エロースは蜜月に溺れる 2

危険はたぶん回避できたはず。

たぶん・・・

さぁ、ここから話はどうなるのか!

それはいつものごとく司君次第なんですよね。(;^ω^)

砂丘の砂は風の流れに沿って緩やかなラインを描く。

その上に残されるひずめの跡は直ぐに細かい砂に埋もれて消えていく。

馬上でゆられる背中を守るように背中から回された腕は手綱を右へと引いて馬の歩く方向を右側に取った。

茶色く滑り落ちる砂丘の砂に消えていくひずめの痕をぼんやりと見つめながら今は見えなくなった競りの天幕。

もうあそこに行くことはしばらくはない。

天幕から距離が遠ざかるたびにホッとした感情がつくしの胸に湧き上がる。

それは自分の背中に感じるもう一つの鼓動が温かく規則的な音を伝えてくるからかもしれないとつくしは思った。

その安心感の為か少しづつ背中を胸元に預ける重量は確実に重くなってる気がする。

「もうすぐ着くから」

馬上の人となって初めて聞いた声。

会話がなくてもなぜかそのことで不安な気持ちになることはなかった。

開けた視界の中に緑地とオアシスが広がる。

その先には離宮とも思える大きな屋敷。

それはつくしが記憶していた屋敷をも貧弱に思える。

「ゆっくりと体を休めて」

先に馬から降りた長身の影はそのまま馬上に伸びてつくしの身体を地上に下ろした。

出迎えの召使に支持を与えながらその影は建物の影と同化する。

別な建物の中にあんないされたつくしは連れてこられて初めて不安を感じた。

直ぐに案内されて拒否する間もなく身体からはぎ取られた衣服。

湯気にくもる浴室の中央には湯船からあふれ落ちる温水。

貴重なはずの水がここでは惜しげもななく地上にしみこまれていく。

ライオンの頭を縁取った彫刻の口元から落ちるお湯。

その模写が使用できるのはこの国の王家の者しかありえないことはこの国で暮らすものなら誰でも知ってる。

自分はとんでもないところに来たのではないのだろうか。

つくしは湯船の中で立ち尽くしてしまった。

そんなつくしには無頓着のまま左右から伸びてきた腕はつくしを洗いあげていく。

それは今までのこびりついた垢をすべてはぎ取るように丁寧に、強引につくしを磨き上げた。

香油のしみこむ白い肌。

ようやく本来の柔肌を取り戻して、その肌を覆う極上の絹。

そして、つくしが案内された部屋は今までに見たこともないような調度品が置かれていた。

「遅くなってごめんなさい」

待っていたというように強く抱きしめられたつくしは目の前を塞がれて息もできないくらいに胸元に押し付けられる。

その声は確かにあの競り市で聞いた声。

その時よりも柔らかく高い声で・・・

胸元もなんとなくふにゅっとした柔らかさを感じる。

「本当はもっと早く見つけたかったんだけど、情報が少なくて。

あなたの父親がぬれぎぬだってことは分かってるから」

つくしから身体を離して覗き込その顔はやさしく慈愛に満ちる。

そしてすまなそうに目を潤ませる瞳はもう一度つくしの姿を確かめて抱きしめた。

私を買ってくれたのは女性?

だったら、あの時懐かしいと思った記憶はなんだったのだろう。

自分の勘違いよりも自分が買われた相手が女性だったこともつくしを慌てさせた。

競り市に女性が来ることはまずない。

だから男性に見えるように変装していたという言い訳もわかる。

女性にしては高い身長が女性の印象を薄めていた気もする。

それに自分を見つめていた熱い瞳の輝きはなぜかあの時の男の子を思いだすには十分すぎた。

どうしてそう思ったのか・・・

今、目の前にいる女性は知的に満ちて華やかで上品でとてつもなく美人でどう見間違っても男性に思えるはずがない。

「つくしちゃん、私のこと覚えてない?」

こんな美人女性一度見たら忘れるはずがない。

そう思いながら必死につくしは目を凝らした。

「まだ小さかったものね」

機嫌を害することもなくその女性は自分を道明寺 椿だと名乗る。

「椿様?」

「他人行儀に呼ばなくていいから昔のようにおねぇ様って呼んでね」

屈託ない笑みにつられるようにつくしも思わず笑みを浮かべる。

記憶はまだぼやけてるがなんとなくそのほほ笑んだ顔には記憶があった。

幸せで何の不自由もなかった小さいころの記憶。

たぶんその中で過ごしていたはずであろう遠い記憶。

「バン」

緩やかに懐かしい感情を打ち消すよに突然響いた足音。

それはずかずかと無遠慮に部屋の空気をかき乱した。

「司、どこに行ってたの!」

椿の声はそのまま司の姿を見て絶句した表情に変わった。

つくしと椿の視線を一身に浴びた司は硬い表情のままだ。

その頬にわずかに残る擦り傷。

手の甲には肌の上に赤く変色した色を残す。

衣服に飛び散った汚れは茶色くかわり生臭い匂いを部屋に立ち込めていた。

「血じゃない!」

椿のその声は司の身体を確かめるように全体を眺め衣類についた血の跡を非難するように響く。

「まさか、あなたがいなくなったのって・・・」

「別に問題ないよな」

「命までは取らなかったから、感謝して欲しいくらいだ」

問い詰めるような激しいまなざしの椿に反抗をみせる司の感情に火が付く。

興奮からさめやらないままに鋭い視線はつくしを見つけてかすかに和らいだ光をのぞかせた。

「もう、なにも心配するな」

つくしに伸ばすように差し出された腕。

その先にこびりついたままの血の痕はリアルにつくしを震えさせる。

口の中の渇きが一気に襲ってつくしの唇の動きを抑え込む。

「何をしたの・・・?」

そう発するしたのが精いっぱいだった。

拍手コメント返礼

kenomama 様

コメントありがとうございます。

1年ほど前から来ていただいてるんですね。

新しい話も楽しみだと言っていただけてうれしいです。

パスワードは先ほど送らせてもらいました。とどいたでしょうか?