第14話 DOUBT!! 6
*-From 1 -
「不思議だよね」
ぽつりと口に出たのは私の本音の部分。
花沢類を相手に吐きだしてる。
目の前の道明寺は私の知ってる道明寺のはずなのに知らないやつみたいで心の奥がズキンと痛む。
少しほほ笑んだ口元。
鼻筋の通った整い過ぎた横顔。
洗練された仕草。
自分より一回り以上の年上を相手にしても引けを取るどころか威圧感が周りの空気を押さえてる。
それはきっと道明寺の名前だけでなくこの人の持って生まれた魅力なのだろう。
魅了されるように集まる視線。
それに動じない強さに引き込まれる。
花沢類の側にいた私を見つけた驚きの表情はすぐに変わった。
熱い炎のような怒りのこもった眼差し。
そして一瞬淋しげに見えた瞳を長い睫毛が隠す。
「心配すんな、俺にはお前だけだから」
悲しげに感じた言葉は私の頭の中で幾度も再生されている。
道明寺らしくないよね。
いつもなら花沢類の腕を振りほどいて私を奪い取るぐらいの態度を見せるくせに。
横暴さも傲慢さもすべて押し込めたようにしてるのに瞳の奥にだけは燃え上がる様な熱さを秘めている。
馬鹿みたいに横着で、横暴で我がままな道明寺。
それをどこかに置き忘れた様な大人のあいつの態度。
子供より子供みたいに私を求めるあいつが好きなんだけど。
一人だけ取り残された気分になる。
こんな場所は場違いだ。
道明寺が隣にいないとダメみたいだと叫びたい衝動。
道明寺の横に当たり前のようにたたずんでいる西門さんに美作さんにまで嫉妬している。
隠したくなるような感情が生まれてギュッと唇をかみしめた。
「気になるみたいだね」
それもしょうがないかみたいな優しくほほ笑みを向ける花沢類。
きっとこの人達はすべて何もかも知っているのだろう。
「私を連れてきたこと・・・なにか意味あるの?」
「大いにね」
それ以上言う気はないとでも言うように花沢類は視線を私から道明寺達に移動させた。
3人の周りはきれることなく言葉をかわそうと人が入れ替わっている。
「あの中の半分は娘の売り込みだよ。
俺には牧野がいて助かった」
クスッと口角を上げて漏れる声。
「花沢類には珍しい冗談だね。そのために私を連れてきたわけじゃないでしょう」
突っかかる様な言い方。
「機嫌損ねたかな?」
私が不機嫌になる要素はどこにでも転がっていそうだ。
いつもは安心できる声にも落ち着けないのは完全にやつあたりだ。
ゆっくりとした足取りで長身の女性が私たちの前を横切り通り過ぎた。
妖艶な感じは美作さん好みか。
優雅な動作で3人の前で軽く会釈を見せる。
3人の雰囲気が変わった。
警戒してるような緊張感。
道明寺は別として美女を前にした西門さんと美作さんの態度としては珍しい。
スローモーションを見ているようだった。
女性が動いて道明寺に近づく。
伸ばした指先は道明寺の首にまきつく様に動いてそして自らの身体をわざと押し付ける様。
形のいい唇は笑み作って精悍な顔立ちの頬に押しあてられていた。
-From 2 -
「離せ」
遠慮のかけらもない冷たい蔑むような視線で一瞥して相手の腕を振り払う。
たいして表情を変えるでもなく女の口元には笑みが浮かんだままだ。
こいつが俺を牧野から離した張本人だとしたら何の遠慮も要らねえよな。
俺が遠慮するやつなんてそうそういねけど。
「司から婚約指輪もらたって3カラットのダイヤの指輪を見せびらかしてるらしいぜ」
「まだ牧野にもやってねぇよ」
会場につくまでの車の中であきらから告げられた内容はばかばかしいと笑い飛ばすに十分な内容。
「・・・まだって、お前は何やってんだ」
俺の返事に呆れたようにあきらがつぶやいた。
プロポーズしてから4年だぞ!って、非難じみたあきらの視線。
作らせてる最中だったんだよ。
今年の牧野の誕生日に指輪を贈ってもう一度プロポーズ。
感激に目を潤ませて牧野が俺に抱きつく。
牧野つくしとしての最後のあいつの誕生日。
最高の思い出の誕生日にしてやろうと決めていた日までタイムリミットは1カ月を切っている。
ふと視線を落とした女の左の薬指には輝くダイヤの指輪。
これが俺から貰ったとか言ってる婚約指輪か?
結構すげ~じゃねぇか。
俺から貰ったと言うだけのことはある。
納得してどうする!
気分をグッと引き締める様に身体に力を入れる。
どこかで見たようなやつ・・・。
凝視してしまった。
俺が牧野の為に作らせてる指輪に似ているような・・・?
