門前の虎 後門の狼 1
もう少しで夏休みも終わりということで新連載開始です。
『門前の虎 後門の狼』
いや~どうして今までこのことわざに気が付かなかったのでしょう。
一つの災難を逃れてほっとする間もなく、またすぐに他の災難に見舞われることのたとえ。
まさに我が家のつかつくにピッタリじゃないですか。
災難を抱え込んでるのはつくしだけのような気もしますが・・・
それにいつも巻き込まれるF3も災難とは言えなくないのか。
「このバック新作じゃない」
「夏休みは海外で思いっきり散財しちゃった」
夏休みも終わりようやく日常の生活に戻る。
大学の構内はいまだに夏休み気分の抜け切れてない学生の会話。
散財というにはぬるすぎるつーの。
親の財産を食いつぶしてるだけでしょう。
私の場合バカンスどころじゃなくてバイトと上流階級のマナーと心構えのレッスン。
室内にこもることの多かった私の肌は日にやかれることもなく白いままだ。
授業の合間の休み時間。
学生は出入り自由の洒落た洋風のつくりの明るく日の光を取りこむテラス席。
一人でゆっくりと本を読むのにはちょうどいい空間。
窓側に置かれた二人掛けの革張りのソファー。
幼稚舎から大学まで莫大な寄付金が集まる英徳じゃ大したことじゃないんだろうけど、
ここまで贅沢なつくりが学校に必要なのかといつも思う。
こんな英徳で一杯1000円のコーヒーに高いと目を飛び出させるのはたぶん私だけ。
今日もマイボトルに入れたお茶をお供にテラス席に座る。
構内に響く蝉の声だけは全国共通。
我が家の家の合唱と何ら変わりがない。
だからほっとするのかも。
次の講義の予習にと広げたはずの教科書の文字が全然頭にはいってこない。
集中力が散漫な時は何をしてもだめだってわかってるのに何かしてないと落ち着かない。
働いて身体を動かしていたほうが楽なのにバイト禁止令が出てから今日で3日目。
「バイトをしているのを見つけたら、お前を雇ったところはすべてぶっぶす」
本気モードの道明寺に言われたら太刀打ちできない。
バイトで無理ってデートの誘いを断った時点から道明寺の機嫌が変わった。
「俺よりバイトが大事か」
それ、普通私が言うことでしょう。
自分は忙しく飛び回って空いた時間に連絡してくる。
「少しの時間でもお前に会いたい」
日本滞在時間30分だけなのにそう言われてキュンとしちゃうんだから私も甘い。
いつも時間を合せてるの私なんだから!
愚痴ってみても道明寺から連絡があると落ち着かなくて、会いたくなって、「牧野」ってやさしく呼ぶ声にうれしく反応してしまう。
バイトの件も文句を言いながらも道明寺の言いなりだもの。
西田さんに協力してもらったらバイトもできるんじゃないかしら?
協力・・・ムリだろうな。
バイトをする時間をもっと有効に使っていただきたいと常々言われちゃってるもの。
かすかな気配にざわつきが止まる。
蝉の声まで小さくなった気がした。
一瞬にして全体の空気の色が変わる。
いつも、一歩足を踏み入れただけでその存在は空間を支配する。
そんな人間はただ一人。
コツコツと近づいてくる足音。
背中に感じる気配はもうそこまで。
すぐに振り返って待っていたなんて思われたくない。
「おい」
聞こえた声は俺様モード全開。
「遅刻だけど」
振り返らずにいた私に伸びてきた指先は顎をいきなり引き上げて上を向かせた。
「10分だけだろう」
「私が1分でも遅れたら怒るのは誰よ」
「俺の1分がいくらすると思ってる」
ふてぶてしくつぶやいた口元が軽く笑みを作る。
「会いたかった」
そらされた首の痛みも忘れるくらいに道明寺を見つめてる。
顔の向きが上下さかさまにないってる分だけいつもよりドキドキ感が抑えられてる。
それでも甘く告げる道明寺の口元の動きに私の不満は抑え込まれた。
そして道明寺は私の隣の席に腰を下ろす。
ちらちらと周りから送られてくる熱い視線には相変わらずの無関心。
「何飲んでる?」
私のマイボトルの口を開けた片目をつぶって覗き込んで鼻をクンクンさせる道明寺。
一口飲んで「お茶か・・・」って、つぶやいた。
別に大したことない仕草なんだけど道明寺が見せると特別だね。
「水よりはおいしいでしょ?」
「どの水と比べてる」
今!バカにしたよねッ!
水道水なんて飲んだことない相手にバカなことを言ってしまった。
私の膨れかけた頬に相反して楽しそうな笑みを道明寺が漏らす。
その顔に騙されちゃだめだ。
そう思っても肩に感じる道明寺の熱。
一緒にいることが幸せで、うれしくて、どうしようもない。
会ってないの3日だけなんだけどな。
着信を告げるバイブにビクンとなった身体が私を現実に引き戻した。
「もしもし」
着信の主は優紀から。
高校時代から続けるバイトは今も一緒で会う機会も多い。
バイト禁止令が道明寺から出ていなければ今日も会えたはずだ。
「つくし、今大丈夫?」
「大丈夫だけど・・・」
チラリと横の道明寺を気にしながらつぶやく。
誰からだって気にしてる視線はしっかり私を捉えてる。
それでも今のとこ不機嫌じゃない。
優紀からって小さく伝えた私に納得した表情を確かめたあとで会話続けた。
「何かあった?」
「急なんだけどちょっと会えないかな?」
珍しく切羽詰った優紀の声に今までに感じたことのない不安を感じながら携帯を握りなおして耳を澄ませた。
拍手コメント返礼
りり 様
今度のトラブルはなに?
最初から司とつくしが一緒だと・・・(;^ω^)
怖い気もするんですよね。
ゆみん 様
4話までの一気読みありがとうございます。
面白くなるのはここからですよ♪