はぴまり JOYFUL 8
そろそろご出産と行きたいところです。
どんな出産になるんだろうか・・・。
長らくお待たせしました。(^_^;)
「うっ」
箸を持っていた手をパチリとテーブルの上に置く。
じんわりと痛みがお腹の真ん中から腹部全体に広がって腰のあたりまで放出される。
「どうした?生まれるのか?」
お腹を抱き込むようにテーブルの上に上腕を置いて身体を支える私をテーブル越しに北斗の腕が延びて私の肩を掴んだ。
どうせなら腰を擦るとかしてほしいのだけど声を出すのも苦痛。
今まで感じたことのない痛み。
1年分の生理痛が一度に来た感じかな。
大丈夫だと思いつつ顔を顰めてしまうのはどうしようもない。
まだまだこれから痛みはひどくなるはずなのだから。
じょじょに痛みは治まって、大きく息を一つは吐いた。
「北斗?」
さっきまで傍にいたはずの北斗がいなくて返事を待つ。
「?」
バタバタと慌てる様子で姿を現した北斗は両手に紙袋とカバンを下げて私の前に立つ。
まるで夜逃げでもするような慌ただしさ。
「なにしてるの?」
「なにって、病院!入院だろうがぁ!」
呑気にしてるなと虐げる様な視線を私に向ける。
パジャマ姿でその格好は北斗には似合わなすぎる。
「まだ痛みの間隔があるからまだだよ。説明を聞いてなかった?」
つい先日、北斗も一緒についてきた定期健診。
人間らしい赤ちゃんの姿が映し出されるエコー。
目を開いたとか、あくびをしたとか、手を伸ばしたとか・・・。
画面いに映し出される赤ちゃんを食い入るように見つめていた北斗は珍しく嬉しそうな表情を隠さずに見せていた。
「入院の時期とか説明があったと思うけど」
「聞いてない」
「先生も看護師さんも説明してくれたけど」
「お前のお腹の子供に夢中だったんだよ」
ムッとした表情でピキッと動くこめかみ。
照れてるのをブスッとした表情で隠さなくてもいいのに。
「なに笑ってんだよ」
「別に、笑ってないけど」
「笑ってるじゃねェか!」
「北斗の子供をもうすぐ産んで上げるんだから優しくしてよね」
「時々、無性にお前の首を締めたくなる」
口角をキュッと上げた口元から絞り出すような声。
実際に首を絞められてるような威圧的な迫力をもつから冗談に聞こえない。
そして・・・
苦虫を噛んだ表情には似合わない柔らかな光りをたたえた瞳がまっすぐに私を見つめる。
そのまま・・・
背中から首を巻く様に回された腕。
北斗が手にぶら下げたままのカバンがわずかにユラユラと胸元で揺れる。
「しばらくは、お預けだよな」
艶の色の濃い声が耳元でいたずらぽく響く。
何考えてんのよッ!
真っ赤になって見上げた私の鼻先で北斗がニンマリとなった。
ウッ・・・イタッ。
北斗の腕からスリ抜けるように床に座り込む。
まだ陣痛の間隔は長い。
入院前にしなければいけないことなかったっけ。
痛みを我慢しながら冷静に考えを巡らせる余裕がまだある。
アッ!
洗濯!
下着がそのままだった。
痛みが治まったところで脱衣所に向かう。
洗面所で下着を手洗いしていたところで手元を暗く覆う影。
「そんなことしてる場合じゃねェだろう」
私の手元から取られた下着からスタスタと落ちる水滴。
「洗濯が終ってなかったから、返して」
「そんなの洗濯機に放り投げれば済む事だろうがぁ」
北斗に洗濯物を触らせられるわけないじゃない。
整理整頓は苦手で、汚すのは子どもよりうまいんだからねッ。
それに下着なんて恥ずかしいし・・・
「いまさら、下着くらいで恥ずかしがるな」
「お前のことなら隅々までお前より俺の方が詳しいぞ」
横柄に言い放つふてぶてしい態度。
ムッとすると陣痛が強くなる気がする。
イタッッッ。
それからしばらくして陣痛の間隔の短くなった私は北斗と一緒に病院に向かった。
産むまで行かなかったなぁ・・・(^_^;)
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