イルの憂鬱 6
本当に、本当にお待たせしております。
それでは続きから~
*感情を滅多にあらわさない表情が不機嫌に歪む。
余計なことだ。
イルバーニは言葉にせず心の中でつぶやいた。
ユーリの懐妊は婚礼の祝賀ムードが落ち着いた頃に国中に発布されている。
いまだにその余韻は国中を湧き立たせている。
それと共に色めき立つ後宮。
それは宮廷内に参内する貴族たちを巻き込んで日々大きな渦を生んでいる。
ある程度予測はしていた。
ユーリの懐妊で皇帝の夜伽の役目は空白になる。
その役目を担おうともくろむ若い姫を持つ貴族達。
皇帝が数十名の側室を持った例も少なくない。
妃が一人だけの現皇帝が異常であり、格好のターゲットとなっても何ら不思議でない現象。
ユーリ様に出会う前のカイルなら側室が幾人いてもおかしくないと思われる以前のプレーボーイぶりも周りが熱を上げる要因となっている。
独身時代の皇帝の皇妃選びに匹敵する騒がしさだとイルバー二は頭を抱え込んだ。
いくら側室を勧めても皇帝がユーリ様以外を寝室に呼び寄せることはないと側近なら誰でもがわかっている。
無駄な努力だとそっけなくあしらってはみるが途切れることなくイルバーニのもとに届く若い女性の推薦状は増えていく。
これではほかの仕事に支障が来る。
『イルバーニ様は自分の親族の姫を側室に上げるつもりだ』
そんな噂まで本当のように語りだされてしまってた。
こうなればカイル様にお願いするしかないようだ。
イルバーニは屋敷を出てからすぐさま皇帝の執務室に向かった。
「イルバー二様」
あわただしくイルバーニの目の前を頭を下げて走る抜けようとするリュイとシャラ。
リュイの腹部は妊婦のふくらみが服の上からもわかるようになってきた。
ユーリ様の生まれる御子より数か月早く生まれる予定。
リュイの産む子供も将来は側近となる運命を背負っている。
「まて」
イルバーニの声にピタッと二人の足が止まる。
「また、ユーリ様か?」
「後宮を抜けだされたのか?」
「いえ、今回は抜け出されてはいらっしゃらないのですが・・・」
「相変わらずじっとしてらっしゃらないので、困るんです」
ほとんどグチに近い声。
それは私にもどうにもならない。
これ以上頭痛の種を増やさないでほしいものだと短くイルバーニはため息を吐く。
「ユーリ様のことは任せた」
そのままリョイとシャラを残して目的の場所へとイルバーニは足を速めた。
「失礼します」
麝香の匂いが高まってるように部屋に残る。
「御一緒でしたか」
カイルの膝の上に抱かれたままのユーリがイルバーニの登場に腰を浮かせる。
気にするなとでもいう様にカイルの腕が動いてユーリの腰を自分の体に引き寄せた。
この色気は目に毒なのだが・・・。
幼少の頃から見知っていても数多の美姫でも引き出せなかった甘い香りが二人を包み込んでいる。
邪魔だと近づけない雰囲気にイルバーニは抵抗するように1歩、体を進めた。
「お楽しみのところ申し訳ありません」
嫌味でなく本心で頭を下げる。
そのイルバーニの態度に赤くなるユーリを楽しむようにカイルはその腕に力を込める。
「分かっているなら用件だけ早々に済ませてもらいたい」
ユーリの頬に触れるカイルの唇から逃れるように顔を横に向けたユーリの視線がイルバーニの視線とぶつかった。
そしてまたユーリの白い頬が赤く染まる。
相変わらずの初々しさ。
それはイルバーニの心をも和ませる威力を持つ。
「ユーリ様にはお聞かせしたくないのですが、地位のある貴族たちが皇帝に側室をと騒いでおります」
「いらぬ」
「それはわかっています」
分かってないのは出世欲のある者たちばかり。
「私が泥をかぶるのはいいのですが、ユーリ様まで危害が及ぶことになってはと・・・」
イルバーニがいい終わらぬうちにカイルの表情が鋭くなる。
「分かった」
短めに呟いた声はそのまま心配するなとユーリに語りかける。
これ以上は野暮だとイルバーニは頭を下げて踵を返した。
「私に、危害ってなに?」
「お前は今はタワナアンナだ」
「皇帝の次の権限を持つ。誰もお前を傷付けることはできないよ」
「それじゃ、なに?」
「イルバーニはさっさとことを収めろと私に言いたかったけだ」
「側室など無用だとわからせればいい」
カイルの指先がユーリのわずかに開いた唇の形を形をなぞるように動く。
「私に触れていいのはお前だけだ」
整い過ぎた容貌がユーリに近づいて唇の端に触れる熱い熱。
「カイル・・・」
唇に吐息を感じてユーリは目を閉じる。
二人の唇がぴったりと重なった。
拍手コメント返礼
ソフィ様
なかなか更新できませんが、カメみたいなノロメの更新でも楽しみにしてもらえてうれしいです。
ありがとうございます♪
nik****様
気長にお待ちいただきありがとうございます。
中々スムーズに頭が切り換えられず更新できてませんがぼちぼちとUPは続けていきますのでお待ちいただければ嬉しいです。
yu****様
初めまして、こちらのお話はのんびりと更新中です。
この連載も数年ぶりの連載となります。
何時更新できるかは私も予定がなくて(^_^;)
>イル・バーニが13巻のベイジェルで「こんなあられもない衣装で ユーリさまを男たちの目に触れさせたと陛下に知れたら 殺されるな」その後殺されかけたイル・バーニの様子を見たいです。(笑
ありましたね。
あの時のイルの表情は今でもしっかりとおぼえてます 。
なるほど今度書いてみましょう♪