思い出は夢の中で 11
波乱万丈のバイトの始まり?
どうなる~。
*午後3時。
いつもよりきっと、たぶんにぎやかだ。
道明寺司に激似のウエィター発見。
テーブルに座る女性の手元で携帯のキーを叩く画面でみた文字。
むろん写真付きで送信。
普段なら「無断で撮るな」と威嚇する道明寺をなだめる役目の私が携帯の前に身体を入れてわざと邪魔をする。
大した影響にはならなかったと認めるしかないお客の数。
何かあるの?と何も知らない通行人まで足を止める。
お店の中だけじゃなく外も騒がしい。
「きゃー」
「うそー」
「ホントだーッ」
うそ!ホント!が混じる悲鳴に似た声。
どっちだよ~。
この場合は・・・
道明寺司がウエィター!
嘘でホントの話。
知ってるのはわたしと西田さんだけだ。
「お前、機嫌悪くないか?」
俺はなにもしてないぞと道明寺がつぶやいた。
確かに道明寺は何もしてない。
それでこの騒ぎだ。
しいて言えば床に落ちたコーヒーカップは3つで済んでいる。
お店の透明なガラス窓に張り付いてる女性たち。
客というよりは送られてきた情報の確認中。
「本物は近寄りがたいけど、こっちなら何とかなるかも~」
その声に私の手の動きがとまる。
こっちも本物だーつーの!!!
今までも道明寺に騒ぐ女の子を知らないわけじゃない。
それでも道明寺に近づこうとする女の人は少なくて・・・
それは私に遠慮してたわけじゃなくて、道明寺が寄せ付けなかっただけ。
近づいて触れるにはあまりにも気後れする神々しいオーラ。
道明寺と言う近寄りがたい鎧が取れただけで周りの女性の行動が熱を帯びる。
「ご注文は」
道明寺のぶっきらぼうな言い方もここでは太郎くんの魅力となってるようで女性の感嘆の声とうっとりとした表情を引き出してしまってる。
私が注文を取りに行くとにらまれる。
負けるもんか!
なんの勝負だッ。
はぁ・・・。
目の前で道明寺に渡される手のひらに収まる大きさに折られた紙。
あっちのテーブルでは紙のコースターに書かれた11ケタの数字。
受け取った紙を道明寺がその渡した女性の前で破り捨てた。
「かっこいい」
破られた女性は気分を害するどころかそう声を上げる。
何をやっても今の道明寺の評価は上がるらしい。
「太郎君、君は何もしなくてお店の中にいてくれるだけでいい」
最高額の売り上げになりそうだと店長も満面の笑み。
なんとなく道明寺の雰囲気が変わった。
女性の前でにっこりと笑みを作って腰をおる。
「いらっしゃいませ」
え?
昨日あんなに練習をしても言えなかったのに・・・
あっさりと口にした。
最後で邪魔したのは道明寺が買ってきた小さな箱。
あれを目の前に並べて立てた私の浅はかさ。
あれからあーなって・・・
こうなって・・・
あーして・・・
あーされた。
今思いだして、どうするのよーーーッ。
私以外でもやさしい表情が作れるんだ。
道明寺すごい!
手をたたいて喜ぶべきなのに、手放しで喜べない矛盾したこの気持ち。
久しぶりだ。
道明寺の微笑みに女性がポーッとなってるのがわかる。
そしまたムッとする。
「牧野」
いつの間にか道明寺が私のそばで、耳元に顔を近づける。
お客からは見えない奥まったお店の隅。
「嫉妬してるだろ」
「するわけないじゃん」
「お前、俺からぜんぜん視線を外してないし・・・」
「それは、何か失敗するんじゃないかと心配でッ」
「ウソつくな」
バレバレだぞとつぶやいた唇はそのまま私の私の唇と重なった。
「お前に嫉妬されるんなら俺は何でもできそうだ」
不敵にクスと口角を上げた表情。
「俺に嫉妬してるって思ったら自然に顔が緩む」
そのまま優しく目を細めて道明寺が私を抱きしめた。
「ここじゃ、兄妹だからねッ」
「妹を抱きしめて何が悪い。妹じゃねぇし」
「バカ」
不安なのは・・・
女性が道明寺に見せる態度じゃなくて、道明寺が私以外に向ける優しい表情。
道明寺はすべてを私に与えてくれてるはずなのに・・・。
分かってるはずなのに・・・。
不機嫌が消えそうで消えない残り火みたいに心の中でくすぶってる。
私の独占欲も強いみたいだ。
優しく抱きしめる腕の中。
これは誰にもあげないんだからね。
胸の中にくすぐったい思いがあふれ出た。
拍手コメント返礼
くら**様
今回はめずらしくつくしにも不機嫌の種をちょっと植えつけてしまってます。
たまにはね♪
司の嫉妬は当たり前ですから~。
b-moka様
喜んでいる店長の顔が蒼白にならないことを祈りつつ。
この嫉妬が何もなく終わるはずはなく・・・。
お楽しみに♪
Gods&Death様
司すてき~
違った・・・太郎君素敵~の声はちらほらとお店の中で上がってることと思います。
今回はいつもとちがってつくしが慌てる要素がいっぱいありそうなんですけど♪