門前の虎 後門の狼 14

つくしの昔を知る男登場。

これは何度目?

とはいっても中学校ですからね。

そこまで嫉妬しちゃうと器の小さい男だと思われるよ司君。

たまには司の過去を知る女を登場させようかしら?

司を好きな女性が登場したのは『届かぬ思うは誰のもの?』以来いない気がします。(;^ω^)

書いてたかな・・・?

「何見てんだよ?」

「あっ、すいません」

俺と牧野を交互に見る瞳の中に見える動揺。

両手に持っていたDVDをガラガラと落として、その男はしゃがみこむ。

「大丈夫?」

その男の前に駆けつけた牧野もしゃがんでDVDを拾ってその男に渡した。

俺が怒鳴って牧野が謝るパターン。

俺たちをじろじろと見てるあいつが悪いんだ。

そんな俺の常識は牧野には通じない。

「ごめんね。悪気はないから」

お前の態度が俺に悪気あるだろうがぁ。

ん?なんかいつもの低姿勢の牧野とは違う。

「大丈夫」は普通は「大丈夫ですか?」

「ごめんね。悪気はないから」は「すいません。この人言葉使い悪いんです」

こんなところ。

いやに気さくな言葉使い。

こんなところで知り合いか?

「牧野ありがとう」

聞こえてきた男の返答でそれは確かなものになった。

「おい、誰だよ?」

「ん?あっ、中学の時の同級生の田畑君」

明るい声で牧野に紹介された。

名前は胸につけている名札を見ればわかる。

「中学校を卒業して以来だから何年ぶり?」

そいつを見上げる牧野の顔に浮かぶ人懐こい素直な笑顔が浮かぶ。

「5年くらいかな?」

何年も会ってないやつが一目でお前を思いだすってことは牧野が嫌いなはずがない。

「牧野は全然変わってないよな?」

「少しは大人になったとか言えないかな」

俺のこと無視してんじゃねぇよ。

「おい!」

「なに?」

不愉快そうな感情を隠そうともしない牧野が俺の手に視線を落としてムッとした表情を作る。

「それ、早くどうにかしてよ」

高校の頃俺のとこで働いていた時に来ていたメイド服のラベルが懐かしくて手に取ったやつ。

今ならあのころの牧野を俺の膝の上に導いて、何でもできる気がする。

させてくれねぇかな。

邪な願望。

そのために一緒に住みたいわけじゃねぇからな。

「見る必要はねぇよな。お前がいるわけだし」

「これ、いらねぇ」

手にもったDVを田畑とかいうやつに押しつける。

「帰るぞ」

牧野の目の前を通りすぎる瞬間に腕をとって強引に引っ張って歩く。

「え?まだ何も借りてないよ?」

「見る必要ねぇって言ったよな?」

足を止めることなくそのまま店を二人で出ていく。

「時間の無駄だったな」

「あのさ・・・怒ってる?怒ってるのは私なんだけど」

横柄牧野の声。

手の長さの分だけ離れたままの俺たち。

腕にかかる牧野の身体の重みの分だけがあいつの不機嫌さを現してる。

「ちょっと、そんなに早く歩かないでよ。

それでなくても足の長さ違うんだから」

拗ねたような声色に変わって俺のなすがままについてきてるのに文句だけは人一倍。

「お前、俺をほめてんか?」

「少しは私のこと考えて行動してほしいって言ってるの」

「俺はお前のことしか考えてねぇよ」

何か言いかけていた牧野の声が止まった。

「こんなとこで言わないでよ」

照れてる感じが少し下に下がった牧野の腕から感じ取れる。

腕が下に落ちた分だけで俺たちの距離が近くなった。

そのまま動かす指先は牧野の指を捉えて指を絡め合う。

自然と並んだ二つの影。

歩くたびに触れあう肩。

「ちょっと、歩きにくいよ」

マフラーを巻き付かせるように牧野の首に回す腕。

軽く体重を背中に乗せた俺を必死に支えて歩く牧野。

「ほら、しっかり歩け。俺を嫉妬させた罰」

俺の知らない牧野を知ってると思うだけで中学のガキの頃の知り合いに嫉妬してる。

つーか、鈍感なこいつが許せねぇんだよな。

大体俺の嫉妬深さを知ってるだろうがぁ。

それなのに警戒心ゼロで愛想ふりまいていやがるし。

「嫉妬することあった?」

俺の腕から抜けだそうと必死で俺の腕を持ちあげようともがく牧野。

無駄な抵抗を見せる牧野を無性に苛めてみたい。

「お前は俺が惚れるほどの女だってこと自覚しろって言ってるんだよ。

牧野、お前に近づく男はガキでも排除するからな」

「道明寺・・・それ・・・冗談に聞こえない」

「本気だ」

冷ややかに低めに出た声。

「覚悟しとけ」

耳孔にねっとりとしみいるように息を吹き込む。

ビクンと感じたように身体を震わせた牧野の耳たぶが色づいてくる。

帰りついたマンションのエレベータの中に押し込むように牧野の身体を押した。

ガタンと奥の壁に張り付いたままの牧野。

両手で牧野の身体を挟んで密着させる。

俺の心臓の音はそのまま背中を通して牧野まで伝わっているはずだ。

部屋に帰りつくまでの時間がもどかしい。

「あのさ・・・」

牧野の発する声が、身体に感じる熱のすべてが俺を惑わせる。

横に向いた牧野の顔をもっと俺に近づけるように顎を持ちあげて強引に上に持ちあげる。

「しゃべるな」

押し付けた唇がいつもより甘く牧野の唇を味わう。

柔らかい唇をこじ開けて口内に滑り込ませた舌先。

流れ込む吐息が俺を夢中にさせる。

そこから・・・

どうやって・・・・

部屋までたどり着いたのか・・・

自分でもわからなくなってしまっていた。