下弦の月が浮かぶ夜33
*「お前ら何が言いたい」
俺ににじり寄る総二郎。
スマートに見える表情の下で何を考えているのかはっきりとわかる長い付き合い。
こいつらの興味は俺と葵の関係に絞られているはずだ。
だから面白くない。
「一緒に住んでるといると言うことはそれなりの関係なんだろう?」
耳打ちするように総二郎がつぶやく。
「遊びで付き合えるような相手じゃないみたいだし・・・」
すべてを悟ってる様な類の表情。
「だから手を出せるわけねえだろう」
腹からしぼり出す様に出た声はかすれ気味。
「お前が一緒にいて手を出さないって・・・あきら!どこか悪いのか!」
額に手を当てられて司に熱を確かめられる。
俺のことで驚く司を初めて見た。
俺よりもお前のその驚きの方がレアだよ。
「至って健康だ」
額にある司の手のひらを嫌がる様に顔をそむける。
やたらめったら誰にでも手を出してるわけじゃないぞと叫びたいのを必死でこらえた。
「女は飽きたか?んな訳ねえよな」
にやりとした笑いを浮かべる総二郎。
からかうのは俺じゃなくいつもは司だろうがぁ。
「それなら気心の知れた総二郎がいいかもな」
「類はすぐ寝そうだし、司だとおとなしくしてそうもないし・・・」
俺もやられてばかりじゃないぞとやり返す。
「何こそこそしゃべってるのよ」
牧野の声に俺たち全員が一斉に振り返る。
「あきらが好みが女性から男性に変わったって言う話」
「総二郎がいいらしい」
それ・・・にっこりとほほ笑みながら言うなよ類。
けらけら笑ってる牧野の横で葵の表情がこわばった。
「俺にはそんな趣味ないからなッ」
牧野に慌てて駆け寄り必死の弁明を繰り返す司。
「分かってるよ」
軽く牧野にあしらわれてる。
俺の趣味も変わってねぇぞ。
牧野に想いを寄せること自体少しは俺も趣味も変わったかもしれないが・・・。
「・・・あきら」
お前の気持ちは分かってるみたいな表情で総二郎に肩を抱かれた。
牧野のことは今さらだろうと俺の気持ちを知ってる真面目な表情。
そして・・・
茶化すから救われる。
「今・・・流行りのBL・・・」
葵は本気で信じ込みそうな雰囲気を含みだす。
「こいつらの言うこと信じるな。遊んでるんだから」
俺も何を必死で否定してるんだか。
ここで信じ切ってるのは葵だけ。
「会社で喋ったりしませんから」
誰もそんなこと気にしちゃいない。
まて・・・。
「俺・・・女ダメなんです」
噂が広がったらジー様に無理やり結婚させられそうだ。
つーか葵に信じ込まれるのも困る。
困るって・・・。
困る必要はさらさらない気もするが・・・。
そう思う自分の気持ちに躊躇した。
「BLってなに?」
相変わらず場の空気の読めない牧野のきょとんとしたつぶやき
「牧野、お前BLも知らねぇーの」
俺は司も知ってるとは思えない。
「blogの略だ」
「ブログ?」
話の流れから何か違うとすぐに気がついて牧野が顔をしかめて俺に「なに?」って目を向ける。
「BOY’S LOVE」
「ボーイズって・・・」
そのまま思考が停止した牧野。
数秒の間を置いて、 類の声に「エーーッ」と素っ頓狂な声が上がった。
・・・
・・・・・
「はーぁ」
心の中でつくため息。
牧野だけじゃなく司まで叫んでる驚きの声。
さっきその話してたろうがッ。
突っ込む気にもなれねぇ。
相変わらずだ。
「フッ」
自然に笑みがこぼれた。