木漏れ日の下で 3

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-From 1 -

脱ぎ捨てた服を拾って身につける。

黒のアンダーシャツの上に漆黒のダウンジャケット、下半身を覆うのも黒のジーパン。

「カラス・・・」

グフッと吹き出すようにつくしが笑う。

夜の闇に紛れる様に足音も立てずに廊下を歩いた。

入口は警備員を脅してドアのカギを開けさせたけどな。

昼間は逆に目立つよな。

「強盗じゃん」

怪盗ルパンにキッドくらい言って欲しいよな。

不満がかすかに顔に出る。

『物は盗まず心を盗む』なんて名言なかったか?

俺にぴったりだと思うけど。

「お前を盗みに来ただけだろう?強盗じゃねぇよ」

「盗まれてないけど・・・付いてきてるし・・・」

照れたように笑ったつくしが俺から視線を外した。

そっとドアを開けて首だけ出してあたりをうかがう。

まだ完全に陽の昇ってない廊下を蛍光灯が照らしてる。

手を取り合って緑色の非常階段を目指して速足で進む。

「昨日も10時過ぎまで皆で学習してたから朝は遅いと思うけど」

静まりかえる廊下。

パタパタと響く二つの足音に聞き耳を立ててる様子はない。

誰に会うこともなく玄関へと到達した。

管理室の前をつくしに背中を押される様に通り過ぎた。

突っ立ったままの俺に腰をかがめたままのつくし。

俺は管理人に丸見えなんだけど・・・。

お前が姿隠しても意味ねえと思うぞ。

目が合って1秒、管理人はすぐに俺達から背中を向けて白い壁に視線を走らせる。

「脅したでしょう?」

窓から10センチ上に覗き込むように顔を出したつくしが管理人の様子を何気に観察してため息をつく。

「家族が会いに来ただけだろう?」

「家族でも泊まれないの」

「泊まってないだろ、起きてたし」

「バカッ」

勢いよく両手で押されて前のめりに倒れそうになるところを膝に力を入れて踏ん張る。

「あぶねぇだろう」

振りかえて声を上げた俺に注がれる4つの瞳。

管理人の視線を気にして頭を下げて恐縮するつくしが俺の腕を引っ張って怒涛のように駆けだした。

修習所を後にして歩く歩道。

すれ違う人影もなく車もまばらに通り過ぎる。

冷たい空気が肌を刺しブルッと震えて首をすぼめる。

温め合うように肩を抱いて寄せ合う。

「手が冷たいよ」

俺の指先に触れたほっそりとした白い指。

絡んだ指先は互いの手のひらに収まったままつくしのコートのポケットに収まった。

「これなら離れらないな」

「寒いよりましでしょう?」

「寒くなくてもこっちがいいに決まってる」

足元には枯れ葉を舞い上げる様に風が吹き上がる。

互いの体温をもっと感じられるようにポケットの中の手を握りしめた。

 

