DNA で苦悩する 52

朝一でメールを開いてみれば申請メールの受信が118通。

昨日の昼間も50通以上は返信してるんです。

今送られてくるメールに対応するのが精いっぱいで、コメント欄からの申請には対応しきれてません。

申し訳ありませんが今週いっぱいはメールフォームと直アドでの申請でお願いいたします。

コメント欄で申請された方は申し訳ありませんが、再度の申請(コメント欄以外)をお願いいたします。

「撮影終わったのか?駿は?」

歩いてるだけなのに人目を引く艶やかさが迷いもなく目の前に迫る。

慣れてるはずなのに、ザワツキがピタッと止まって注目が一斉に向いた瞬間に緊張が走る。

「さっきまでいたんだけど・・・」

スタジオの隅にいた駿と目があったのはほんの数分前の出来事。

司に目をとられた隙に視界から消えていた。

「司、お前との関係がばれたくないから逃げたんだろう」

茶目っ気たっぷりな表情を浮かべる美作さん。

「あきら、おまえがわざわざ撮影を見に来る自体で何かあると思われるんじゃねェのか?」

不服な笑いで吐き出す様は猫の毛を逆立たせる威嚇を連想できる。

「俺の場合は仕事の名目がある」

「それなら俺はスポンサー様だろうが、扱いが雑じゃねェのか」

「勝手に来て良く言うな」

二人並んで壁にもたれて談笑…

遠目にはそう見えなくもない。

何をやってもカッコよく見える容姿は徳だ。

「わぁぁぁぁぁ、お世話になります」

転げる勢いで目の前で頭を下げたのは駿のマネージャーだという田中さん。

「すいません、さっきまで駿はいたんですけど、いなくなっちゃって、トイレかな?」

「駿はこのCMに起用されたうちの新人なんですけどね。社長のお気に入りなんです」

田中さんのはしゃぎっぷりに美作さんが苦笑する表情を見せてた。

スタジオをぐるりと見渡した田中さんの視線は司の目の前で数秒停止。

角度15度の頭の下げ具合から司を見上げる視線。

何かに気が付いたように分析を始めたような表情に変わった。

「誰かに似てると思ってんですよね。そうか・・・」

その言葉にギクリとなったまま美作さんと目があった。

もしかして気が付かれた?

一目見れば司と駿は親子だって分かるそっくりな容姿。

撮影現場に普段現れない美作さんがいる事自体異例なのに、そこに分刻みの多忙人の司まで顔を出す。

ちょっと感がいい人なら、ばれる確率は80%には跳ね上がる。

「あーーーーっ、だから駿を今回起用したんですね」

はは・・・っ。

一気に緊張が解けた。

似てる=親子の関係にはつながらないんだ。

「こちらが、今回のCMを撮っていただいた鮎川監督です」

制作会社の担当らしき人があいさつにと幾人かゾロゾロと現れた。

どこに行っても司の周りでは挨拶の儀式は振って湧いてくる。

私の場合は撮影が終る前に美作さんと込みであいさつは終わってが、幸いにも私に関心を寄せる人は居なかった。

鮎川翔五郎。

駿の彼女の父親で、BFができるととことん邪魔されるのだそうで、その点は司と気が合うような気がした。

巨匠の威厳。

誰にも媚びない、自信のみなぎらせる風貌。

タダものじゃない雰囲気は独特で指示を出す側の人間だって分かる。

腕組みをしたまま司を睨む態度を見せる人を初めて見た。

「今回はお世話にまります」

不穏な雰囲気を察知したように場をなごませるような微笑を見せる美作さん。

「こちらは、今回スポンサーの道明寺ホールディングス代表の道明寺司様です」

制作会社の社員は顔に吹き出す汗をハンカチで何度も拭き取って居心地の悪さに必死に耐えている。

「あぁ」

どちらも尊大な態度を崩さないまま値踏みする様な視線をぶつけてる。

まだ駿の親が私達ってばれてるわけじゃない筈なんだけど・・・。

「ちょっ・・・」

司の袖口をぐいぐいと引っ張った。

「なんだ」

「なんだじゃないわよ」

「なんでここで嵐を作ってるのッ」

遠慮がちに小さく司に聞こえるだけの音量。

「あいつ、態度でかすぎだろうが」

態度のデカさはどっこいどっこいだって思う。

「世界的に有名な監督なんだからね」

「俺の方が有名だろうが」

バカデカい声を押し込むように両手で口を押えて、隅っこに司を引っ張った。

「駿の、好きな子の父親だって分かってるよね?」

「別に親なんて関係ねェだろうが」

「あのね、お母様が私達の仲をみとめなくていろいろ邪魔されたの忘れたの。同じようなこと駿に起こったらかわいそうだと思わないの!」

「俺らの子供ならそれくらいの障害乗り越えられるだろうがぁ」

「邪魔されても、別れさせられても諦めきれない恋なら本物だろう。俺達みたいに」

私の毒気を抜くには十分すぎる熱い瞳。

言い合いからいきなり甘ったるい表情に変わって私を見つめる。

「牧野、その辺でやめといた方がいいぞ」

背中から聞こえてきた美作さんの声。

動きが止まったまま集まる視線。

ぐるりと視線をまわした瞬間に、一時停止のフイルムが再生ボタンを押したように自分達の仕事を思いだしたように動き出した。

ギャー―――ッ。

私たちの会話ってどこまで漏れていたのだろう・・・。