下弦の月が浮かぶ夜8

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訳ありなんだよな・・・

今度の相手。

牧野を見送った後何気なく見下ろす夜の夜景。

原色に交る淡い灯。

何気にさびしげに映る。

窓辺にもたれかかって窓ガラスに移る俺は牧野がいた時みたいに笑うことはできなくなっていた。

牧野に彼女のフリをさせでなんになるのか…。

分かっているはずなのに、馬鹿げてる・・・。

思いながらも口にしてた。どうしたいんだ俺?

どうしようもない幻想に迷いこんでいる。

うまく行ったら一族の権限すべてを譲るって条件を付けてきた爺様。

オヤジもその気になるはずだ。

結構切羽詰まってる。

牧野じゃなければ誰でも良いっていう投げやりな気持ちは今でも心の奥でくすぶっている。

何でもジー様が昔世話になったとこの孫娘。

親の作った借金で苦労してるって・・・

どっちかと言うと牧野よりか。

世が世なら姫様だぞって、嘆かわしいと涙を流す爺様。

年取っても涙線弱くなるタイプじゃない頑固な性格。

感情で流されるはずがない一族の長。

白々しく映る。

他に何かあるんじゃないのかと勘繰りたくもなる。

借金をはらってやれば済む問題じゃないんですかと言いかけて、爺様の眼光の鋭さに口をつぐんだ。

「お前が面倒みてくれれば私は安心して死ねる」って・・・

なんで俺?と聞いても正直に言うとは限らない。

似たような年齢の男はあと4,5人いる筈だ。

「おまえが一番見込みがある」

俺の気持ちを見透かした爺様の一声。

確かに今のところ一番の爺様のお気に入りは俺。

それでも結婚相手を強要されるとは思ってもいなかった。

「結婚したい女でもいるのか?」

「いえ・・・今は・・・」

正直に答えた俺もバカだ。

ここで「いる」と言えないのは司に対する配慮、遠慮、どうしようもできない牧野への想い。

「身辺を片付けたら会ってみなさい」

しっかり俺が遊びで付き合ってる女のことは了承済みだとでも言う様な口調。

相手は俺の会社で働いてるという意外な言葉にさすがのおれも驚きを隠せない。

相手は少なくとも俺のことは知っているのだろうか?

俺は会ったこともねぇけど。

ほとんど最上階から出ることのないせいで一般社員に会う機会なんてほとんどない。

わがままなどこかの金持ちの世間知らずよりはましかもしれない。

それでも会うまでは気が許せないけど。

相手のことを調べさせてた秘書から受け取ったメモ。

たたんで入れてたポケットから出して初めて目を通す。

俺より一つ年上の23歳。

大学卒業後総務部勤務。

身長、体重にスリーサイズまでどこでどう調べたのか。

一目見れば大体分かる俺には必要ない。

借金の為夜は「キャツ」という店でキャバ嬢のバイト中

注意書きが目を引いた。

からしたらすぐに払える借金の額。

OLの給料じゃ、いつまでかかるか分かんない額が書かれてある。

身辺片付いたし、会っても問題ないよな?

この店にいってみるか。

今・・・

一人でいたくないという心の奥の淋しさが俺の行き先を左右していた。

つづきは下弦の月が浮かぶ夜9

ここでオリキャラあきらくんのお見合い相手登場させる予定です。

どんなタイプか!

今はまだ決まっておりません。(^_^;)