エロースは蜜月に溺れる 18

たくさんのお祝いコメありがとうございます。

公開☆マークは楽しんでいただけたでしょうか?

まさか、まさかの坊ちゃんの失敗談をここで公表することになるとは!

なんという記念作品でしょう(笑)

これからも笑いを求めて精進していこうと思います。

『笑いを求めるな!』 by 司。

道明寺王国の支配者の住む宮殿の玄関ホールは目も眩みそうなほど天井も高く磨き抜かれた大理石の床に履きなれない靴で足をすべられそうになる。

「大丈夫か?」

一度滑りかけた身体は今はしっかりと司の腕の中に囚われてしまってる。

服の下からも感じ取れる熱。

今朝までその熱を感じながら隣に寝ていた相手が今もつくしのそばから離れようとはしない。

忘れようとしても鮮明に思いだしてしまう体験に自然とつくしの身体も熱くなる。

自分の身体とは違った筋肉質の裸体。

初めて見たそれは彫刻のような美しさでつくしをドキリとさせた。

受けた印象は刺激的で、司の顔も今日はまともにつくしは見ていない。

お揃いの制服を着た召使たちが深々と頭を下げその中心を司に腰を抱かれたままのつくしが進む。

白い大理石の廊下を抜けるとその先に広がる大広間。

ひしめき合う貴族たちの視線は一斉に司とその司の横に立つ可憐な姿のつくしにと集まる。

囁かれる声は気品のある司よりもどこのご令嬢だと詮索する声のほうが大きい。

司に耳打ちする召使にようやく司がつくしのもとを離れた。

宮殿に連れてこられてすぐの舞踏会。

訳もわからないままにここに立つ自分は場違いのようにつくしには思える。

まだ幼かったつくしがこんな華々しい舞踏会を経験したことがない。

何事もなく牧野家が没落しなければ去年あたりからつくしは司の婚約者としてこの場に立ていたはずだ。

一人になったつくしにダンスの誘いを声をかける若い貴族。

そんな男性を相手にすることに慣れていないつくしは必死で司を探すが取り囲まれた人影につくしの姿は隠れてその視線までも遮る。

何とかやり過ごしてその場から離れて大広間をようやく抜け出すことができたのは司と離れて随分と時間がたった後だった。

「離れるな」

そう自分に言いつけた相手は今どこにいるのか。

ほっとかれた不満と心細さにつくしの表情が曇る。

休憩のために訪れた部屋にはつくしよりも先に先着した数人の煌びやかな女性たちがいた。

貴族の令嬢のらしい派手なドレス。

羽毛で縁取られ、宝石のちりばめらた扇子で口元を隠しながらひそひそと話してるのが見える。

あからさまに感じる敵意のこもった視線。

どうやら昨日から後宮に住まわされらたつくしの噂は広まってるらしい。

くじけそうになる気持ちを必死に立て直したつくしは毅然とした態度で恭しく目の前に差し出されたグラスを給仕から受け取った。

甘酸っぱいさわやかなのど越しのジュースにホッとつくしも一息をつくことができた。

「どうすれば王子様に気にいられるのかしら?」

「きっと私たちにはわからない媚び方があるのよ」

おおげさに芝居がかった口調で眉を寄せるとそれに答えるように隣の令嬢が答える。

「慣れない場所に来て大変よね」

「王子様にもほっとかれて、パートナーに無視されるほど恥ずかしいことはありませんわよね」

「王子様もどうしてこんな子を選んだのかしら」

つくしを卑下する言葉は途切れることなく続く。

自分のことを何と言われようとかまわない。

司のことまで噂が及んだとき許せない感情が胸の奥を締め付ける。

しかし迂闊に反論できない、言いかえしたらそこから自分が牧野家の娘であることがばれる可能性もある。

それは道明寺を傷つけることにもなりかねないとつくしのためらわせる。

つくしは残りのジュースをぐっと一気に飲みこんで怒りをそのまま身体の奥に流し込んだ。

卑下する視線も浴びせかけ屈辱も無視して部屋を出ていった。

