戯れの恋は愛に揺れる 15
つくし逃げる。
司追いかける。
王道のパターン。
まさかここでも!
司皇子も思ってなかったでしょうね。
つくし逃げても無駄よ~と、誰か教えてやって~
「唸った・・・」
「落ち込んだ・・・」
「ため息ついた・・・」
皇子の感情の起伏の激しさには慣れてる三人もめまぐるしく表情を変えて落ち着かない様子を見せる司をさっきからおとなしく眺めてる。
「あっ!」
スクッといきなり立ちあがった司がギラついた怒りの視線を総二郎、あきら、類に向けた。
「てめぇら、何やってたんだ」
「何やっていたって、命じられたのは誰も近づけるなだったよな」
司の罵声に総二郎とあきらは慣れた様子で顔を見合わせる。
「誰も近づけるなってことはあいつを寝所から逃がすなってことと一緒だろうが!」
司の怒りは消えることなくますます威力を増す。
「まさか、逃げられるとは司も思ってなかったよね?」
類の問いかけに司の顔色がわずかに揺らぐ。
「司も思わなかったことを俺たちも思うはずもない」
司の感情の変化にわずかな楔を打ち込むような類の声。
「いずれは東宮妃にもたてる立場の姫だぞ」
「それも皇子に恋い焦がれられてるわけだ」
「普通なら逃げる!なんてありえないよな」
扇子を広げて口元を隠しながらひそひそと会話を始める総二郎とあきら。
まぁ・・・
つくしは婚儀の相手が司だとは知らないんだが・・・
そこは目くばせで語りあい二人の考えは司の耳には届かない。
「すぐにでも探しだせ!」
「どこを?」
つくしがいなくなってすぐに実家の屋敷や山奥の離れ屋はとうに人を走らせてる。
まさか、宮に来ていたつくしと一晩過ごしたが逃げられたとはつくしの父親に説明できるはずがない。
姫はどうされてる?
そんなありふれた質問に姫は変わりなく婚儀を楽しみにしております。
そんなこと障りのない言葉が返されただけだ。
小鈴を見つけ問いただしても今回つくしを屋敷を抜けだしたことを知ってるのは小鈴のつくしの弟の進の君だけだということだった。
今はどこに姿を隠されたのかと目頭を小袖の袖で抑え込む。
つくし付きの小鈴がつくしの居場所を知らないとは思えない。
つくしの屋敷の周りには見張りを置いて類は司のもとに戻ってきた。
報告を聞いても司は信じられない気持ちのほうが強い。
自分の腕の中で震え、愛撫に反応を見せ応えていた。
このままつくしを宮に迎え入れ、東宮妃としての教育を継続させるつもりだった。
「俺は、そんなに嫌な男か?」
妃にすると言った自分の気持ちを裏切ったつくしの逃亡に怒りを覚えないはずがない。
つくしが3人に向ける瞳には悲壮感が漂う。
「出かける」
激しく床を踏み鳴らしながら、この場にとどまるのは苦痛だというように、司はつくしの香りがかすかに残る寝所から出ていった。
「姫様、いったいいつまで隠れているつもりですか?
せめて、屋敷に戻りましょう」
つくしは都の隅に家をかまえる乳母のもとに身を寄せていた。
つくしのもとに膝を詰めるのは小鈴。
類の読み通りつくしのとのつながりを小鈴は持っていたのだ。
「もう、帰るつもりはない。
私はこのまま乳母と一緒に暮らします。
それがきっと一番いい。
お父様には私は流行り病でなくなったとでも東宮様に伝えてもらえばいいのよ」
「姫様!東宮妃ですよ!
都の姫なら誰でもあこがれるものじゃないですか!」
それを嫌がるつくしを小鈴は呆れながら見つめる。
あの腕の温もりを・・・
肌に触れる唇の熱さを・・・
しなやかな指先が身体の奥から押し上げる痺れるような想い。
知ってしまった感覚は今も身体の中に残る。
何も知らなかったころのように顔も知らないあったこともない東宮様に身を預けることなど考えられなくなってしまってる。
なんなこと・・・
司以外とはできるはずがない。
そう思えて心が震えた。
裏庭の竹を網合わせて作られた粗末な扉。
カギなどつけられてないその扉が音もなくゆっくりと開く。
壁に耳をつけて中をうかがう男の影。
格子から目だけをのぞかせ若い女性の二人の姿を見つける。
一人は自分が後をつけてきた小鈴に間違いない。
会話の様子から男は探していた姫だと確信を持つ。
そっと家の中をうかがう男の影が庭から足音を消して抜けだし姿を消した。
拍手コメント返礼
スリーシスターズ 様
ことの真相を類が司に教えて上がればいいんですよね。
それをさせないのはまだお話をお割らせたくないからなんですけどね。
>やっぱりここは現東宮の使いの者? 公平くん登場!?なんてこてはないですよね。
ふふふ誰でしょね。
それによってお話の流れが変わるのは確実ですよ。
>久しぶりにあきら&葵のお話読みました。 「ごめんそれでも愛してる」で、あきらが司に今夜は寝かさないって言ったところ、久々に大爆笑!
ありましたね。
今夜は寝かさない。
セリフだけだとキャーなんですけど。
あきらから司ですからね。
流れを知らずに聞いちゃったら変なことを妄想しちゃいそうですよ。
yumi 様
種明かししちゃったらお話が終わるので引っ張っております。
予定では最終話近くでわかるという設定にしてるんですよ。
だからまだまだF3も言わないのですよ。
どこまで引っ張られるかな・・・(;^ω^)