戯れの恋は愛に揺れる 32
おはようございます。
つくし姫に迫る危機!
結末はいかに!
しっかり司皇子が颯爽と現れて助けてくれるんだろうけど・・・(;^ω^)
たまには一足遅く一番いいところを別な誰かに取られちゃって地団太ふむ司君も見たい気がします。
最近ごそごそと悪い癖が・・・
終わりが見えてくると新しいお話がぼそぼそと頭の中で動きだす。
題名が決まれば追加しちゃうかもしれません。
その前にバレンタインが・・・ある!?
つかつく?
それともジュニアのバレンタイン!
今年はどちらで行こうかな♪
身動きの取れない身体。
揺れる牛車を引く牛の蹄の音で自分がどこかへ向かっているのだけはわかる。
右に一度、左に続けて二度・・・
牛車の動きを記憶しようとする冷静さはつくしにもあるがどこをどう通ってどこに連れていこうとしてるのかは全く見当が付いていない。
碁盤の目の道をどう通っても最終地点は予測できるものでもないのに何かに集中してないとつくしは正常でいられない気がして、ただただ道に刻まれる蹄の音に耳を傾ける。
牛の蹄とはまた違った蹄の音が小さく聞こえてくることにつくしは気が付いた。
馬?
馬がいる・・・
牛車に並行して聞こえる音は確かに馬。
時折馬を操る手綱の音と聞こえる声は年若い男のものだとわかる。
牛車の狭い空間で動く人の気配につくしは身体を強張らせた。
巻きつけた布団をはがすように動いた人の腕。
身体の束縛を解かれた感覚と対比するようにつくしは身体を固くする。
薄暗く閉ざされた闇の中にぼっと浮かぶ直衣姿。
顔は見えないが盗賊類のものではなく地位のあるものだとわかる。
牛車に馬上での連れがいるのだから計画されて誘拐されたのは間違いない。
顔を見なきゃ。
敵が誰かもわからなければ逃げられるはずがない。
もともと好奇心旺盛なつくし姫は本来持って生まれた性格が死の恐怖を薄めて後退させてしまった感がある。
「手荒なことをして申し訳ありません。
怖がったですか?」
おっとりとした言葉づかいで聞こえた男性の声。
誘拐しておいてこの言いぐさはなんだと思うとつくしはだんだんと腹が立ってきた。
「怖いに決まってるじゃないですか!」
顔を直に合わせるのははしたないことだと知りつつもつくしは伏せていた身体をしっかりと起こして相手を睨みつけた。
にこにこと悪びれない笑顔がつくしをじっと、見つめてる。
「誰?」
率直な疑問がつくしの口を突く。
「誰?と、聞かれて自分の正体をばらすと思いますか?」
「顔も隠してないのだから名前を言っても問題ないでしょう」
「あなたを無事に返すつもりがないのなら顔は見られても問題ないと思いますよ」
柔らかない物言いとは対照的な冷たい声。
自分は誘拐されたのだとつくし自分の置かれた状況にごくりと喉を鳴らす。
光の届かない牛車の中ではいくらつくしが目を凝らしても悪人の輪郭がおぼろげに見えるだけだ。
目の前にいるその男の余裕さがつくしを強気にさせる。
「殺すつもりなの?
そのつもりなら私をわざわざ連れ去らないよね?」
「思ったより賢いお方だ。
確かに連れ去るような手の込んだことはしません。
あの場で始末するほうが簡単に事はすみますからね」
感心する表情を浮かべるその男の声は自分をあやすように聞こえて本気で褒めているとはつくしには思えない。
「着いたようです」
ゆらりと一度大きく揺れた牛舎がの車輪が小さくギシッと軋む音を立てて動かなくなった。
着いたってどこ?
右に一回・・・そこから左に曲がって・・・
もう一度つくしは頭の中で覚えた道順を反芻する。
自分が連れ去られてそう長くはない時間。
屋敷からどのくらい離れているのか。
過ぎた時間から換算すれば2里ほどの距離ではないかとつくしは思う。
方角は?
そこまではさすがにつくしもわからない。
皇子の力で捜査を始めればすぐに見つけ出せるのではないかとも思える。
自分がいないことに気が付いて屋敷は大騒ぎになっているはずである。
自分が連れ去られたことはもう皇子の耳に届いてるだろうか?
声をj張り上げて指示を発する皇子。
それとも自分で率先して宮を出て探し回ってくれてるかもしれない。
不安なはずなのに自分をきっと探しだしてくれると、どこかのんきに構えてる自分につくしは笑みをこぼしそうになる。
「幸せなお方だ・・・」
皮肉な笑みを浮かべた男は車の中につくしを一人残して姿を消した。
そのあとに姿を見せた女官。
つくしの姿を見るなとでも言われてるのか目線を下に向けたままつくしの手を取り車から降ろすと中庭を通って長い廊下を進んでいく。
決して寂れた場所ではない貴族の煌びやかが香る住まい。
宮廷に上がることのできる権力を持つ上流貴族の屋敷と言っても遜色ないとつくしは感じとる。
無理やり連れさって押し込めるというよりは、招待した客人をもてなすという雰囲気だ。
つくしが通された部屋の調度品のどれをとってもつくしのために誂えてこの日のために準備したといってもよいくらいのものだ。
「あの・・・ここは?」
「姫様のために若様が準備されました」
「若様って?」
あの私をさらった人?
牛車のなかで皮肉るように笑った口元。
そこだけが鮮明に浮かん顎の輪郭だけしか見えなかった。
いまだにつくしは相手の顔もはっきりと認識できてない。
若様と呼ばれる相手の正体をつくしはいまだにわかってないのだ。
いったい誰よ!
つくしの知る範囲で若様と呼ばれる人物は司皇子を含めあの3人しか知らない。
この時代家族以外の公達はすべて自分の結婚相手と思えば父親だけでなく年頃の姫にとってはいろいろと情報もしっかり把握してるはずなのだが、つくしの場合その点はほとんど今まで興味がなく公達の噂も耳を通り過ぎれば頭の中に何も残っていないという状況だった。
え・・・と・・・
若くて・・・
身分のある貴族で・・・
お妃教育で覚えた公達の名前は今のところ司に通ずる親王までしか覚えてない。
もうッ!
多すぎるッ!
宮家に通じる人間だけでも覚えきれないのにそれ以外の貴族までまだ覚えていない現状に頭がくらくらしてきた。
それでも絶対なにか皇子に関係するんじゃないかと思う。
それ以外で私をさらう意味なんてないはずだもの。
東宮のお妃となるつくしをさらう意味は自分を排除して別な誰かをお妃にするってことかしら?
実家から突然姿をけした私が別な貴族の屋敷で見つかったら・・・
それだけで大問題じゃないのかッ!
見つけられたらダメなんじゃ・・・
何としても自分でここから抜けだして逃げて事件にならないうちに自分の力で家に戻らなきゃダメってこと!!
ヨシ!
何としても逃げる!
打掛を脱いでくるっと丸めたつくしはそれをどこか御簾の後ろに放り込む。
まずは身軽にならなきゃ逃げられないもの。
そっと障子を開けて、つくしは顔だけ覗かせると外の気配を確かめるように左右に視線を走らせた。