まさかな・・・。
俺の視線が指輪に止まってるのに気がついて女が自分の唇を覆うように左手を動かした。
疑惑は確信に変わる。
「なんでお前がその指輪してるんだ」
女の腕をねじあげる様につかんで引きあげた。
内緒で有名ブランドで特注で作らせてるはずの指輪は世界に1つと同じものはないはずだ。
デザインも外に漏れるとは考えにくい。
「私の物ですもの」
「折角作ってもらった指輪ですから直接私が御店に行っていただいてきましたの」
「簡単でしたわ」
バカにされてるようにしか聞こえねぇ女の高音。
この女の情報網はバカにはできない。
「関西では裏にも顔が利く大会社の社長令嬢だ」と、ぼそっと小声であきらが女の素性を耳打ちする。
「それはお前の為に作らせたわけじゃねぇよ」
他の女が1度指にはめたものを牧野に贈れる訳はない。
指輪ごと捨てるつもりで握っていた女の腕を放り投げる様に放す。
キッと唇を噛んで今までこんな風に扱われたことがないと非難する様な視線。
牧野以外の女にどう思われ様が俺には関係ないことだ。
俺達の周りだけ冷気に包まれてる。
あきらも総二郎も俺を止めようとせずただ事の成り行きを見ているだけだ。
ということは少々暴れても問題なしということだろう。
女相手にはそれもできないけどな。
相手にできないと一歩踏み出した俺の目の前に立ち止まる影。
「道明寺さんどうもお世話になります」
どこから湧いてきたのかかっぷくのいいはげおやじ。
お前なんて世話した覚えもねぇと不機嫌なまま睨みつける。
俺の態度に気がついてないように満面の笑みを浮かべるおやじ。
話す気満々に口を動かしてる。
「まさか、娘が道明寺財閥の御曹司に見染められるとは思わぬ幸運です」
高々に上がる笑い声。
このはげおやじ牧野のオヤジじゃねえよな?
・・って・・・
この女の親!?
呆れるのを通り越して怒りしか湧いてこねぇ。
震える拳を必死で握りしめて怒りを抑えてるのは俺として上出来だ。
右手の中のグラスは地震でも来てる様に液体を波立たせている。
割れないのが不思議なくらいだ。
「御宅のお嬢さんの顔も声も聞いたのは今日が初めてだよッ」
皮肉たっぷりに歪む口元。
「それに、この手の女は嫌いでね」
「頼まれても、会いたくもねぇ」
口を開いたらあふれだす怒りは止めようがなくて、手に持っていたグラスを床にたたきつけていた。
シーンと音を絶つ会場。
茫然と立ち尽くすはげおやじ。
視線は全部俺たちに注がれてる。
「あんな女より私の方が・・・つっ」
すがりつく様に腕を伸ばす女の言葉をさえぎる様に力任せに腕をつかんで引き寄せた。
「お前みたいな女は見てるだけで虫ずが走る。ニ度と近づくな」
同じ空気を吸うのも嫌なくらいの憎悪。
女をニ度と振り返らずにその場を離れる。
「あきら、あの女・・・牧野のこと知ってるな」
「そうみたいだな、俺もお前の作らせてる指輪が奪われてるなんて思いもしなかった」
「類はあて馬にもならなかったってことか?」
総二郎は面白くもねぇ見たいな表情を作ってる。
「あの手の女は扱い方間違うと後が厄介だぞ」
「あきら、司にそんな難題の解決は無理だろう」
俺の不機嫌さをよそに調子こいてんじゃねーぞ。
「そっちの後片づけはお前らがやってくれるよな」
頼みじゃねぇ脅しの言葉。
「お前の尻ぬぐいは相変わらず俺ら?」
「牧野の為じゃしょうがねぇか」
やけに楽生的態度の二人に少し心の重荷が外れる気分だ。
が・・・。
まだ牧野の安全が確保されてわけじゃね。
こうなったら牧野が暴れようが泣こうが俺が絶対守る。
暴れるのはまだいいが、泣かれたらどうすっかな・・・
妄想じみた女のことよりすっかり俺の意識は牧野に飛んでいた。
続きは 7 で
これで二人は一緒にいられる?
まだ事件は片付いておりませんが(^_^;)
お昼のドラマみたいな泥沼に・・・なるはずは・・・たぶん・・・ないと・・・思います。
拍手コメント返礼
しずか様
どうでしょう?
司クンの反応は?
思っていた通りでした?
千鶴様
はじめまして♪
コメントありがとうございます。
好みのストーリーと言っていただけてうれしいです。
まだmだ始まったばかりのお話ですがお付き合いよろしくお願いします。
しずか様
想像通りで良かったです♪
司の冷たい眼と態度最近書いてなかったんです。
たまにはこんな司で味を変えて楽しんでいただけたらと思ってます。
allure 様
今このお話を読んでもらってるんですね。
ありがとうございます。
中毒気味とはうれしすぎる感想をいただいて感謝。