PHANTOM 4
婚姻届♪
司君真っ青よ~
つくしちゃんに悪気はないから離婚届だって素直に言っちゃうし。
ここで司がどう考えてるかなんて思ってもいないでしょうね。
司が何を考えてるか皆様はお分かりですよね?
つくしちゃんも、罪な女性だなぁ~。
「ごめん、急がないと遅刻しちゃう」
俺の腕をかいくぐるように一歩つくしの身体が俺の前に出る。
だから!
行かせねって言ってるだろうがぁぁぁ。
むんずとつかんだ華奢なあいつの手首。
ひねり上げるように動いてつくしを引き寄せた。
「この薄い紙切れが俺より大事だって言うのか?」
俺の腕から逃れるように手首を回してたつくしがきょとんとした表情で俺を見上げた。
「何比べてるの?子供みたいなこと言わないでくれる。
大体仕事と道明寺を比べてどうするの。
私は仕事に関しては道明寺を攻めたことはこれまで一度もないはずだよ」
離婚と仕事を一緒にするな!
言いたい言葉は喉の奥に張り付いたまま出てこない。
喉がからからになるまでこの俺様が緊張するって久しぶりだ。
「本当に仕事であまり時間がないんです。
要件なら僕が代わりに聞きますから」
お前がつくしの代わりができるわけねぇだろ。
緊張漂う表情を向けながらも食い下がらない強硬な態度の甲斐。
「つくしちゃんはお昼には代表のもとにお返ししますから」
にっこりと穏やかな表情がクスッとほほ笑む。
姉貴にバカな弟と笑われてる感覚を思い出してしまう。
「それじゃ、道明寺あとで!」
気が抜けた拍子に突風の勢いでつくしが階段を駆け抜けていく。
「おい、待て!」
待てといっても待つやつじゃねぇ。
追いかけるの俺ばっかじゃねぇか。
「なにか、緊急なことでもあったんですか?」
「この時間に事務所に来るのは珍しいですよね?」
「最近は代表が事務所に顔出すのって休憩時間だけですもね」
答える間もなく矢継ぎ早の質問攻めの松山玲子。
うるせーと一喝できない雰囲気がこの女にはある。
「そうそう、つくしちゃんが就職したての頃はちょくちょく顔を出してましたよね?」
「思わず代表の執務室がこの事務所内に移ったのかと思うくらいで・・・
あっそうか・・・
あの後つくしちゃんと俺らの前で大喧嘩して・・・
やけに喧嘩も楽しそうでしたよね」
同意を求めるように松山にニヤついた楽しそうな表情を甲斐が向けた。
松山に一喝できない不満は全部甲斐がかぶってくれそうだ。
「何が言いたい」
自分でもわかる凄み。
引き攣る頬はぴくぴくと痙攣したまま口角を上げる。
「あっ・・・えっ・・・」
甲斐の固まったまま動かなくなった。
部屋の中の空気が一瞬で冷ややかに変わる。
「つくしちゃんに、何かあったんですか?」
笑みを抑えた真剣な表情の松山。
「あいつ、離婚届をどうするつもりだ?」
ぽつりと絞り出した声。
それを聞き取れなかったとで言うような間抜け面が二つ俺を見つめる。
「だから、どうしてあいつに離婚届が必要なんだ!」
俺とあいつは結婚したばかりで・・・
司法修習のための別居生活も無事に終わって、二人の生活は始まったばかりで・・・
何の問題もなく上手くいってるはずで・・・
愛し合ってるはずで・・・
不満もなくて・・・
毎日が楽しいはずで・・・
そう思ってるのは俺だけってことはねぇよな?
離婚届をあいつが出したくなる意味がわからないんだよ!
あっ!
髪の毛を全部かきむしっても今の状況は俺には理解不能。
「代表・・・もしかして・・・
ご自分の離婚届だっておもっ!」
遠慮がちにつぶやく甲斐の言葉が言い終わらないうちに首を絞めあげた。
「ああ、そうだよ!アイツが戻ってきたら速攻で執務室に来るように言え」
吐き捨てるように言って掴みあげていた甲斐を突き放す。
「死ぬかと思った」
壁際に倒れこんだ身体を起き上らせながら甲斐がつぶやく。
そのまま俺は事務所のドアを勢いよく閉めて執務室にと戻った。
ここはまず冷静にあいつの話を聞こう。
聞けるか?俺?
胸の奥から大きく吐いた息はそのまま口から心臓も吐き出すような錯覚を俺に植え付けてた。