つくしから離れた司は憮然とした態度で中央に備え付けられた肘付きの赤いベルベッドの椅子に腰をかけていた。

「牧野は俺が探してくるから」

そう言って類が司の前を離れる。

自分で探しに行きたいのに次々と司の邪魔をするように大貴族や大臣たちがあいさつに訪れて勝手に動くこともできずにいた。

ようやく一通りの相手をして暇を持て余した司のまえに総二郎とあきらと類が現れたのだ。

「で・・・どうだった?」

類が離れるのを目で追いながら総二郎が司に声をかける。

「どうだったって、なにが?」

「なにがって、決まってるだろう。

何のために牧野を宮殿に連れてきたんだ」

「別にどうってことねぇよ」

「抱いたのか?」

ずけずけと本題に触れる遠慮ない悪友に司は眉を眉間に寄せる。

明かに不機嫌な司の表情に総二郎とあきらがダメだったんだと悟った。

「最初は牧野が先に眠ってしまったんだよな・・・」

「まさか昨日も先に寝入ったとか?

さすがに同じ失敗はしないよな?

睡眠薬も盛られてねぇだろうし・・・」

同情的な4つの目がじっと司を見つめる。

「先に眠られてもいねぇし、別に拒まれたわけじゃねぇから」

「じゃーどうだったんだ!

まさか手を出さなかったって言わねぇよな?」

司の母親につくしじゃなきゃ男性の機能果たせないと宣言して見せた司だ。

女性に関しては奥手の司を本気で心配する気持ちもある。

「司・・・やさしく、丁寧に時間をかけてだぞ」

「時間をかけすぎたからあぁなったんだよ」

司の無愛想さはどんどん一方的にひどくなって一気に不満を吐きだすように叫んだ。

「まさか・・入れる前に、いった・・の・・・か?」

初めてだとよくあることを総二郎とあきらは想像する。

司のふてくされた表情と態度にそれを確信した。

「次はがんばれ・・・」

「るせっ。お前らに言われなくてもできるんだよ」

「だとは思う・・・。

次は牧野に助けてもらえ」

牧野にそれを期待できるか?とも思う二人。

顔を見合わせてぷっと吹き出しそうになる声を必死に総二郎とあきらは耐えた。

大広間から離れた一室で扉が開くのを類が気が付く。

そこから現れたつくしにあとから追ってきた女性がわざとらしくぶつかってつくしの肩を揺すのが見えた。

「あら、ごめんなさい、人がいると思わなかったもので」

扇子で隠した口元がさげすむように笑っているの見えなくてもはわかる。

面と向かってつくしを苛めきれないのは司を気にしてのことだろう。

顔を隠しながらの行為は顔を知られるのを恐れてるようにも思えてつくしを奮い立たせた。

手のひらで扇子を払う仕草を見せたつくしに「何をするの」と驚愕の表情を相手が見せる。

まさか扇子を払うような不作法な態度をとる令嬢はいないと思っていた表情だ。

つくしはじっと大きな瞳で相手に怯むことなく見つめる。

「その若さでも見えなく、足元もおぼつかないなんて大変すね。

付添人が必要なんじゃないんですか?」

ドレスの裾を持って優雅に腰を屈めつくしは丁寧に礼をして踵を返した。

背後か悔しそうな声が聞こえるのを無視して一歩踏みだした脚が止まる。

「せっかく助けようと思ったのに」

壁に軽く腕をついて身体を持たれかけた姿でやさしくつくしを見つめて微笑みを浮かべる花沢類につくしは「あっ」と声を上げそうになった。

「あまり、この子をいじめないでくれるかな。

あとで後悔するのはあんたらのほうだってわかってる?」

悔しがってる女性の追いかけてやってきた女性たちに鋭く冷ややかな類の声が低く響く。

後ずさりを見せる女性たちの顔が強張るのがつくしにもわかった。

「行こう。司が待ってる」

女性に見せた冷たさとは全く違った甘い表情がつくしを覗き込む。

周りを蕩けさせるには十分すぎる艶。

コクンとうなずくことでいっぱいいっぱいになってしまったつくしは耳たぶまで真っ赤になってしまっていた。