下弦の月が浮かぶ夜24

 *

「俺だ、しばらく仕事を休むから調整してくれ」

電話の相手は理由を聞くこともなく「分かりました」とだけ告げる。

「お前も休みとれ」

「なんで私が休まなきゃならないの?」

「短期間でどれだけ変身できると思ってるんだ?」

「仕事終わってから数時間でたいして変われるはずはないと思うんだけどな」

視線を足元から頭のてっぺんまで遠慮なく眺める。

「見るな!」

両手が身体を隠す様に交差する。

「俺は裸のお前を見てるわけじゃないぞ」

「裸にされてる気がする・・・」

愚図る様な表情。

「襲わないから心配するな」

頭の上に置いた手のひらがくしゃくしゃと黒髪をつかむ。

「乱れる」

逃げるように頭を右に振られて俺の手のひらは宙をつかむ。

俺より年上には全然見えねぇ。

「明日から3日くらいしかないだろう?」

「みっちり鍛えてやるよ」

言いながら「ククッ」と声が漏れる。

「ところで式場はどこであるんだ?」

「・・・メープル」

「・・・・・」

司のとこ・・・か?

これで俺達もなにかしらのパーティーが予定されてたら笑い話にもならない。

今のとこなんもなかったよな。

今週の予定を思い浮かべて安堵のため息。

「明日から3日休み取れよ。取れなかったら俺が取ってやる」

もう一度念を押して自分の部屋へと向かった。

「余計なことするな」

ドア越しにボンと柔らかい何かがぶつかる音が響く。

クッションぐらいじゃビクともしない。

「クッッッッ」

久しぶりに心の底から笑った気がした。

エステで3日間集中美容。

もともと華奢な体つき。

無駄なぜい肉は思ったほどついていない。

「すべすべだ~」

自分の肌を触って感嘆の声を上げる素直すぎる反応。

うれしそうに変わる表情はやはり女性だ。

白い真珠の様な肌。

弾力を帯びた肌に自然な明るい色合いに施す化粧。

くっきりとした二重が印象的でその下から伸びる長い睫毛。

艶やかに光るピンクのグロス

それなりに男の視線は集めそうだ。

「ありがとう」

初めて葵に礼を言われた。

「あとは服だよな」

「へぇ?これでも十分すぎる」

遠慮気味な態度の葵の手を引っ張って街中に飛び出す。

体重をかける様にして俺の歩みを阻もうとする。

ズルズルと引っ張る様に足を進めた。

「いい加減に諦めろ。俺はそんなに体力ある方じゃないん・・だ・・・」

振りかえった葵の顔が見る間に強張っている。

「どうした?」

「ど・・ど・・ど・・・」

ど?

道明寺?

司?

こんなところで司に出くわす確率は相当低めだ。

それに葵が司を見てこんな反応示すわけはない。

「同僚!職場の友達」

「こんなとこ見られたらやばいでしょう!?」

背を丸めて俺の身体の陰に隠れるそぶり。

「振り向かないで!」

後ろを振り返りそうな俺に浴びせられた鋭い声。

「私以上に社長の顔にあの3人は敏感なんだから」

さっきとは逆に俺を葵が引っ張って走り出す。

「あっ!葵」

「ばれてるぞ?」

「社長と一緒ってばれなきゃいいの」

振り返らずに必死でビルの合間に潜り込む。

追いかけてきた3人をやり過ごすために壁に張り付くように背中を押しつけて息を殺す。

「どこ行った?」

「男と一緒だったよね?」

「顔・・・見た?」

「あんまし見えなかったよね。背は高そうだったけど・・・」

話声は徐々に遠ざかる。

どうやら噂は葵と一緒にいた俺のことに集中しているみたいだ。

一緒にいたのが美作 あきらだとばれたらどうなるんだ?

葵は言い訳が出来るのだろうか?

一緒に住んでるなんて告白はしそうもない。

「行ったみたいだ」

息を整えながら隣の葵に声をかけた。

上下する胸元。

荒い息使い。

「助かった」

汗をふく為に葵が右手を上げる。

その手には俺の左手が握られたまま。

「ギャッ!」

乱暴に振りほどかれた。

「手をがっしり握ったのは俺じゃない」

「分かってるわよ」

蒸気した顔はそのままプッと横にそむけらる。

「クッッッ」

「笑うな」

「すまん・・・プッ!」

こいつの機嫌が悪くなることなんてお構いなしに我慢できずに笑い声が漏れた。

続きは25で

拍手コメント返礼

なおピン様

この二人どうなるのか?

賛否両論あるのが悩むところです。

どう進むのか最後までまだ決めかねてる状態です。

背景御ほめいただきありがとうございます。