最上階の恋人 23
おはようございます。
ようやく話が先に進める。
『戯れの恋~』とどちらを更新するか悩みながら、もうちょっとこのお話を先に進めさせていただきます。
大きくこれ以上は開かないというくらいに見開いた瞳。
小さく漏らした声にならない声。
そのまま開いた口は閉じることをすっかり忘れてる。
ハトが豆鉄砲をくらった表情がそのまんまの牧野が俺の横にいる。
「今日は一緒に食事するって言ったよな?」
「だからって・・・どうして突然船の上なのよ」
あのなっ、船って二文字で終わらせるな。
豪華客船、道明寺HDが全力で作り上げた最新の船。
これが処女航海なのにすでに世界の豪華客船ランキング1位の期待度をもらってるんだからな。
「いきなりヘリで飛んで、海の上に連れてこられて、食事って言われてら誰でも驚くでしょう」
「そうか?」
平然とつぶやく俺に牧野はますます目を大きく見開く。
言いたいことを遠慮なく言って牧野は肩を大きく揺らす。
「もう、本当に、何考えてるのよっ」
憮然と文句を並べる牧野の口元。
言いたいだけ言わせて俺は牧野の口が動かなくなるのを待つ。
ビルのような存在感を示す船体。
乗船員を合わせて5000人をあまりを収容するこの船はもはや動く街だ。
「私のこの格好すでに浮いてるし・・・」
船の中央から後尾にあるオープンデッキにはロッククライミングやスポーツコート、ミニゴルフ、プールが完備。
それぞれに楽しむ乗客たちの横をそのまま牧野を連れて通り過ぎる。
「心配するな、ここでは何でもそろう」
「道明寺に買ってもらうつもりないし」
エレベーターホールを抜けるとショッピング街。
牧野でも知ってるであろうブランドの店も並ぶ。
「へぇ・・・お前・・・自分で買えるのか?」
いつも桁が違うってため息交じりに避難じみた視線を俺に向けるやつ。
「買えるわけないでしょう」
「高っ・・・うちの一年分の食費だよ」
値札を手に取って見ながら慌てた素振りでその値札から牧野は手を離す。
それはまるで危ないものに触れて慌てて放り出すみたいな秒単位の素早さ。
「いらないっ!」
やけくそ気味に言い捨てて牧野は俺を追い越すよう大きく足を一歩踏み出した。
「待てよ」
伸ばした腕はしっかりと牧野の手首を握りしめる。
誰が逃すか。
「どこ行く気だ?」
「どこでもいいでしょうッ」
「迷子になるぞ」
クスッと笑みをこぼす俺に冷静になった牧野は俺の言い分が正しいことに気が付いて拗ねた顔を見せる。
「好きな女を着飾らす特権はあると思うけど」
引き寄せた牧野の耳元でそうつぶやく。
見る間に耳たぶが赤く染まるのが見えた。
「来い」
「これなんてどうだ?」
店の中に牧野を引っ張り込む俺。
牧野が反抗する間もなく店員が牧野を囲む。
着せ替え人形状態の牧野は次々に真新しい服に袖を通して俺の前に立つ。
椅子に座りながら俺はに牧野に会う服を探す。
淡いレモン色のワンピース。
肩のラインに鎖骨が見えるドレス。
ハイヒールにバックに装飾品。
ダメ出しをしながらもいつもとは違う牧野を楽しんでる。
「こんなに買わなくても・・・」
買った品物は俺たちの客室に運ばれているはず。
「お前は俺の婚約者だぞ」
これでも足りないくらいだ。
「これは必要経費だからな。
今からはもっと必要になる」
足の止まった牧野がふくれっ面のまま俺を見つめる。
「私の前にも婚約者いたんだよね」
はぁ?
「だから何だ」
昼間の会社での出来事。
俺と婚約したとか言い出した見たこともねぇやつ。
今更蒸し返されても俺には責任はねぇよ。
「だから何だといわれても・・・」
「俺に謝ってほしいのか?」
「そうじゃなくて・・・
言い訳とかないんだ」
「あのな、俺が知らない婚約に嫉妬すんな」
「しっ・・・嫉妬なんてしてないし・・・」
「しただろう?」
「だからしてなっいって・・・」
素直じゃねぇ牧野の前にクイッと顔を近づける。
俺からの視線から逃げるように牧野が顔にしかめて横に向けた。
壁に背を付けた牧野はそれ以上の逃げ場はない。
「俺が一生一緒にいたいって思った女はお前だけだから」
牧野の頬に唇が触れそうな距離。
しかめていた目元がかすかに和らぐのがわかる。
「そんなこと・・・いわれても・・・」
照れくさそうに赤く色づいた牧野の声。
甘く俺を誘う。
このまま牧野に触れたい誘惑。
「食事の前に着替えないとな」
メインダイニングはドレスコードあり。
カジュアルなイタリアンレストランがあることは今はこいつに教えない。
「客室に行くぞ」
パノラマで海が見渡せるデラックスバルコニー付きの客室。
2室しかないロイヤルスイート。
きっとまた牧野は驚いた声を上げるに違いない。
そんなことを考えながらも、必死で牧野に触れたい衝動を我慢してる俺。
牧野をせかすように腕をとって早く部屋にたどり着きたいと心が騒ぐ。
「客室って・・・泊まるの?」
目の前の牧野が不安そうな瞳で俺を見つめてた。