DNAに惑わされ 44

駿君の思いとは違う方向に流れていきそうなこのお話し。

敵は青葉君だけのはずじゃなかったのか?

青葉君がシュンと落ち込むところ見たかったのに落ち込むのは駿だったとかになりませんようにとお話しを進めます。

スポットライトを浴びて、数段高い艶やかな場所。

注目を浴びるには十分すぎる舞台。

それなのにちらちらと後ろを振り返る招待客の仕草。

波が押し寄せては引くようにその数は確実に増えてる。

あの人たちにはスポットライトもひときわ高い壇上も必要ないんだ。

その存在を浮かび上がらせるのは個人から放たれるオーラーの違い。

そこにいるだけ周りの色が、空気感が変わる。

F4が四人全員そろったら、今人気の俳優も女優も関係ないって思える。

舞台あいさつの終わった僕は一言もしゃべらなくて済んだことにほっとしながら階段を降りた。

壇上の下では鮎川の小悪魔のような微笑みが僕を出迎える。

あれは絶対僕をからかうつもりなんだと身構えた。

「かっこよかった」

そっと僕の腕に触れた指先が軽く袖口をつかんで二人の距離を詰める。

鮎川の瞳の中に映る僕は意表をつかれた表情。

心臓をどきっとさせるには十分すぎるほど鮎川の体温を身近に感じてる。

壇上に上がる前に僕が鮎川に綺麗だと言った仕返し。

「鮎川が僕をほめてくれるなんて、帰りは雨が降らなきゃいいけど」

今じゃこのくらいのことは僕でも返せる。

「おい、そこで立ち止まるな」

僕の前を歩いていたはずの監督がある気を止めて振り返っていた。

後ろに目でもついてるんじゃないのかと思う反応。

「もう、役目は果たしたんだからいいでしょう」

好きにするって強気な態度と遠慮ない鮎川。

娘のほうが断然父親より強いのはどこも一緒らしい。

困ったような表情で眉をひそめるのは監督も僕の父親も一緒だ。

そのとばっちりは周りにいるものにかえってくる。

ということは、監督の不機嫌さは僕に来るってことだ。

何か言いかけた監督はそのまま映画の関係者に捕まって僕らにかまう暇はなくなった。

「ほっとしてるでしょ?」

「親子して僕をこまれせて楽しんでるだろう」

少し拗ねた口調は鮎川のご機嫌な微笑みですぐに崩れてしまう。

「ちょっと君、話聞かせて」

僕と鮎川の間を裂くように取り囲んできたのはマイクを持った記者。

取り囲んでるのは人間だけじゃなくテレビカメラに一眼レフのレンズが光を放ってる。

「すいません。困るんで」

シャッター音とフラッシュの光から逃げるように人ごみをかき分ける。

囲まれた人の圧はそこまで簡単にとりはらわれるようなものじゃなくてもみくちゃにされそうな気配に鮎川とも離れてしまった。

この分じゃ父さんたち合流することもできそうもない。

そのほうが騒ぎにならないって思う。

大体、なんで美作のおじさん父さんたちを呼んでるんだよ。

目立つことはしなって約束はこの会場に来た時点で白紙になってるみたいだ。

父さんと僕が並んだ時点で憶測が現実となり僕の血筋はばれてしまう。

物心ついたときから並んだ僕ら親子へ与えられる称賛。

それはどこにいても親子ってわかるとか。

DNAを調べなくてもはっきりしてるといわれるほどそっくりってこと。

高校生になった僕を見てF3のおじさんだけじゃなく母さんまで父さんと出会った頃を思いだすって目を潤ませる。

髪の毛のくせ毛はカールする方向まで同じって、どれだけ父さんの遺伝子が強いのか。

この髪の毛だけは母さんに似ればよかったと今でも本気で思う。

会場の隅に逃れてようやく逃げておおせた。

全力で走り切ったような疲労感と乱れる息遣い。

壁を前にして身体を支える。

鮎川を探さないと・・・

それでもまだ顔を壁から外してさらす気にはなれず大きく息を吐く。

「お前、来てたの?」

ん?

首を横に向けるとそこには青葉の驚いてる顔が見えた。

青葉・・・

舞台の上の僕にはどうやら気づいてなかったようだった。