If 20

無人島までは来たけれど♪

なんだかこのまま何事も進行せずに終わらせたいというドS根性が顔を出して来てたりして。

このお話はファイナルのおしまいで終らせるつもりでしたから、そうなったら結婚式の後まで書かなきゃ☆は出没しないことになります。

☆なくてもいいかなぁ・・・(^_^;)

*

温もりのある感覚。

それは体温の暑さよりわずかに温かい。

打ち寄せる波の音。

ザァーと引いては打ち寄せる音は耳に静かに残る。

波の音しか聞こえない静けさ。

鼻に感じる塩の香り。

生温かな風が頬に触れた。

海?

太陽の眩しさを感じながらゆっくりと目を開く。

両手を下について身体を起き上がらせる。

座席シートのレザー感触からは程遠いさらりとした感触。

指の間から零れ落ちるさらりとした砂をおぼろげに眺めてる。

そこからゆっくりと走らせた視線。

緩やかに流れる海岸線。

人工の造形を感じさせない自然。

遠くまで眺めても船どころか陸地も見えなかった。

「ここどこ?」

ぽつりと聞こえた声の後は波の音に飲み込まれて聞こえなくなる。

砂の上に残された足跡を目が追う。

砂に足を取られてよろける牧野が見えた。

なんで・・・

こんなところに俺たちはいるのだろう。

滑走路もないのだからジェットのままここまで来るのは無理。

俺たちを運んだのはヘリか船。

誰が?

いったい・・・なんのために?

俺たち二人を置き去りにした意味は?

こうなると牧野があいつらを疑った事もあながち否定できなくなる。

ただ、あいつらが俺たちを貶める必要はないはずだって今でも信じてる。

俺と連絡が取れなくなれば西田が探しだすはずだ。

それはけして願望じゃなく確信。

まずは助けが来るまで生きる。

牧野と二人ならなんの問題もない。

浜辺の反対側には広がる樹木。

亜熱帯特有の緑。

ここが大陸の湾岸ではなく孤島だってことはすぐにわかった。

1日もあれば一回りできそうな島の大きさ。

無人島だな」

呟いた俺と呆然とした牧野と目が合った。

俺たちの傍には荷物がそのまま置いてある。

ただ一つ奪い返したはずのティアラの箱だけが消えたいた。

携帯電話も残されていたが当然圏外。

ティアラを奪うためには手が込んでいる。

それだけが目的なら俺らをジェットの中に置き去りにするだけで済む。

意識を取りもどした時に考えていたことをまた頭が考え出す。

殺すつもりもねェみたいだし。

助けを待つ。

それが結論。

「ねぇ、絶対助けなんて来ないと思う」

「なんでだよ」

「だって、これ、はめられたわけでしょう。自力で生きていくしかないってことだよね」

落胆する牧野。

これで俺まで落ち込んだらどうにもならない。

牧野の言うとおりここは自力でやるしかないってことだ。

「あ、あああっ!」

いきなり何かひらめいたように牧野が叫んだ。

元気あるじゃねェか。

「なんだよ」

「そう言えばさ、あの『ビーナスの微笑み』に埋め込まれた宝石の話、覚えてる?」

結納の席で厳かにタマがティアラを牧野に差し出しながら宝石のについて説明していた。

『アメリカの希望』

『香港の涙』

『南海に浮かぶ愛』

『いにしえの秘密』

と呼ばれる伝説の宝石があしらわれていると・・・・。

俺たちが旅してきたのもラスベガス、香港、そして無人島・・・。

「これって、偶然なのかな・・・」

「最初からここに来るというのは決まっていたってことか?」

南海の次はいにしえがあるってことか?

