようやく理解した。
プライドもなにもあったものじゃない言い間違い。
私以外に聞いてる人がいなくてよかった。
「結婚すればこれくらいじゃたんねぇぞ」
「けっ・・けっこん!」
股間のせいで結婚の真実味が別な方向に行きそうだ。
思わず声が裏返ってしまった。
「そろそろ覚悟しとけよ」
覚悟って何の覚悟よーーーッ。
機嫌のいい道明寺の声が私を包む。
道明寺は別に股間に関係することを言ってるわけではない・・・っと思う。
でも・・・
その・・・
背中にまわされた手が腰のあたりに落ちてきて・・・
その手を・・・
何気なく・・・
微妙に・・・
動かすかすのは・・・
やめてほしい・・・。
言葉には出来ず身体がこわばる。
「まてねぇ」
私を抱きしめたまんまの状態で上から響く狂おしい声。
まてねぇってここでかぁ?
車の中で私たち以外には後部席にはだれもいないけど。
無理だーーーッ。
「2年切ったぞ」
「えっ?」
「お前が大学卒業するの」
「俺の嫁さんなるんだよな」
あぁそっちか。
良かった。
「そ・・そ・・そうだね」
「今すぐにでもいいんだけどな俺」
「冗談!」
発した声がまた裏返る。
「我慢してやるから朝まで一緒な」
そんな取引あるの!?
拒否権を奪われた私の身体を強く抱きしめられていた。
この知能犯!
続きは ないしょ?ないしょ!ないしょ!? 17 で
話が別方向に進んでる?
いやいやここまでで(^_^;)
次回は仲よくお仕事を♪
何の仕事だぁぁぁぁぁぁ。