春光の遥か 2

子供は誰の子?

聡ちゃんにも隠し子出現ならほかの3人にも同時にってリクエスト。

おいおい(^_^;)

と思いながらおもしろそうとノリそうな自分がいます。

そんなお話の内容じゃなかったはずだぁーーー。

*

「どうだった?」

いつもより速攻で俺を出迎えるつくし。

『西門宗家 次期家元に隠し子!!」

文字の踊る週刊誌を握りしめてつくしが最上階に現れたのは昨日の午前中。

俺が出勤して西田にスケジュールを渡された直後だった。

普段は俺が呼んでも滅多に執務室まで顔を出すことがないやつ。

「よく俺がいるのわかったな」

「出勤したら私に連絡が来るようにしてあるもん」

見せられたのは携帯のメール履歴。

「いつの間に!こんなのッ」

「私だけ居場所を握られてるのしゃくでしょう」

チラッとつくしの視線が西田を見る。

「西田!お前、余計なことを!」

「つくし様のおっしゃることも一理ありますから」

「時にはお二人が会えないように調整するのも利点があります」

相変わらずの事務的な態度。

「それよりもこのこと聞いてる?」

西田を追求しようと視線の先に突きつけられる週刊誌。

週刊誌を見て流石に俺も絶句。

「いつかはこんなことあると思ってたのよね」

「西門さんはそんな失敗俺がするはずないって公言してたけど、女がその気になればわかんないんだから」

その発言・・・昔のお前じゃ考えられない。

って言うより総二郎、お前の評価はつくしの中では隠し子有りになっている。

「何も聞いてないが・・・アイツの言うとおり総二郎ならそんなヘマしないんじゃのぇ」

「あのね、男性側の100%の避妊っていったらパイプカットしかないんだから」

「・・・つくし、お前結構すごいこと言ってる」

あの西田まで表情筋がぴくっと震えた。

「弁護士やってるといろいろあるのよッ」

そのいろいろが気になってくる。

弁護士やらせてると別な人格がプラスされてきそうだ。

これ以上扱いにくくなるのだけは避けてほしい気分だ。

「とにかくこの件は俺が確かめるからお前はおとなしくしてるんだぞ」

「私もこんな微妙な問題に一人で確かめられるわけないわよ」

そしてようやく頬を染めていつものつくしらしい反応をのぞかせる。

それにホッとする俺。

ここから俺たちの話題は総二郎一色で・・・。

なんとなくつくしと肌を合わせる気にもなれなくて、抱きしめるだけで朝を迎えた。

仕事の合間に総二郎の屋敷を訪ねる。

ここに来たのは何年振りだろう。

それも離れの茶室に通されたのは初めてだ。

都内とは思えな静寂さ。

風に吹かれる木の葉の触れ合う音の合間に総二郎の茶せんでお茶を点てる音が重なって作り出す心地よい空間。

総二郎はいつもにもまして冷静さを保っている。

お茶の点て方に一寸の迷いもないとその姿勢が物語る。

心配して損した。

そんな気分だった。

「相変わらずうまくねぇ」

お茶を飲みほして茶器を置く。

こいつの澄ました態度も落ち着きもなにもかもおもしろくない。

「お前、昔コケオドシって言っていたよな」

今は言わねぇよ。

俺の嫌味に上乗せして返してきた。

「お前大丈夫か?」

大丈夫だとわかっていても数パーセントの本音。

「そう心配することはないと思うけど」

落ち着き払った態度を崩さない総二郎。

心を波立たせることなく気を隠すのは俺たちの中じゃ一番うまいやつだ。

「外はすごい騒ぎだぞ」

「いつものことだろう」

「いつものことじゃないから俺がわざわざ来たんだろうがぁ」

「お前の浮気騒動よりは心配ないから」

つくしと結婚してすぐつくしの司法修習の為に別居生活を余儀なくされた俺たち。

そこで撮られたホテルの部屋の前に立つ俺、その俺を部屋に呼び入れる女優の写真。

新婚で浮気って掻き立てられたあの屈辱は忘れない。

「ばか、あの時の俺は完全潔白だったぞ」

あの時はお前らにも心配かけた。

感謝してる心なら今も持っている。

それは子供の頃から変わらない友情。

だから・・・

俺もお前らのためなら何でもやる。

「必要なら頼れ」

「そのうちな」

総二郎はいつもの総二郎のまま俺を見送った。

「総二郎は心配ない」

ネクタイを緩めてソファーに腰を下ろす。

「でも・・・」

小さく聞こえる声。

そしてつくしは俺の隣にゆっくりと座る。

「子供は見た?」

食い入るように俺を覗き込む瞳は俺の「見た」という言葉を期待して待っているのがありありだ。

「見てねぇよ」

少し残念そうな表情のつくし。

「西門さんに似てるところあるのかななんて思って・・」

「DNA鑑定すれば一発だろうが」

「それはそうなんだけど・・・」

「母親が子供を置いていくってどんな気持ちなのかなって思ってね」

「子供と別れるって半端な気持ちじゃないと思えるから・・・」

つくしは総二郎のことだけでなく母親の事情をいろいろ想像して悩んでるわけだ。

「そんな親ばかりじゃねえだろう」

俺なんて母親の愛情を子供の頃は少しも感じたことがない。

最近やっと生んでくれたことに感謝だけはできるようになった。

お前が俺を変えてくれた。

こいつはわかってるのだろうか。

お前に会えた今を幸せと思えば生んでくれたおふくろに感謝する気持ちはある。

「でも・・」

「それに、まだ総二郎の子供って決まったわけじゃねえよ。俺は総二郎の子供の確率は低いと思ってる」

つくしの言葉をさえぎって声を出す。

「根拠はなんなの?」

「そんなのあるわけない」

「・・・動物の勘ってやつ?」

「お前!動物の勘て!誰に言ってるんだ」

「司の野生の勘は侮れないから」

両腕に抱きしめた腕の中で「キャー」と小さく上がる声。

「なあ、総二郎の赤ん坊のこと考える時間があれば俺らの赤ん坊のこと考える方が現実味があるぞ」

「現実味って・・・」

熱くなる鼓動を押し付けるように腕に力を込める。

つくし以外何もいらなくなった。