ウエディングベルは二度鳴らす 23

珍しくつくしちゃんがぁーーーーーーー

がんばってるのよ~

司君そろそろ頭を働かせて速攻で行動しないとつくしちゃんのお誘いもダメになるかも・・・

なんて意地悪なこと考えてませんと言い切れない私 (;^ω^)

「あいつに何を渡された?」

熱く耳元に吹きかけられた吐息。

それは全く甘みもない冷ややかな声。

一気に耳たぶが凍った気がした。

何も渡されたないから!

いや・・・

渡されたのは私が落としたホテルの部屋のカードーキー。

ここでカードキーのことを道明寺に告げる予定は全く考えてなかった。

結婚式のパーティーが終わって道明寺のもとに駆け寄って・・・

そこそこいい雰囲気を作って・・・(私に作れるかわかないけど)

「今日は帰りたくない・・・

泊まってく?」

なんてね・・・

これって結婚する前のカップルの誘い文句じゃないかぁぁぁ!

などと必死で考えては打ち消す作業を頭の中で繰り返してた。

「何って・・・」

「なにか受け取っていただろうが」

今の道明寺は目が血走ってるし・・・

とても甘い雰囲気にもっていく自信は、私の未熟すぎる経験じゃゼロに近い。

「あれは、つくしが落としたのを拾って渡しただけですから」

「そう、拾ってもらっただけで何も受け取ってないから」

思わず飛びついた公平のフォロー。

これがいけなかったとすぐに気づかされてる羽目になる。

「てめぇには聞いてねぇよ」

道明寺の怒りのバロメーターは一気に公平に向かって極限まで上昇してしまってる。

威圧感は餌に狙いを定めた猛獣並だ。

その道明寺に一歩も引かず立ち向かえる公平だから一触即発の状況の緊張感があたりに漂う。

せっかくのお祝い事が道明寺の勘違いで台無しにされそうな危惧。

どうしようーーーーーーっ。

「何を落とした?」

鋭い視線は公平に突き刺したままの道明寺。

その視線が一瞬だけ私を見下ろしてグサッと心臓に食い込む氷の矢を放つ。

「言えないのか?」

「え・・・っ・・・言えないわけじゃないけど・・・」

「見せろ」

「なにを?」

「お前が落としたもの」

数秒の沈黙が冷え切った空気を私たちの間に通す。

「ここで渡すの・・・?」

「後で見せられても俺の機嫌は直らねぇぞ」

公平に見られてる感じが気になって、そっと公平の表情をうかがう私。

言えよ・・・

唇の動きはそう読み取れて何をと聞き返す表情を公平に送った。

つ・か・さ・・・

言えばこの場はおさまるとでも言いたげな表情がそのまま明るい笑みを私に投げけかる。

「見たら機嫌は直ると思いますよ」

道明寺に投げかかられた公平の声はしっかり私に催促してる。

「ほら、見せろよ」

道明寺の上に向ける手のひらが催促するように私の下に向けた視線の先でクイクイッと上下した。

ここで渡すって・・・

予想外で周りの誰かに気づかれたらヤダ。

恥ずかしくてもう泣きそう。

いや大丈夫。

私たち結婚してるんだし・・・

入籍したんだし・・・

夫婦だし・・・

いろいろ言われて困ることはないわけだし・・・

それでもオープンにカギを渡す勇気は出てこない。

手のひらで隠したままバシッと道明寺の手のひらの上に置いた。

見た目は道明寺の手の上に手のひらを重ねた状況。

それでも周りに気づかれたら手を握り合ってる状況でからかわれそうな気もする。

「どけろ」

「え?」

「手をどけねぇと見えねぇよ」

相変わらず道明寺の声は不機嫌なままだ。

「・・・」

覚悟を決めてゆっくりと動かす手の下から姿を現した金色に輝くルームキー。

クレジットカードに間違えそうもないのはくっきりはっきりとホテルの名前と4ケタの数字が印字されてるから。

「これって・・・」

意表を突かれ表情は目をこれ以上に大きくならないほど見開いたまま私を見つめる。

「言い訳してるんじゃねぇだろうな」

言い訳って道明寺が責めるそぶりを見せたのはまたもや私たちから2メートル程度の間を置く公平に向けて。

公平が私をホテルに誘ったとかどうしようもない勘違いしてるんじゃ・・・

道明寺の態度はその思い違いを裏づけてる気がして私を慌てさせる。

ここは何をおいてもここから道明寺を連れ出すしかない。

公平を殴ったら・・・

それこそどんな噂が広がるか分かったものじゃない。

言うしかない。

道明寺の意表を突く言葉で・・・

猛獣の牙を抜ける言葉。

司・・・司・・・司・・・

頭の中で反復しながら覚悟を決めて目を閉じた。

息を吐いて伸ばす腕。

つかんだ道明寺の襟首。

必死に伸ばしたつま先をおろしながら道明寺を引き寄せた。

「この後、つつつ・・・」

たった三つの音がなかなか出てこない。

こんなに緊張するって自分でもおかしくてしょうがない。

たかが名前だぞ。

ごくりと喉を鳴らした後に覚悟を決めて一気に息を吐き出した。

「この後、司と一緒にいたいなって・・・」

思ったよりはっきりとした声。

一度言ったらあとは楽だ。

ついでに襟元を握りしめてたた指先の力も抜ける。

え?

道明寺もなんだかぼーっとしてるような・・・

道明寺の目の前でバタバタと手を振ってみた。

反応がない・・・

「道明寺?」

「もう、もとに戻すの?」

「司って呼んだほうがいいんじゃないの」

道明寺の代わりに反応を見せたのは公平。

あっ・・・

そうだよね。

「司・・・大丈夫?」

わぁぁぁっ。

下から覗き込んだ私に覆いかぶさるように道明寺の腕が伸びて私をしっかりと抱きしめられていた。

重いッ。