エロースは蜜月に溺れる 6

このお話は10話程度の予定だったのですが書き始めるといろいろと書きたいことが頭の中で飛び跳ねちゃってます。

あれもこれも面白そうとお話が膨らんできてます。

予定ではそろそろ司君がつくしを自分のものにするために必死に口説くところに突入する予定だったんですけどね。

あと10日で終われるかしら?(;^ω^)

肌触りのいい真っ白なシーツ。

寝心地のいいベッド。

その温もりに包まれながらつくしは身体を上向きから横向きに反転させた。

そして口元からは小さくため息が漏れる。

すでに目覚めた身体をつくしは持て余していた。

どうしても夜が白み始める前には目覚めてしまう。

まだ夜が明ける前にベッドから抜けだして近くの川に水を汲みに行くのが起きて直ぐのつくしの仕事だった。

抜けだしたベッドはベットとはいってもこの屋敷の馬たちのほうが上等な寝屋を持っているとつくしは思う。

藁を敷き詰めただけのものに粗末な薄い服のままその藁の中にもぐりこませて眠りにいた日々。

寝間着に着替えることもなく汚れたままの仕事着のまま身体を休めた。

疲れすぎ身体はそんな粗末な寝床でもすぐにつくしは睡魔に襲われてぐっすりと眠ることができた。

ここではあまりにも立派過ぎるベッドがつくしの睡眠を邪魔してる気がする。

助け出されて1日目に目覚めた朝。

さすがに疲れていたのかこの日はぐっすりと眠れてすっきりと目覚めた。

目覚めるとベッドから飛び起きたつくしは井戸から水を汲んで床を磨き始めた。

「何を、なさってるんですか?」

そんなつくしを見つけて目を瞠った召使は顔色を変えてつくしから濡れた雑巾を取り上げてしまった。

「何って?掃除だけど。お世話になってるから掃除くらいしなきゃ」

「そんなことは下働きがします」

取り上げられた雑巾はもう返してもらえそうにない。

その雑巾をつくしは未練がましく見てしまってる。

「それじゃ、何かすることある?」

「お嬢様は何もされなくていいんです」

その声の必死さは叱られてるというよりは切実にお願いされてる状況に近い。

目の前にすぐに準備され洗面の水。

手を洗い、井戸で一度洗ったはずの顔を促されるままにつくしは洗った。

仄かに香る花の香り。

人肌に暖められたお湯。

わざわざ顔を洗うためのお湯を薪で火を焚いて温めるのだから労を要する。

それは限られて人間だけができる贅沢なものだということをつくしは知っている。

着替えも手伝ってるつくしのそばでベッドに近づいた別な召使が息を飲んだ。

「昨日は、ベットで眠られなったのですか?」

まさかソファーで・・・?

すでにきれいに整えられたベッドをちらりと見ながら不安そうな表情を召使が見せる。

「自分で綺麗にしたんだけどいけなかった?」

「いけなくはありませんが、私たちの仕事がなくなります」

着替えを手伝ってる召使と視線を合わせながら言いにくそうに召使が答えた。

それ以来あまり早く起きるのも悪いような気がして、つくしは召使が自分を起こしに来るのを待ってベッドから起きるようにしてる。

ここ数日は椿と一緒に部屋で過ごすことが多い。

衣裳部屋に入り切れないほどのドレスと靴に宝石。

「いくらっても足りないくらいよ」

そうほほ笑む椿はつくしにドレスを選ぶのが楽しくて仕方ないといった雰囲気だ。

司といえば今日まで衣裳を選んでる部屋にプイと一度現れただけでそれからつくしは顔を会わせてない。

なんとなく寂しい気がするのは、もっと自分が忘れていたものを思いだしたいからだとつくしは思っている。

忘れてる記憶はきっと幸せなものだと思えるから思いだせるものならすべてを思いだしたかった。

司だけじゃなく花沢類も西門総二郎も美作あきらのことも思いだせないのは不思議でしょうがな。

あんな目立つ華やかなオーラは一度会えば忘れられない気がした。

最近会ってないからあんな夢を見たのかな?

