迷うひつじを惑わすオオカミ 21

プルッと振動を伝えてきた内ポケットの携帯。

着信音は出たくない相手を知らせてる。

今さら何の用だと心の中で舌打。

牧野を返す

そんな言葉を期待できる相手じゃないことは承知してるが1%の期待は残る。

「もしもし、司?」

落ち着きのある張りのある声は実年齢より若い響き。

「さっさと用事を言えよ」

ツンとした対応はおふくろに牧野を取られた怨み。

「お昼一緒に食事をしましょう。

彼女もいっしょに」

食事の言葉より彼女の単語の方が頭に残る。

彼女って牧野だよな?

断る理由もない。

「30分、経ったら時間が空く」

そういって携帯を切る。

自然と頬が緩む。

心が躍る感覚が胸の奥に広がる。

その上に着ているスーツ。

内ポケットの中に押し込んだはずの携帯がポロリと下地を滑って床に転がった。

俺・・・どこまで浮かれてんだ。

すっかり牧野を嫉妬させる作戦忘れてしまってた。

「少し待ってもらえるかしら」

チラリと塚原さんに移した視線。

興味もないといった感じで数歩私から遠ざかったお母様は携帯を取り出して誰かに連絡を入れている。

「もしもし、司」

電話の相手が道明寺だと気がついた途端に心拍は一割は確実に跳ねあがった。

「お疲れ」

塚原さんの後ろにはピタリと木崎君も張り付いてる。

「頼まれた書類をコピーに行くとこ」

手に持った数枚の書類を軽く上に上げて私に見せる。

「コピー機、秘書室になかった?」

私の言葉に木崎君が驚いたような表情を浮かべた。

「つくしちゃん、秘書室に入ったことあったっけ?」

前に何度か・・・

って言えるわけがない。

「あっ、さっき見た様な気がしたから」

焦ったまま取り繕う声。

「枚数が多いから秘書室のコピー機は使えないって事らしい」

「というのは建前で代表に体よく追いやられたんだと僕は思う。コピー100部ってどう考えても嫌がらせだろ?」

口もとを書類で隠しながら木崎君は視線で塚原さんを示した。

100部・・・

道明寺の意地悪なら1000部って言いそうだけどね。

「牧野さん、そっちはどう?」

木崎君を押しのけて塚原さんがグイと私に身体を寄せる。

「代表たら、私を見て赤くなったのよ」

言葉の後にハートが飛んでるのが見えた。

道明寺が赤くなったって・・・

想像できない。

怒りで顔を赤くしたのならわかる。

でもそうなる前に道明寺なら怒鳴り散らしそうだ。

「大事な書類も私を信用してこんなにまかせてくれたの」

木崎君から奪いとった書類を私の鼻先に突き出してきた。

「そうなんだ・・・」

失笑気味の木崎君には気がついてないのか、眼中にないのか・・・

自分に都合のいい解釈に私はたじろいでしまって言葉が浮かばない。

「お昼一緒に食事をしましょう。

彼女もいっしょに」

携帯を耳に当てながらお母さまが私に確認するように視線を向ける。

食事って・・・私とお母様と道明寺ってこと?

普段食べ慣れない高級ランチ。

食べたいけど喉を通りそうもない。

「キャッ」

私の横でぴょんと跳ね上がる塚原さん。

「会長になんでわかっちゃったのかしら、代表が私に興味が有るって」

もしかして・・・

お母さまの言った彼女を自分と取り違えてる?

「んなわけねえだろう」

木崎君が呆れたようにボソッと声を吐き出した。

「塚原、それよりコピーが先だろう」

塚原さんの襟元を引っ張る様にして木崎君が歩き出す。

「ちょっと、会長が私に声かけると思うから待ってよ」

木崎君から距離を置くように塚原さんが離れた。

「つくしさん、30分後ね」

その声はニッコリと笑みを浮かべて私に迫る。

塚原さんの期待を裏切る様にお母様は二度と塚原さんを見ることはなかった。

その場にはお母様と私しかいないという様な対応。

「牧野さん・・・会長に名前で呼ばれてるの?」

さっきまでの笑顔を浮かべていた塚原さんがこわばった表情に変わっていた。

拍手コメント返礼

メガネちゃん様

つくしって親しく呼ばれちゃってつくしちゃんもドキドキでしょうね。

つくしと楓さんの正体を知らないのは塚原さんだけかも・・・

木崎君は目撃しちゃってるか何か気がついてそうですものね。

まちゃこ様

そうなんですよ。

木崎君は最初に会長に声をかけられるつくしちゃん目撃してますからね。

それに男子の場合物事を分析して見ちゃいますからカン違いはしないだろうしなぁ。

ゆきこ 様

えっ?

ここでの楓さんに佑のこともお願いするんですかぁ~(爆)

うんうん、この楓さんなら佑君にも優しく愛の手を差し伸べてくれそうですね。

>「はい、お義母さま。あ。失礼しました、会長」とか言っちゃえば良かったのにー。

この後肩を並べて歩く二人を塚原さんが呆然と見送ってる。

なんてね。

あっ・・・

終わっちゃった。

司君いいとこなしだ~。

さっちき 様

今回はなにげに楓さんドストライクの直球投げちゃってますよね。

塚原さんこれでぎゃふんと言うのでしょうか?

それは次回のお楽しみ♪

やなぎ様

そうそう、この手のタイプはハッキリ言わなきゃわかんないですよね。

ドカンと言ってもらいましょう。

みわちゃん 様

都合のいい思い込みはどこまで湾曲するんでしょうか?

会長の一言は結構思いですよね。

あも 様

ここからもっと気分爽快になる様に責めてもらいましょう。

しかし今回の塚原さんの嫌われ度はオリキャラナンバー1じゃないかしら?(^_^;)

かえまま様

ここで楓さんが一発放つとは以外でしょう。

これで最初の司サイドのお話が生きてくると思います。

司君30分と言わず直ぐに出てくればおもしろいのになぁ。

なる 様

今回は楓さんが一歩先を行っちゃってます。

西田さんと提携してたりして・・・(^_^;)

続が気になりますよね。

連続で私も行きたい気分ですよ。

Gods & Death 様

コテンパンに!

言われてみればどこからきた言葉でしょう?

「こってり」という言葉の擬態語にした言葉という説があるようですよ。

ちぎっては投げちぎっては投げ!

なんだか時代劇の一場面が浮かびます。

「こてんぱんにやっておしまい」

叫びそう~。

ちー 様

今回は楓さんの肩持っちゃいますよね。

どんどん行っちゃって欲しいとほとんどの方が思ってるのがうれしいなぁ。

派手にやり過ぎるとつくしちゃんの人の良さがでてきそうなんですけどね。

mizuta 様

つくしちゃんと司のことを知ったら、強張った表情の中に妬みが出てくるんでしょうね。

私の方が勝ってる!

絶対思ってるタイプ。

ここを丸めて粉々に出来るのは司だと思ってます。

最高とお褒め頂き筆がノリますよ♪

ありがとうございます。