十六夜の月は甘く濡れて 21

悪役はあっさりと舞台から降りてしまいましたが・・・(;^ω^)

ハラハラドキドキサスペンスと謎解きのお話しをいつかは書きたいものです。

探偵役が似合うのは誰だろう?

司じゃないのは確か。

名推理を披露するのはあきらくんでしょうか?

『名探偵は裏社会のボス』

この場合ヒロインは葵ちゃんになるんだろうな。

「あのさ・・・なんだか・・・空気が重くない?」

「誰のせいだと思ってる」

目を細めてつきだした顎をなぞる指先。

その指先さえもがっつりと不機嫌を表現してる。

「こんな狭い場所にこいつらもいるんだぞ!」

数人掛けのL字型のソファー

余裕で10人は座れる。

二人分の広さにゆったりと間を置いて座るのは花沢類に美作さんに西門さんそして私と道明寺の計5人。

キッチンにカウンターバーまで装備された空間。

ここが海の上に浮かぶクルーザーの中だって忘れそうな豪華さ。

「私としては十分広いって思うけど・・・」

「貧乏人の家と比べんなよな」

「貧乏人って!お金を持ってたらいいってわけじゃないでしょう。

こんなクルーザーなんてなくても一般の生活には支障ないんだから」

道明寺と一緒に過ごす日常のほうが支障をきたす危険が隠れてるって私は思う。

「大体お前らはもう一つのクルーザーで帰ればいいだろう!」

私の言葉は全く聞こえてないのか無視する気なのか道明寺の不満は私じゃなくF3に向いてる。

「もう一つのクルーザーって、SP10人は乗っけてたよな?」

「重量オーバーだろ?」

「男の中に一緒にいるよりこっちのほうがいいだろう。

牧野でも一応女は女だし」

「おい、一応ってなんだ」

美作さんと西門さんに女扱いされてないことは分かってる。

それでもこの二人は口ではそんなこと言いながらやさしく私に接してくれるから憎めない。

女性にやさしいっていうか・・・。

うまいって言うか・・・。

女性の扱いには慣れてるっていうか・・・。

クルーザーに乗ってすぐにソファーに座ったすぐの私にジュースを待ってきてくれたのは西門さん。

喉を潤してほっとしたところで今回の事件のあらましをわかりやすく説明してくれたのは美作さん。

花沢類は何を考えてるのかクルーザーの窓から外を眺めながらあくびをしてる。

私の横にはムッと唇を閉じたままの道明寺が私の肩を抱くように右腕を回して何一つ言葉を発しないでいた。

居心地の悪さは道明寺の不機嫌さ。

島で抱きあって喜んだことなんてすっかり忘れてる。

二階から飛び降りて道明寺に抱き付くなんて今迄にない大胆さ。

すぐにでもそばに行きたくて・・・

道明寺を感じたくて・・・

それ以外考えることができなくて衝動のままに行動してた。

再会から数分後だんだんと言葉数が減って無口になった道明寺は出会った頃の棘だらけの道明寺に戻ってしまってる。

西門さんの『一応女』発言にしっかりと怒りを示した道明寺に私は喜ぶべきなんだろうか?

「牧野はれっきとした女だろうが。

俺にとっては特別でこいつ以上にいい女なんて存在しねぇんだよ」

あのさ・・・

そこまで言われちゃうとうれしいより恥ずかしいよ。

「司、牧野がお前にとって特別なのは知ってる」

「牧野がお前にとってなくてはならに存在なのもな」

美作さんと西門さんは道明寺をあやすような余裕の表情。

「俺たちにとっても牧野は特別だから」

海を眺めてたと思ってた花沢類が窓から視線を私たちに移しながらそう言ってほほ笑んだ。

「類、お前が牧野を特別って言うとシャレにならねぇぞ」

「司ここで喧嘩すんなよ。

牧野も無事に助け出せたことだし、司が暴れてクルーザーを沈没させたらそれこそシャレになんねぇぞ」

道明寺の横には美作さんが、そして道明寺の後ろには西門さんが陣をとる完全防備の構え。

グッと西門さんと美作さんに肩を抑えられた道明寺はソファーに座った態勢を変えることができずにチッと舌を鳴らした。

「俺が類を殴ったぐらいでクルーザーが沈没するわけねぇだろう」

「牧野が絡むと何をしでかすかわからないからな。司は・・・」

道明寺に耳打ちするように身体を屈めた西門さん。

横を向いた私の目の前に綺麗な顔立ちの西門さんと息の触れ合う至近距離に目のやり場に困る。

私にそうだよなと同意を求めるように綺麗な顔立ちが柔らかく微笑んだ。

色気漂うその雰囲気を道明寺の負のオーラーもピンクに包みこんでくる艶やかさ。

お茶を点てる茶筅を動かす規則的なそのリズムで一瞬で人の目を集めてしまうその本領をここで発揮させるのはもったいない気がした。

「あと2時間程度すれば牧野を独り占めできるんだから我慢しろよ」

一人占めって・・・

美作さんの含みを持った声に体中の血液が逆流しそう。

我慢できるとかそんな返事は道明寺から返してほしくない。

もう美作さんのこのパターンは遊びモードにいっちゃってるもの。

「俺に我慢を強いることができるのは牧野だけだ」

私・・・

道明寺に我慢させたことって・・・なにかある?

「牧野の頼みなら司は我慢するんだ」

花沢類の言葉は3人の中で一番ツボをつくように道明寺がピクリと反応を示す。

「今回は俺も反省してんだよ。

嫉妬しすぎて牧野につらく当たったからな」

今回の事件前夜の出来事。

私が悪くて・・・

花沢類がいつもの花沢類じゃなくて心が揺れた。

道明寺は過敏に反応するのはわかっていたはずなのに・・・

反省するのは私のほうで、謝らなきゃいけないのは私で・・・

ちょっぴり照れ臭そうに表情を変える道明寺がやっぱり好きだって胸がキュンと鳴った。

「我慢・・・」

「反省・・・」

「一番司には似合わねぇな」

美作さんと西門さんがクスッと笑みをこぼす。

その表情はからかってるというより嬉しそうでF4の親密なつながりを醸し出す柔らかな空気。

それは私が入り込めない独特の空気感。

この四人の空気感はやっぱり、好きだな。

「おい、好きだなって、俺のことだよな?」

え?

私・・・言っていた?

言葉にはせずに頭の中で思っていただけなんだけど。

「そうじゃなくて、4人が好きだなって思っただけで・・・」

慌てて道明寺の好きの意味違いを否定。

「4人?」

いぶかしむ表情はそのまま不機嫌な表情を作りこんでくる。

違うから!

「好きってそんな意味じゃなくて!」

雰囲気がいいなって意味だし、道明寺を好きの意味とはまた違った意味だもの。

「好きに好き以外のどんな意味があるんだ!」

道明寺の勢いに圧倒されるようにソファーの上に押し倒された。

私の身体の上には四つん這いになった道明寺が乗っかって、不機嫌な表情は変わることなく私を見下ろしてる。

「道明寺っ慌てないで!ここ落ちつこう」

美作さんも西門さんも、花沢類も黙ってないで助けてよ!

「司の我慢を限界まで引き上げたの牧野だしな」

「巻き込まれて怪我するのも割に合わない」

「ここは海の上だから逃げ場もないし・・・」

ちょっ!

道明寺から放たれる無言のオーラーは3人を甲板に押しやってしまってた。

道明寺!

あと少し我慢して!