生れる前から不眠症 17

このお話も落ち着きそうな状況が見えてきました。

我儘に帰らないと意地を張る葵ちゃんじゃないでしょうし・・・(^_^;)

あきらならスマートに連れて帰って丸く収まりそうですよね。

それじゃ面白くないかぁ・・・。

これ以上、虐めたお腹の子供に悪いぞ~。

佑君がグレて生まれてきたりして(^_^;)

*

「モテるのが悪い!優しすぎるし!」

通された部屋の前でドアノブをまわす手が止まった。

「美作さん、高校の時から何時も違う女性連れてたからなぁ。

あっ!西門さんもいつも一緒だったけど」

葵の少し興奮した声に相槌をうつ牧野の声。

ここで、俺の高校時代の女性遍歴をばらすな。

ここはフォローするとこだぞ。

「会社でも噂は聞いていたから、それは知ってるんだけど・・・」

か細くなる葵の声。

寂しさを滲ませた声はグッと俺の胸を締め付ける。

「一緒に仕事をしてた時もしっかり女性の興味は引き寄せていたしね」

「まさか、葵さんの前で女性を口説いてたの?」

俺を責める様な口調には変わる牧野の声。

「そうじゃなくて言い寄られていたのはあきらのほう」

爺様の話しにノッタ時から女性の誘いは断ってる。

牧野にも恋人のふりをしてもらって女性たちと別れた。

もう、ずいぶん昔の気がした。

今では付き合った女性の名前も顔も思い出さない。

俺の記憶は全部葵で埋め尽くされてる。

子供も生まれたら、三人で綴る記憶がもっと書き足されていくはずだ。

ここで立ち止まる必要はない。

「とに、あの人達って目立つのよね」

「目立つなって言う方が無理」

「熱い視線で見られる人はいいけど、そばにいる私たちは冷たい視線で挑戦的に見られるしね」

「それは慣れたけど、エスコートされてる私がいるのに無視して司に声かけるってホント、ムカつくんだから」

司は、声をかけられてもゴキブリを見る様な鋭い目つきで相手は一瞬で凍る。

俺なら絶対二度と声をかけない。

「でも、道明寺さんの場合は、相手を無残に撃沈させられるでしょ」

葵の評価も俺と同様なのに苦笑。

「それは、それで後のフォローが大変なの」

牧野、今はもう慣れたろう?

道明寺代表夫人の役を立派に勤めてる牧野の評判は経済界では上々。

牧野の機嫌を損ねたら痛い損失。

ちやほやされるのは性に合わないって表情の牧野を見てるのは一つの俺たちの楽しみ。

何年経っても牧野の本質が変わらないのはすごい事だと思う。

だから、司もいまだにべたぼれなんだろうけどな。

「結局、私たちが一番夢中にさせられてるのよね」

「これじゃ、悪口になってない気がしない?」

和らいだ雰囲気が部屋の外からでもわかる。

今ここでドアを開けるのはくすぐったい。

ノックする音に笑い声が止まる。

「ハイ」

牧野の声とともに開いたドア。

「やっと来た」

何やってたのと俺の袖を掴んで半ば強引に部屋の中に引き入れられた。

「後は、よろしく」

ニッコリとほほ笑んだ牧野が俺達だけを残して部屋を出ていく。

パタンとドアが閉まった音に背中に緊張が走った。

「葵・・・」

葵は、もう落ちつてるよな?

女性を口説くのに今以上に緊張した記憶がない。

「あきらの子供じゃなかったんでしょう?」

総二郎から連絡があったと言う葵は一息入れるようにグラスを口に運んだ。

「ごめん。今さら怒る事じゃないのに・・・」

俺を見ずに俯いたままの横顔。

謝るのは葵じゃなく俺の方。

必要ないことで、不安にさせて、悩ませてしまったのは俺の手落ち。

「葵が謝る必要はないから、ごめん」

背中から寄り添う様に腕をまわして椅子ごと葵を抱きしめた。

「はっー」

胸にたまっていた感情をすべて吐き出そうとする様に葵が息を大きく吐いてつく、たため息。

「これからも、こんなことありそうだよね。

芽夢ちゃんと 絵夢ちゃんに写真を見せられたことあったし・・・

あの中にあの人いた?」

妹たちが葵に意地悪をしてたのは結婚前の話。

葵に見せた俺の依然の交際相手の写真なんて、チェックもせずに全部捨てた。

「気にする必要はないよ。今の俺は全部、葵のものだから」

「気にするなって、気になるに決まってるでしょ」

強気になった声と同時に首を横に向けながら葵の顔が上を向く。

振れそうになった唇に葵の頬がわずかに染まるのが見えた。

「しゃべり過ぎだな」

これ以上昔のことで責められない様に塞ぐ唇。

葵の舌と触れあった時に葵の身体から力抜けるのを感じた。

「ダメっ・・・」

熱を逃がす様に口元から零れる吐息。

「なにが、ダメ?」

「誤魔化されないから」

逃げるように椅子から立ち上がった葵をもう一度胸の中に聞き寄せる。

唇が触れた瞬間に塞ぐ唇。

それを繰り返すたびに発する言葉は小さくなって消えていく。

まるで終わりのないようなキス。

「んっ・・・」

俺のシャツを握りしめた指先が色を失うほどに強く握りしめた。

身体中に感じる痺れる快楽。

葵以外には感じることはきっとできないって思う。

「帰ろう・・・」

耳朶を唇で軽く噛みながらつぶやく。

「ずるいんだから」

甘い疼きを秘めた熱い瞳とは裏腹な責める声。

甘ったるい声はなんの抑制力もない。

葵が俺の胸にもたれかかりながら身体を全て預けた。