DNAに惑わされ 8
優雅に豪華なマンションで一人暮らし♪
気持としては駿君を単身の1DKに住まわせたいといまだに夢を捨てきれず、うじうじ。
その方が私の想像力が楽できるのになぁ。
つくしが子供には贅沢と反対して、手ごろなアパートに変更。
引っ越しの理由が理由だからそれは無理だなと分ってはいるんですが、まだあきらめられない私です。
*
「何かあった?」
いきなり鮎川のバイトの店先に千葉さんが現れたのは父さんが出て行った数十分後。
僕をせかせて店先から連れ出した様子はきっと鮎川にはただ事じゃないと感じたはずだ。
学校に登校して来る僕を待ちかねたように鮎川が呟いた。
「連絡せずにごめん」
呟く僕に首を横に振る鮎川。
不安そうに見つめる瞳は心なしか赤い。
「引越したんだ」
「引越したって、どこに?駿君の家じゃないよね?」
道明寺邸からこの高校に通うのは無理。
「違うよ、昨日から一人暮らし」
「そうなんだ・・・」
ホッとしたように鮎川が息を一つ小さく漏らした。
鮎川の一つ一つの仕草が、僕のことをどれほど心配していたのだろうと想わせる。
それでもごめんと謝る僕より、喜んでしまってる僕がいる。
「連れ去られる感じだったから心配したんだからね」
学校の外での待ち伏せも、知らない子に追いかけられる騒動も、学校からの呼び出しがあったのもすべて見ていた鮎川。
何時もは冷静で、感情を滅多に表情に表さない鮎川が、素直に僕だけに見せる不満。
それが、嬉しくて、かわいくて、思わず小さく笑みがこぼれた。
「なんで、笑うの?」
「いや・・・可笑しくて笑った訳じゃなくて、ヤッパリ可笑しいのかな?」
「また笑った!」
ムッとした表情はくるりと背中を僕に向けてスタスタと校門をくぐった。
その背中を追いかけて横に並んで歩く。
新しい住居のことや、昨日の親とのやり取りを話す僕の声を聴いてるのか聞いてないのか無反応な鮎川。
歩く歩幅は重なっているから鮎川は聞いてくれてると確信が持てる。
「おはよッ」
後ろから僕の背中に飛びついて来た蒼。
「昨日、帰ってこなかったけど、まさか・・」
チラリと鮎川を気にするように向けた視線。
耳元に唇を近づけて蒼の声が小声になる。
鮎川に聞かれたくないことを言い出すって分る対応。
変なこと言い出すだよな。
それでなくても、昨日の父さんの帰り際の一言で、余計なこと考えてしまってんだから。
「鮎川と一緒だったとかないよな?」
父さんの一言より踏み込んできた。
「違うよ」
「騒動で牧野の家に迷惑をかけてるから部屋を借りたんだよ」
首に巻きついた蒼の腕を乱暴に引きはがす。
「確かにあれは落着けないもんな」
考える表情で蒼は顎に手をやる。
蒼の家の近くでも張り込んでる女の子の影。
「俺に用?」
蒼に声かけられた女の子はキャーと声を上げて逃げるように走り去る。
「一人退治してやったぞ」
手柄を自慢するように言ってた蒼もいい迷惑だったはずだ。
「一人で住んでるのか?」
「一応な」
言った途端蒼の瞳が悪戯っぽく輝いた。
「駿君、それじゃ引っ越し祝いしなきゃな」
ガシッと腕を回されて掴まれた左肩。
「どんなところに住んでるのか、すげ~気になるし」
蒼がしゃべるたびに肩を強く掴まれて、逃がさないって状況に追い込まれている。
「鮎川も来るよな?」
僕を通り越して蒼が明るく声をかける。
「おい、勝手に決めるな」
まかせろと自信ありの視線を蒼が僕に送って、胸を手の平でバシッと叩かれた。
「テッ!」
胸の痛みより鮎川の反応の方が気になる本音。
クスッと笑った口元にグーに握った右手を鮎川が当ててコホンと一つ咳を払う。
「みんなで集まるの水族館以来だね」
「やった!」
腕を空に大きく伸ばして飛び上がったのは蒼だった。