不機嫌なFACE 27 (完)

短編から発展したこのお話も最終話です。

新しいお話の始まりはひとまず封印して、この夏は乗り切ろうと思っています。

この決心がコメントで揺らぐんですよね。

たくさんの拍手ありがとうございました。

「ごめん・・・」

小さく漏れる声。

気まずさは消え入りそうな声に表れている。

「今度、間違ったらゆるさねェからな」

不愉快なのは嘘じゃない。

責めるつもりで出た声がわずかに緩んでいたのが自分でもわかる。

こいつならそれもしょうがないって許してしまってる。

自分が思ってる以上にこいつには甘い。

それを直ぐに示すほど寛容になれないのも本音。

自分から手を差し出すのがヤダと子供じみた強がり。

迎えの車に乗り込んで腕組みをしたまま無言で眼を閉じた。

そして静かになった車内。

全身の感覚だけがやけに研ぎ澄まされている。

なんとなく見られてる視線も・・・

わずかに触れ合う肩越しの温もり・・・

今は怒る気もない。

珍しく俺に嫉妬を見せたつくし。

それだけでいつもより浮かれてた。

つくしが不機嫌な感情をありのままに見せるのを喜んでる。

下手にほかの男を寄せ付けたことも警戒心のなさすぎも今日は大目に見てやるよ。

やっぱり、どうしようもなく俺はつくしには甘い。

それでも俺はつくしに言わせれば傲慢、横暴、わががまらしい。

「・・・司」

「寝てる?」

寝てねェよ。

つくしの問いには答えずにただ黙ったまま口元に力をいれた。

一言でも漏らしたらすげー甘い顔を暴露しそうだ。

ゆっくりと影が顔を覆う変化が閉じた瞼の上からでも分る。

「寝てるの?」

頬に触れるつくしの息遣い。

それはわずかに横に動いて唇に感じる熱。

覗きこまれてる様子にうっすらと瞼を開けた。

目の前に焦点が近くてぼやけた顔が見える。

「あっ」

目が合った途端に驚いたつくしの顔がわずかに後ろに動いた。

そして気まずそうなつくしの視線とぶつかった。

逃げようとするつくしの肩をすぐさま手で掴んでその動きを止めた。

「寝てると思ったから・・・」

見る間に染まる頬。

「キスしたくなったとか?」

確信的な感情がつくしを追い込んでいる。

「さっき、途中までだったもんな」

会場を抜け出した一角で重ねた唇。

深まるキスの合間でつくしが洩らした吐息が甘く変わったのは分かっている。

「お前が強請ったら続きをやってやるって言ったんだよな?」

ゆっくりと背中を後部席から離して体勢を入れ替えるようにつくしの背中を後部席に押し付け様に動かした。

「そんなつもりじゃ・・・」

重たげに瞼を待ち上げた瞳がうるんで俺を見つめてる。

それが男の欲望を挑発するってわかんねぇのかよ。

そんな表情ほかの奴に見せてねェだろうな?

つくしから近付いて離れた唇を今は俺が追いかけている。

観念したように閉じる瞳。

わずかに開いた唇から甘い口内に滑り込む舌先。

吐息を吸い上げるたびに身体の奥から熱が生まれてくる。

「息が・・・出・・来ない」

逃げ出そうと俺の胸元を押し上げる掌を拒むように片手が握りしめていた。

キス一つで素直な反応をするくせに、俺を拒む態度は崩さずにか弱い抵抗が波の様に繰り返してくる。

そんなのどうとでもなるけどな。

「いい加減に無駄な抵抗やめろ」

「無駄って・・・こんなところで触れない・・ッ」

足に滑らせていた指先はそのまま当たり前の様にスカートをたくし上げるように動かす。

「だから・・やめッ」

ばたつかせる足も邪魔にならない広さのリムジン。

「押し倒されたいのか?」

「押し倒しても、押し倒されたくても一緒じゃん」

両手の肘を突っ張って俺との距離を保とうと無駄な抵抗を見せるつくし。

「俺にかなうと思ってるのか?」

「じゃぁ、タイム!」

グッと眉を上げた表情をつくしが見せる。

タイムって・・・

試合してるわけじゃねェだろう。

まぁ運動にはかわんねけど。

もっと色気のある言い訳言えねェのかよ。

クスッと漏れそうになる声に、つくしを押さえつけようとしていた腕から力が抜けた。

「そのタイムって何時まで?」

緩みそうな口元を片手で覆って隠す様につぶやく。

「帰り着くまで」

決死の覚悟の表情が拗ねてるように見えた。

その表情がむちゃくちゃ可愛く見える。

「その後は俺の好きなようにやらせてもらう」

独り占めしたい独占欲と挑発的で威圧的な感情とがまじりあう。

抗う言葉を発せられる前に今度は強引に奪う様に唇を塞いだ。