いにしえってなんだよ。

場所じぇねぇぞ。

いにしえ・・・古。

過去の戻るなんて無理だろう。

「でも、そうなると、もう一つ行き先があるってこと?」

俺と同じ疑問を牧野も感じたようだ。

「もしかしたら天国かもしれねェし、地獄かもしれねェ」

牧野と一緒ならどちらも上等だ。

「とにかくここを生き延びないと・・・」

必ず助けは来るはずだから。

森の中に入って、まずは夜露がしのげそうな場所を探す。

岩壁に囲まれてぱっくりと開いた洞窟。

ここなら問題なく暮らせそうだ。

俺たちと一緒に置き去りにされた荷物の中から使えそうなものを物色。

ミネラルウォーター数本に少しばかりのお菓子。

原始的生活にはほとんど意味のないものが多い。

見よう見まねの火おこし。

意外と何とかなるものだ。

火の落ちた洞窟にともる光。

これだけで生き延びられる気がするから火の偉大さを感じる。

手の皮が剥けるまで頑張った俺の苦労が牧野のホッとした表情に報われた気がした。

洞窟の入り口にたき火を焚いて離れた距離で背中を向けあったまま眠りについた。

牧野との間に出来た溝をいまだに引きずってしまってる。

あいつとの距離が遠い。

翌日から手分けして食料を探す。

流木を集めて砂浜に作ったHELPの文字。

日が経つにつれ牧野は元気を無くしてる。

生きることで必死な時間。

牧野との会話も少ないって思う。

雨に降られて慌てて帰った洞窟。

洞窟の奥で膝を抱える牧野は一人取り残された子供のようで落ち込んでいて、目がうつろで生気がない。

「おい、どうしたんだよ!」

久し振りにじっくりとみた牧野はシャツも手も足も顔も泥だらけで、すり傷だらけ。

それは俺も変わらないがその痛々しさは俺の胸を刺す。

「おい!大丈夫か、牧野!」

「大丈夫・・・」

「無理すんじゃねェよ」

「無理しなくちゃ生きていけないでしょっ!」

ヒステリックに上がる声。

「牧野・・・」

こんな牧野を見たのは初めてで・・・

どんなことにもへこたれずに立ち向かっていく強さは今の牧野から消えている。

今の俺たちの置かれた状況じゃ悲観するのも当たり前で・・・

助けが来るとか・・・

食料も少しは調達できる様になったとか・・・

もう少し頑張れとか・・・

確約のない言葉は意味がないと知ってる。

牧野・・・

どうすればお前はいつもみたいに笑ってくれるのだろう。

この状態に戸惑ってるのはお前だけじゃないんだ。

「やっぱ・・・、道明寺と結婚しようと思ったのが、そもそもの間違いだったのかな」

たき火を見つめながら深々と息を吐き出して牧野がつぶやいた。

「なんで、そうなるんだよ」

「だって、そうでしょう。そもそも、あんなティアラがさいしょからなければ、こんなめに遭うこともなかったわけだし」

「お前、本気で言ってるのか」

顔がこわばるのを抑え様がない。

「ずっと道明寺と一緒にいて、はっきりわかったっていうか、最終的には、やっぱり価値観が違うって事になるんじゃないかな」

「この先ずっといっしょにいて、あたし達、本当にうまくやっていけるのかな」

牧野は俺を見ることなく時折風で揺れる焚火の炎を見つめたまま堅い表情を浮かべてる。

「うまくやっていく気があるかどうかだろう」

「俺は、おまえと一緒に人生を歩いていくことに、なんの迷いもねぇけどな」

怒りより悲しみがみちる心。

今までの俺たちってそんなことで悩ませるほど薄っぺらなものだったのか?

価値観の違いなんて最初から分かっていたことで・・・。

一緒にいたいって思いの中じゃ、たいした問題じゃ無いはずじゃないのかよ。

別れるたびに強く結びついてきたって思っていたのは、俺だけじゃないはずだろう?

牧野の言葉は俺と結婚するどころか、俺との出会いを否定してる気がした。

今はなにを言っても無駄だよな。

自分の感情を落ち着けるために牧野を残して洞窟を出た。

それから・・・

気まずさのままにすぎる日々。

話すこともなくって・・・

互いに顔も見れずに時間だけが過ぎる。

声を出せば言いあいになりそうで怖い。

この俺がこれ以上牧野との関係がこじれることを怖がってる。

夜・・・

日が落ちても帰ってこない牧野。

悲観気味の牧野が正常な精神状態でないのは分ってる。

喋らなくても・・・

笑わなくても・・・

ただ、傍にいるってだけで安心できた。

温もりが遠くても牧野の息遣いを感じるだけで眠りにつけた。

牧野の居場所がわからないだけでどんだけ不安なんだ。

手作りのたいまつをかざしながら森の中を探し回る。

こんなに長く時間を感じたのはこの島に来て初めてのこと。

「牧野っ!」

倒れてる牧野を見て一瞬身体が凍った。

「おい!牧野!大丈夫か、牧野!」

両手で抱き起こして震える声。

「アタシ・・・なくしちゃった・・・」

ゆさぶって、やっと気がついた牧野が力ない小さな声が漏れた。

「え?」

土星のネックレス。二人のだいじなネックレスなのに・・・」

「・・・牧野」

俺が初めて牧野に贈ったネックレス。

牧野が何よりも大事にしてるってことは知っている。

二人の絆だっていうみたいに。

ばかだな。

うまくやっていけないと、別れる宣言みたいなこと言ってても、そんなもん大事にしてんだから。

「俺にとっては一番大事なのはお前だ。つまんねェことで心配かけんじゃねぇ」

疲れ果ててる牧野をおぶった背中で小さくコクンと牧野がうなずいたのが分かった。

背中に感じる牧野の重みと温もりが二人の距離を少しもとに戻したように感じてる。

森を抜けると見上げた空にいくつもの輝く星が見えた。

俺たちは大丈夫だと言ってるみたいに。

簡単に書こうと思っているのにファイナルのDVDを見ながら書いてると数分の場面も文字にすると膨大になるって実感します。

映像ではそろそろ終わりなんだけどなぁ(^_^;)

楽しみいただけたら応援のプチもよろしくお願いします。

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