木漏れ日の下で 11
*-From 1 -
「もう、帰んなきゃいけねぇ」
お前に会うだけに帰ってきたと照れくさそうに笑う。
「あと少しの辛抱だし」
背中から抱きしめた腕は離れ難そうに私を抱きしめる。
「連絡くれないとダメだからね」
胸の前に組まれた手のひらを自分の指先で強く包み込んだ。
空港までの車の中、モット距離があればいいのにと道明寺が耳元でつぶやく。
ふざける様に耳元に息を吹きかける。
「くすぐったぃ」
我慢できずに両腕を突っ張った。
絶対わざと遊んでる。
どんなに距離があっても別れの時は少しづつ近づいてきている。
別居生活もあと少しだから・・・
ごめんねの言葉を心の中に呑み込んだ。
空港のラウンジの入り口。
西田さんが深々と頭を下げて待ち受ける。
「申し訳ありませんでした」
きっと西田さんの携帯から送られてきた写真の詫びだ。
「気にしてませんから」
「坊ちゃんの悪戯にも困ったものです」
表情変えずに困ったと言われても・・・
苦笑するしかない。
数歩先の道明寺は社員らしき人の報告を渋い顔で聞いている。
眉がつり上がってきた。
「つくし様・・・」
「はい?」
「少しばかりのお願があるのですが・・・」
西田さんが道明寺から私が見えない様に動いて背中に隠した。
・・・
・・・・
・・・・・・・!?
「えっーーーー」
叫んだ口を思わず両手で塞ぐ。
「本当に?」
「お願いします」
それで無事に事は運びますと西田さんの口元がわずかに緩む。
「坊ちゃんは至ってつくし様のことになると子供より扱いにくくなりますから」って・・・
どんな評価を道明寺は西田さんに受けてんのよーーーっ!
気の乗らない舞台に無理やり乗せられてしまってる。
西田さんの期待の視線を背中に受けながら道明寺へと歩み寄る。
「どう・・みょう・・じ・・・」
「あっ?」
つり上がっていた眉が元の位置に戻って優しく細める瞳の上に乗っかった。
「もう少しの辛抱だからな」
ポンと片手が私の頭をなでる。
「あのね・・・」
「んっ?」
覗き込む様な感じに道明寺の首が傾く。
「離れたく・・ない」
「このままついて・・・行き・・・た・・い」
とぎれとぎれに喉の奥から言葉を吐き出す。
「へっ?えっ?」
きょとんとなった顔が完全に緩んで私を抱きしめた。
「すげーうれしッ」
「このままついて来い!」
「へっ?えっ?」
抱きしめられたまんまの腕の中でドキッと高鳴る鼓動。
ついて行けるわけがない!
来週からは最終試験が待ってるんだからッ!
無理だーーーーー。
西田さんの読み外れてないか?
坊ちゃんに離れたくないという二アンスでお見送りをお願いしますと作戦を与えられた。
だから言っただけなのにーーーッ。
西田さんのウソツキ!
それで機嫌よくNYに帰ってもらえますなんて誰が言ったんだーーーーーーー。
「あっ・・・」
「それは・・・ダメかな・・・」
気まずい思いが顔に出る。
「テッ!」
道明寺の親指と人差し指が私の鼻先をつまむ。
「そんなどぎまぎした顔すんなっ」
「冗談だよ、連れて行けないことぐらい理解してるよ」
「西田も余計な気を回し過ぎなんだ」
私を通り越して視線をちらっと道明寺が西田さんに向けた。
「試験頑張れよ」
そう言って踵を返すとスタスタとデッキに向かった道明寺が歩き出す。
私を振り返りもしないで片手を上げて手を左右に振って消えていった。
ついて行けたらついていきたい気持ちはホントなんだからね。
見えなくなった道明寺の残像に舌を出して顔をしかめる。
「よし!頑張るぞ!」
つぶやきながら小さく片手でガッツポーズを作って空港を後にした。
弁護士になる夢まであと少しの辛抱だ!
何かと忙しかった年末年始。
少しづつ連載のお話も再開です。
って・・このお話もあと少しで終わりなんですけどね(^_^;)