-From 2 -

「何ボケっとしてんだよ」

「えっ?イヤ・・・別に、ちょっとうれしいかな?なんて・・・」

ポケットの中で握りあった手のひらから伝わる体温。

ただそれだけのことで幸せになる気持ち。

口に出したら逃げちゃいそうであやふやな返事でごまかす。

「俺が会いに来てやったことか?」

「うれしいけど・・・それは困る」

今回は特別なんだからと口をとがらせてみても緩んじゃう心。

どうしようもなく道明寺には甘くなってしまってる。

「お腹すいたね」

「いつでも腹減るやつだな」

呆れたように道明寺が眺めてる。

「だってもう朝食の時間だよ」

修習所にいれば食堂に集まる時間。

食いっぱぐれた。

おいしいものでもごちそうしてもらわないと元取れないって気分にもなる。

修習所から何も考えずに二人で歩いた歩道。

木々に合間に見え隠れしていた修習所のビルも見えなくなった。

「運動すればお腹も減るよ」

「そうだな」

ニンマリとなる道明寺の口元。

あんたが考えてる夜のことは違うからねッ

1時間はゆうに歩いてる。

言えずにじろりとにらんだだけだった。

どっちでもいいけど・・・。

ハァとため息が出る。

このくらいの時間で開いてるとこって・・・

コンビニ、ファミレス、バーガーショップに牛丼屋。

さすがに朝から肉類は遠慮願いたい。

車道を挟んだ反対側に24時間の文字。

ファミレスを見つけた。

「道明寺、あの店に入ろう」

信号が青に変わるのを待って交差点を横切る。

ふと窓越しにレストランの中に視線を走らせた。

こちらをうかがう様な視線とぶつかって眼球の動きが止まる。

じっーと見られてる?

眼を細めて浮かぶシルエット。

「公平?」

なんでこの時間に公平がいる?

右手を上げて見慣れた顔がにこりとほほ笑んだ。

「別なとこ行くぞ」

不機嫌そうにつぶやく声の主のこめかみには青筋が浮かんでる。

「この店くらいしかないよ」

すぐにでも立ち去りそうな気配を見せる道明寺を阻止するように腕をつかんだ。

「食べなくても死なねぇよ」

公平を見ただけで拗ねないでッ。

言いたい気持ちをギュッと押し込める。

私にしては結構な我慢だ。

「素通りする方がおかしいよ」

しぶる道明寺の背中を押す様にレストランの自動ドアを抜ける。

公平に手招きされて同じ席についた。

「どうしたの?」

「何してる?」

同時に疑問符を相手に投げかけている。

公平の『何してる』は道明寺のことを問いかけてるのは察しがつく。

夜這いをしかけられましたなんて言えるはずない。

私の横では不機嫌そうに公平を一瞥した道明寺がそっぽを向いたまんまだ。

微妙な緊迫感が私を包む。

私がどう取り繕うか頭を働かせてる横で感情むき出しの反応見せるなッ。

会社で見せる冷静沈着、状況判断の素早い態度。

ここでも見せてほしいものだ。

大体道明寺が公平を嫌うのは私に対する嫉妬だと分かっているからいい加減にしてと言いたくもなる。

私と公平は大学からのいい友達の関係なんだから。

勘ぐられる筋合いは毛頭ない。

「家に帰ってたんじゃないの?」

公平は昨日夜遅くどうしても用事があると車で実家に帰って行った。

残った学習は今日の昼過ぎから皆で取り掛かる予定になっている。

私にしても公平にしても午前中はわずかな自由時間が残されていたはずだ。

道明寺が来なければその時間も勉強に回していた予定のはずなんだけど。

「用事を済ませて修習所にすぐに帰るつもりで車を走らせたんだ」

「中途半端な時間だったからファミレスで時間をつぶして過ごしてたら、意外な人物に遭遇ってところかな?」

口角を上げてわずかなほほ笑み。

「見つけられたくなかったか?」

最後にわざとらしく小声で痛いところをつかれてしまった。

「そんなことはないけど」

何となく気弱になる返事。

公平は私が困ることを言いふらすやつじゃないから安心はしている。

「俺がつくしのそばにいちゃ不都合でもあるか」

道明寺はケンカを売ってるような闘争心丸出しで今にも公平につかみかかっていきそうだ。

「どーみょうーじっーーーーー」

ぷつんと頭の中で糸が切れた。

続きは木漏れ日の下で 4

相変わらず鈍のつくしチャン。

さてさてこのにらみ合いはどうなるのでしょうか?

折角のいいムードを壊しにかかる私って・・・やっぱりドS

 

拍手コメント返礼

b-moka

司はきっと脅迫してるつもりはないかもしれませんよね。

ファミレスか。

面白そうですが庶民の朝食(^_^;)

b-moka

やっぱりファミレスしか浮かびませんでした。

公平君はどう動く?