召使がつくしを起こしに来る時間まではもう少し間がある気がするベッドの中でつくしはもう一度息を漏らした。

真っ暗に暗闇の中で小さく揺れ動く燭台の光が近づくのが見えた。

召使が自分を見に来たのかもしれない。

そんなぼんやりとした考えが浮かんだつくしは疑うこともなく、目を開けたら召使が気を使うだろうとただ目を閉じていた。

燭台をテーブルの上にコトリと置く音が聞こえる。

その音もつくしの眠りを妨げぬように最善の気遣いを見せる。

「眠ってるのか?」

その声は女性にしては低く男のもので、つくしには聞き覚えがあった。

その声の主はベッドの端に腰を掛けたのがわずかないベッドが軋む振動がつくしの身体に伝わった。

見られてる感覚につくしの身体は動かなくなって目を開けることも唇を開くこともできそうにない。

ゆっくりとした動作を感じたその時に何かが唇に触れた。

指?

その指先が唇の形をなぞるように触れる。

その時間は短くもあり長いように思えた。

逃れるようにかすかな寝息を吐く。

「ゆっくり、眠れ」

甘くしびれるような呪文のように響く声。

夢のような感覚のままいつしか眠ってしまったつくしは目覚めてあともしばらくはこのことを忘れていた。

国政に携わる司は多忙を極める。

その合間につくしを探し出すことは容易ではなく陰で動いてくれたのが花沢類であり西門総二郎あり美作あきらだった。

「これで、ゆっくり仕事に専念できますね」

翌日早朝から司を迎えに来たのは補佐役である西田。

椿に預けてあるつくしに会いに離宮にくる時間も見つけられずにいた司には不満がたまっていた。

ようやく見つけた時間が昨日の真夜中。

会えるはずがないと思っても自然と足が向いていた。

人目だけでもいい、会いたい。

真夜中に訪れた王子を追い帰るものなどいない。

すんなりとつくしの部屋までたどり着いた司は静かに起こさないように注意を払って音を立てないように部屋の中に入ったのだった。

いつでも会えるはずなのに見つけられなかった時より会えるのが難しいなんてシャレにもならにない。

つくしの顔を見たらすぐに帰るはずだったのに愛しさが司の足を止めた。

つくしの両親を探しだして名誉を回復して本当の悪をあぶりだしてそれが終わるまではこいつとの結婚を現実にはできない。

それを優先して司はいま宮殿を離れることができずにいた。

早くつくしを自分の住む宮殿に向かえいれたい願望を必死で抑えてる。

今のままつくしを宮殿に連れていくことは危険だとわかってるから椿にすべてを任せきってる。

自分の好きなように変えろと言ったつくしの部屋。

司が準備したままの部屋に司の顔がほころんだ。

気に入ってくれたんだな。

燭台の光がなくてもベッドまでの位置が司にはわかる。

それほど必死で考えて自ら準備した部屋だ。

最後にあった時よりも元気を取り戻したような桃色の頬。

長いまつげが寝息に合わせてかすかに揺れる。

果実のような赤く柔らかい唇を見た時に触れたい衝動にかられてしまってた。

その唇を覆い尽くしたい衝動に司はじっと耐えた。

つくしが気が付かないままにこいつに触れたら俺はつくしを辱めた男たちとなんら変わらない。

俺を信頼して、つくしが俺を求めるまで待つ。

そう決めたはずの信念が揺らぐ。

唇に触れた指先から改悛の情が司の胸に流れ込む。

俺を我慢させる奴はお前だけだぞ

「最低だな」

つくしの部屋をでて閉めた扉を背中に独り言のようにつぶやいて司は離宮を離れたのだった。

「やっぱり夢よ」

夢!

絶対夢!

会ってないから気になるだけ。

自分が守るって言った割には全然顔も見せないんだから。

いろいろやることがあって忙しいってお姉さんも言ってたし・・・。

司が自分をほっとく訳を必死で考えること自体つくしが司を気にしてる感情なのだが今はまだそのことにつくしは気が付いてない。

「つくし様、起きてらっしゃいますか?」

召使の声に待っていたとばかりにつくしが飛び起きた。

拍手コメント返礼

涼香様

コメントありがとうございます。

花団と書いてメールが届くこと多いですよ。

変換してまず花男で表示されることないですからね。

そこはご心配なく。

これからもどうぞお付き合いよろしくお願いします。