最上階の恋人 17 (SP相葉さんの杞憂)

やけに目立ってるはずのカップル。

相手が司じゃなければだれも大して気にも留めないんでしょうけどね。

久々にSP物語風に今回はお届けしようかなと思っています。

今回千葉君が登場してないのが寂しいかも。

相葉さんは今回が司とつくしの言い合いを初めて目撃する設定です。

ここから二人を一番身近で見守るSPですからね。

相葉さんがどう目覚めていくのかも楽しみになってくるかも♪

ターゲットを見失う。

一番あってはならない失態を代表の前でやってしまった俺。

SP失格。

いつもよりちょっと気が緩んだのは隠しようがない。

危険のない楽な仕事、そんな気持ちもあった。

道明寺HD本社ビル、エントランスから最上階までの案内役。

誰がここで問題が起こると予測できたというなら言ってくれ。

10分もあれば仕事は終わる。

そんな気持ちは人なっこい明るい笑顔を見せられた時から確信に変わった。

代表の婚約者という高飛車なイメージは早々に好印象に変わる。

緊張した面持ちは声をかけたその瞬間に無防備に変わる柔らかい印象。

くるっとした大きな瞳は好奇心旺盛で素直な感動を隠すことなくすぐに感情が顔に出るタイプ。

トイレに行く。

ドラマでもよくあるパターン。

逃げる必要もないはずの相手にそれを疑う気持ちさらさらなかった。

「気を付けてたほうがいいぞ。

牧野は予測不能なトラブルを巻き起こす台風の目だ」

俺にそう忠告してきたのは代表の親友で御曹司の一人西門宗家次期家元の西門総二郎。

俺にはこの人がトラブルを連れて来たのではないかと疑いたくもなる。

帰りが遅いつくし様が気になりだしたところでの代表登場に血の気の引く思い。

苦手な蛇に睨まれるよりもぞっとした瞬間。

代表の冷たい視線を全身に受けるより俺は大蛇を首に巻く方を選ぶって思う。

居なくなったターゲットを必死に探して代表のもとに!

俺より早く代表にターゲットを捕獲されてしまった。

一つ飛びだした頭の周りを遠くで取り巻く人の群れ。

惜し分けるように近づく段階でSPの仕事は全く機能してない。

俺のここまでの経歴は完全に最前線の華やかさから野球のスタンドまで飛ばされたホームラン級の暴落。

「代表?」

「こんなところにいるのめずらしくない?」

「いつもほとんど素通りだから、一瞬しか見ることできないのに」

「ねぇ、腕を伸ばせば写真撮れるんじゃない?」

あちらこちらでスマホiPhoneを操る指の動き。

最近のSNSの情報の拡散は止めるすべがない。

周囲を見渡せばほとんど同じ状況。

小声の話し声からは察する必要もないくらいに代表を見た奇跡の時間を楽しんでる。

それは中心に身体が近づくごとに小声になり、最前列で息を飲む音が静かな雰囲気の中にごくりと響く。

なんだこれは?

代表の目撃の感嘆の度合いは遠く離れた場所のほうが高くて近い場所ではひやかというか・・・

ハラハラして不安を浮かべる社員の姿。

普通、近いほうがテンションが上がるんじゃないのか?

そう思いながら視線を二人に向けた俺。

「こんなところまで、道明寺が探しに来るから大騒ぎになったじゃない」

確かにそれはそうだと俺も思う。

「お前が、いなくなるからだろう」

それは確かに代表のいう通りだ。

俺も仕事で自信を無くす結果を味合う必要はなかったはずだ。

「いなくなってないし」

いや・・・

どう考えてもいなくなってます。

最上階に行くはずが確実に遠くなってますし。

「相葉や総二郎と遊んでる暇があったら直ぐ俺のところに来ればいいだろうがぁ」

「まだ、約束の時間になってなかったから、少し時間をつぶすつもりだけだったの」

賛成したんだよな・・・俺。

つーか・・・すげー。

この子。

代表に負けてないというか、対等に渡り合ってるし。

代表が機嫌を損ねてるのは明白なのに一歩も引かずに言い張ってる。

重役でも代表には言いなりで、反論する雰囲気を殺して押し黙す重圧は帝王の威厳。

その代表に・・・

すごいものを見た!

代表の冷酷さを見聞きしている社員はいつその代表のブリザードが吹き荒れるのか息を飲んで見守ってるいうところか?

周りの落ち着かない社員の気持ちもよくわかる。

「来い」

威嚇気味の声はそのまま拒否の言葉を受けつけないという態度で彼女の腕を掴んだ。

このまま代表が最上階に戻ればこの騒ぎは収まるのだろうか?

「彼女が代表の・・・・?」

「未来の代表夫人になるの?」

先ほどよりは隠れた感じでシャッターが響く。

今回は代表より彼女の画像の数が上回るかも知れない。

両手で広げてなるべく彼女の姿を隠すようにフォロー。

「撮らないで」

代表には負けるが言葉を強めての対応。

それでも一人では限界があるからそれは差し引いてもらいたい。

「ダメ」

写真に気を取られた俺の横をすりぬけた女性がつくし様の腕をとるのが見えた。

スキを突かれたような代表の腕がつくし様から離れ、つくし様の腕の支配は代表から彼女に移る瞬間。

俺は何もできずにただ被写体にならないように囲んでただけ。

第3者をターゲットに近づける失態。

俺・・・っ・・・

クビか?

駆けつけた瞬間。

不愉快そうに眉をしかめる代表の視線が俺とぶつかった。