霧の中に落ちる月の滴 12

空気の読めない滋ちゃん。

遊び心で「だったら、婚約者のふりをしちゃう?」とつぶやく。

あきれ顔の司を気にせず一人その気になって腕を組んでつくしの病室へ!

なんて話になったら切なさは軽減して笑い話に転がりそうな気がします。

 *

「つくし~」

一気に静かな空気感は明るい色に変わる。

「来てくれたんだ」

ベッドの上に座った私に縋りつくように滋が抱き付いてきた。

「そこで司と偶然一緒になったんだけど・・・」

道明寺・・・?

私の病室に入ってきたのは滋だけなんだけど・・・

閉まってるドアの向こうにまだ道明寺がいるのだろうかと首を伸ばす。

「一緒には来たんだけど、来る途中で花沢さんにあったの。

記憶をなくしてるのは聞いた。

まさか私がまだ司と婚約してる状況になってるとは驚きだけどね」

私から離れて立ち上がって滋はおどけたようにそうつぶやく。

「すごい目で睨まれたんだから」

「にらまれたんだ・・・」

下に落とした視線の先に見えたシーツの色の白さがちょっぴり黒く染まりそうな心の落ち込む。

道明寺のことをあきらめてくれたのは滋も一緒なんだよね。

今はそんなそぶりの全く見れない滋は道明寺を好きだったこともすっかり振り切って新しい恋を探してる。

「司と、つくしを見てれば花沢さんもわかるんじゃないのかな?」

ベッドの端に腰を下ろした滋がぽつりとつぶやく。

「司がつくしにべたぼれなの、ただ漏れだしね」

ウインクする滋の口元はクスッ崩れて私が気恥ずかしくなるような笑みを浮かべる。

コンコンと軽いノックの音に私たちは部屋の入り口に視線を移した。

「どうぞ」の声に開くドア。

開いたドアから姿を見せたのは花沢類。

「さすがに一緒に来なかったんだ」

入り口に立ち止まったまま花沢類の低く冷たい声。

拒絶感を全身で表す花沢類のその姿は道明寺の冷ややかさとはまた別な冷たさを感じる。

道明寺の冷たさは北極の海に浮かぶ流氷。

その破壊力は想像を超える。

花沢類のそれは、小さなひびに楔を打ち込めば崩れそうだけど・・・

それは勘違いで触れたら吹雪の中に押し込まれて動けなる。

被害は小さく手も確実に致命傷を負う。

そんな冷ややかさを感じてる。

「司もそれくらいの気遣いはできるようになったんだ」

なんだかすごく棘のある声。

それが全部私のためだってことは分かってる。

道明寺は滋との婚約は解消して卒業の日にプロムでみんなの前でプロポーズしてくれた。

西門さんも美作さんもそして花沢類もいたその場所で。

うれしくてこれ以上に笑えないってくらいの笑顔で花沢類と踊ったこともいまの花沢類の記憶の中には残ってないんだよね。

「花沢類!」

私と道明寺と花沢類の関係はすごくいいもの。

私は道明寺が好きで道明寺も私を愛してくれている。

それを花沢類も西門さんも美作さんも応援してくれていた。

「それじゃ、司と一緒にいるのを見ても牧野は大丈夫なんだ」

説明しなきゃッ

言葉を考えて選びながら花沢類の名前を呼んだ。

スルーと音もたてず開くドア。

そこから艶なオーラー全開でやってきたのは西門さんと美作さん。

「なんだ、類もここにいたのか」

私の部屋に来る前に花沢類の部屋を訪ねたとにこやかにつぶやく西門さん。

「お前らの車にぶつけたトラックの犯人がやっと捕まった」

「でも仕事がハードで疲れがたまってたって言いはッて、なかなか本当のこと言わないらしい」

「近くのカメラでお前たちの乗った車が来るのを待って発進してるからそんな言い分通らねぇんだけどな」

「いまこいつの後ろに誰がつながってるか調査中だから」

美作さんが説明しながら私と花沢類に見せた写真。

無精ひげと耳を隠す長さの金髪の髪。

チャラい感じの若い男。

あれ?

この人・・・

最近よく大学の帰りで見かけていた気がする。

歩行者にチラシ配っていた人・・・

「牧野、知ってるの?」

「大学の近くでチラシを配ってたの」

「それって、牧野を見張ってとかじゃないのか?」

美作さんが考え込む表情を見せて私から写真を奪うように取り上げるとそのまま部屋から駈け出していった。

「あとは、あきらに任せとけばいいわけだな」

「なに?

つくしの事故って単なる事故じゃないの?」

私たちのやり取りに興味を持ったように滋の表情が輝く。

「あんたには関係ない」

相変わらずの冷たい態度を崩さない冷ややかな花沢類。

花沢類の態度の理由を察知してる西門さんが複雑そうな表情を浮かべて私を見た。

拍手コメント返礼

歩くみかん箱 様

つくしが狙われる=司がらみ

そして類は巻き添え!

ってことだったら、つくくしと司の罪悪感倍増しちゃいますね。

よくある方程式を二乗して3で割って違う答えを引きだすつもりでいます。

さて!答えは!

スリーシスターズ 様

類も滋も好きな人をあきらめたところは同じですものね。

うんうんそうなのよ~

ここは一つ滋ちゃんに頑張ってもらいたい。

犯人がわかったところで絡んだ糸が解けるまではあと少し♪

kachi 様

パスワードの申請では丁寧なメールありがとうございました。

ドラマを見てないとおっしゃっていたので今度の総集編はなかなかのタイミングですよね。

私の二次ではほぼドラマ設定なので原作とは微妙に違うんです。

それでも訪問していただけるのは何よりうれしいです。

このお話のもとは来週になるのかしら?

どのくらいのところまで今日放送されるのかな?

つくしが迷いがないというのが一番なんですよ。

流されちゃうと司はますます囚われてしまいそうになりますからね。

少しずつ事件のあらましが出てくると思いますのでドラマの総集編同様に楽しんでいただけたら嬉しいです。