下弦の月が浮かぶ夜15
*「帰らないで・・・」
腕をからめて身体を寄せて頬に柔らかい唇が触れる。
じらして楽しむ手管。
最近忘れてた。
つーか・・・
ここ数日そんな手管を使う相手を相手にしてなかった。
牧野つくしに東條葵。
めずらしく俺のタイプでない女が側にいる。
引き留めたい相手は本来の彼氏のもと。
俺を嫌ってる女が一緒の展開。
・・・信じられない結末。
見合いを壊すつもりで牧野にまで余計なこと頼んでその結果一緒に暮らす羽目になった。
だれも予測できやしない。
「牧野に、ちょっかい出すんじゃねぇ」
凶暴丸出しの怒声。
未だに耳の奥が痛い。
あの調子じゃ明日あたり暴れ込んできそうな気配を潜ませてた。
牧野大丈夫だったかな。
牧野に手を上げたりはしないだろうけど。
司を落ち着ける手立ては牧野だけが握ってる。
そう思うだけで痛む心。
嫉妬じゃない胸のうずき。
そんな痛みがあることを初めて知った。
俺が願ってるのはお前らの幸せだけだから。
言い訳じみた想いで淋しさを打ち消した。
「ここだから」
「さすがだわ、嫌味なほど高級志向」
この部屋に女連れてきたのお前が初めて・・・
言っても意味がない。
「思ったより片付いて・・・ますね」
途中で言葉がぎこちなく丁寧に変わる。
「ここで、君にしてもらう事ってないから」
「うちのじいさんが満足するまで居てくれればいい」
「そっちの部屋使って」
南側に面した客室に案内した。
「ここって誰も使ってないの・・・じゃなかった。ないんですか?」
言葉の言い換え方がおかしくてわずかに口元が緩む。
一人で寝るには広いダブルベット。
小さめのクロゼット。
それ以外は何もない部屋。
「今さら俺に気を使う必要はないよ」
「必要なものは持ってくるなり買うなりしていいから」
彼女が部屋に入ったのを確かめてドアを閉めた。
一人リビングの窓から眺める夜景。
夜空から部屋の中に差し込む月光は下弦の月。
柔らかく入り込む光は緩やかに淡く目の前に幻想を作る。
愛しい思いを隠して過ごした虚空な戯言。
淋しさだけが募る。
なにやってんだろう・・・俺。
日を追って半月は丸みを帯びて満月へと変わる。
その頃の俺は輝きをとりもどしているのだろか。
親友の彼女を見ても心を躍らせない自分を取り戻すために。
手のひらの中のグラスの氷が溶けて時間の経過を知らせる様にカランと音を立てた。
一人でいる淋しさがどこかで人を恋しくする想いを思い出させるそんな夜。
こんな日は落ち着かないはずの母親や妹達の顔も懐かしい。
「まだ寝ないの?」
「それ誘ってるのか?」
いつの間にか俺の近くまで葵が歩み寄ってきてた。
心の寂しさを隠す様にクスッと口角を挙げてほほ笑む。
「そんなつもりあるわけないわよ」
「誘われるのならもっと色気のある誘われ方が好みだけど」
目の前に居るのは俺のパジャマの裾をめくって着てる姿。
噴き出す様に声が漏れた。
「突然で何も準備してないからしょうがないでしょう」
「似合ってる」
「似合ってるわけないでしょ」
「それなら俺も安心だ」
「安心て・・・なにが?」
「襲われる心配なさそうだし」
「そんなつもりないわよ」
食ってかかる様に俺に身体を葵が一歩踏み出した。
遠慮ない言葉のやりとりが俺の心を軽くする。
わずかに葵の髪から香るシャンプー香り。
牧野・・・
同じ清純な香りが鼻先をかすめる。
「ごめん・・・
・・・少しだけ」
気が付くと腕を伸ばして胸元へと葵を抱きしめていた。
本当は明るくお話を進めるつもりだったのに書いていたらなぜかこっちの方向へ・・・
あきら主体だとどうしてもこっちの方向へ傾いてしまいます。
たぶんあきらの行動はここまででしょうと思いながらあとの葵ちゃんの反応は?
どうなるのかなぁ。
まだ決まってません。