DNAに惑わされ 9

蒼君が仕切って皆で集まるマンション。

どんな引っ越し祝いになるのやら♪

*

「失礼します・・・」

自動ドアが開いてカタンと冷たく足音が響く大理石の床。

受付に座る女性に蒼が丁寧に頭を下げた。

「すげ~な、本当にここマンションなの?丸っきりホテルじゃないか」

床に頬ずりしそうに近づけて大理石に映る自分の顔を眺める蒼。

「ここ、靴脱がなくていいのか?」

僕を下から見上げた蒼に笑い声をこらえることができない。

吹き抜けの天井から差し込む光。

マンションのエントランスは無駄に広いスペースで座ると身体が埋もれそうなふっくらとしたソファーが並ぶ。

部屋に通さなくても、ここで面会して差し支えない造り。

東に進むと住居者専用のプール付き、その横にはスポーツジムまで完備。

高所得者向けに建てられた道明寺不動業務が管理する一棟。

結局僕は道明寺の家に囲われてるのと変わりない状況。

三台並ぶエレベーターの左端。

最上階まで一直線の専用エレベーター。

カードを認証させて乗り込む仕組み。

住人以外は受付を通りすぎても最上階までは行けない警備態勢が取られてる。

と言っても最上階に住んでいるのは現在僕一人。

「身元がはっきりしていても売らないから心配するな」

そんな心配はしていない。

そう発言した父さんの方が僕は心配だ。

あと二室あるはずで、翼や舞に住まわせるとか考えないよね?

下手に確認すると、『藪を突っついてヘビを出す』ってことにもなりかねないから口をつぐむ。

引越して三日目。

自分じゃ荷物も運んでないし片付けも必要なかった部屋。

自分の家と言うよりホテル住まいの感が確かにあるかもしれない。

結局父さんの言いなりになってる気がした。

「ここ一人で住むのか?」

パタンと手の力が抜けたようにカバンを床に落とす蒼。

「もう、何見ても驚かないつもりだったんだけど、俺の常識じゃついていけないぞ」

いまだに父さんの常識には、母さんも苦労してるから大丈夫だ。

「部屋の中、見てみてもいいか?」

僕に断りを入れた後きょろきょろと部屋中のドアを開けて見て回る蒼。

それは遊園地に初めて来て興奮気味に目を輝かす子供の様な、はしゃぎっぷり。

「駿、これならクラス全員来ても大丈夫だな?」

肩に腕をまわして明るく言い放つ。

「そんなこと出来るわけないか」

高校生が一人で住んでるには怪しすぎ高級マンション。

呼べるのは僕のことを知ってる蒼に鮎川二人しかいない。

「俺をシェアさせろ」

僕の肩を揺さぶって蒼の顔が目の前に迫る

「べつにっッ」

こら、揺さぶるな!舌を噛みそうになって、言葉が続かない。

「冗談だよ。でも時々は泊まりに来ていいよな?」

住んでもいいぞと言いかけていた僕に蒼が屈託のない笑顔を作った。

十二分に探索した蒼はようやく落ち着いてソファーに腰かけてテレビを眺めてる。

60インチの大画面のテレビに興奮してシアター設備に歓声を上げたのは数分前。

今は当たり前のようにリモコンを自分の前に置いて鑑賞中。

僕よりも蒼の方がこの部屋の主となってる。

誰かの来訪を告げるチャイム。

たぶん鮎川。

「は~い」

相手には聞こえない返事をしてモニターに出たのは僕じゃなくて蒼。

遠慮なさすぎだぞ。

蒼だから、何をされても怒る気にもなれなくて、逆にそれが僕を居心地良くさせる。

遠慮がちに、媚を売る様に僕に接してくる他人には飽き飽きしてるから。

道明寺の名前に縛られない同等の関係が僕の望んだもの。

それが蒼と僕との関係。

「お邪魔します」

物静かな他人行儀の声。

リビングの向こうから聞こえた鮎川の声にドクンと心臓が高鳴った。

蒼のようにキョロキョロと部屋を見渡すわけじゃなく、僕を見つけて柔らかい微笑を浮かべる。

少し照れくさそうに頬を染める鮎川を見てうれしいと思う僕。

「これ、お土産」

紙袋を上に持ちあげて見せる鮎川。

手ぶらな蒼より、気遣いがある。

「ありがとう。気を使わないくても良かったのに。蒼は何も持ってきてくれなかったからな」

紙袋を受けとりながらちっらりと非難めいた視線をわざと蒼に送る。

「俺?俺は愛情と労力」

自信満々な笑みを蒼が僕に返してきた。

どっちも即座に却下するよ。

拍手コメント返礼

アーティーチョーク 様

蒼君にはこれからしっかり駿君のシングルライフの邪魔を・・・

じゃなく目付としての活躍に期待?

道明寺邸より人の出入りがはげしくなっるかもですよね?

「これじゃ意味がない!!」と駿君が根を上げるのが先だったりしてね。