いつもの風景 その2

注)いつもの風景  第14話からの分岐点からのリレー小説です
   いつもの風景をお読みになった方は15話からどうぞ

 第1話いつもの風景             作 ひーちゃん  


夜が白みはじめ、小鳥のさえずりが聞こえ出す頃、目覚めたユーリは自分を優しく抱くその腕の中からそっと抜け出した。
「もう起きたのか?」
自分の腕を外されたことに気がつき目覚めたカイルは不満そうに言った。
「ごめん・・・起こしちゃった?」
「今日は政務も少ないからもう少し寝ていよう。」
謝るユーリをカイルは強引に引き倒そうとした。
「ほんとにごめんなさい、今日は私忙しくて・・・」
その腕からスルリと抜け出しユーリは、寝室から出てさっと行ってしまった。
薄情な妻の後姿を見つめながら、もてあました身体をベットに投げ出し、カイルは舌打ちした。

第2話 いつもの風景その後           作 匿名さん

「ユーリ、今日は忙しいと言っていたが、何をしているのだ?
ユーリのしていることは私は全部把握していると思ってたが・・・・」とカイルは、ユーリの匂いの残るベットの中で体を横たえた。
それから、カイルはフト目を覚ました。
すると目の前にいつも見なれた瞳が二つ覗いていた。
カイルははっと息のを飲み、我を忘れた。
「カイル、御誕生日オメデトウ」
すると部屋の中がざわざわと騒がしくなった。
「皇帝陛下、お誕生日おめでとうございます」
イル・バーニ、キックリ、ハディ、リュイ、シャラ、カッシュ、ミッタンナムワ、ルサファ、ギュゼル姫、ジュダ皇子、そしてラムセスとラムセスの妹の姿も・・・・
「おいっ!何をぽか~んとしてるんだ。
こうして俺様がわざわざエジプトから妹と一緒に祝いに来てやったんだぞっ!御礼の一つでも聞かせてもらてないもんだなっ!」
と、ラムセスがカイルの横に立ち、肘でカイルのわき腹を小突いていた。
それを見ていた、ユーリはくすくすと笑っていた。
いつぞやは、あんなにオリエント覇権の為に戦っていた二人が、今はこうして・・・・・
ユーリの目から一粒の涙がこぼれた。。。。
「さぁさぁ、ユーリ様、おめでたい席で涙は禁物ですわ。
さぁ涙をふいて皇帝陛下の誕生日をあんなに盛り上げようっておしゃってらしたでしょ」とギュゼル姫がそっとユーリの目から涙を拭いてくれた。
 
第3話 誕生日プレゼント                 作 あかねさん

「あのね、カイル。散々迷ったんだけど・・・・。これ、プレゼント」ユーリが、かわいい赤い包みをカイルに手渡した。
プレゼント・・・。一番悩んで、結局はこれにしたのだ。
「・・・ユーリ、これは・・・・?」
「それはね、う~ん・・・。カイル、そんなのたくさんもっているだろうけど
 あたしが作ったの!アクセサリーボックスだよ。」
それは、かわいらしいピンク色をしたハート形の箱だった。
カイルはそれを大事に机の上に置くと、にっこりと微笑んだ。
「ありがとう、ユーリ。・・・これは、国宝だな(笑))」
ユーリは照れてしまい、顔は真っ赤。
そんな様子を、ヒッタイトの住人は微笑ましく見ていたのだが、エジプト人はそうではないようだ。
「こらこら!せっかく俺からもプレゼントをもってきてやったのに。」
ラムセスとネフェルトはポンと一枚の紙をさしだした。
「ムルシリの娘を、俺の息子の嫁にもらってやる書類だ!」
「・・・かってにいってろ・・・」
ラムセスをよそに、パーティーは続いていった。

第4話 真夜中に                           作 那美さん

カイルの誕生会を終え…カイルとユーリは寝室に戻って行った…
ユーリの誕生日プレゼントには大喜びだったカイルだが何故か機嫌が悪い…
「ねぇカイル?どうして機嫌が悪いの?」
思い切ってユーリは聞いてみた…
「いや…ラムセスの言葉を思い出してな…」
ラムセスの言葉とは「ムルシリの娘を俺の息子の嫁にする」
カイルはそれを聞いて子供が一層欲しくなっていたが…ラムセスにはやらないと心に決めていた…カイルはユーリに心から欲しい頼みをすることにした…
「ユーリ…今日の誕生日プレゼントありがとう…大切にするよ…
だがもう一つ欲しいものがあるんだ…」
ユーリはにっこり笑ってカイルに聞いた
「なぁに?何が欲しいの?」
カイルはニッと笑って…
「私とおまえの子供が欲しい」

第5話 夜過ぎて                            作 あかねさん
「子・・・子供!?なんでいきなり!?」
ユーリはいつものようにイスに腰掛けた。
そこで何分か、カイルと話し合いをするのが毎日の日課だった。
「いや、今日ラムセスが言っていただろう。・・・まえからほしかったけど。
 なぁ、ユーリ。無理ではあるまい?」
カイルはそういうと、ユーリに詰め寄っていった。
当のユーリはというと、苦い、暗い表情をしていた。
「どうした、ユーリ。子供は嫌いか?」
「・・・ううん、そんなことないよ。・・・でも、もしまた・・・。」
カイルは、はっと気がついた。
ユーリは一度、流産しているのだ。その恐怖から、子供が・・・。
「大丈夫だよ、ユーリ。今度こそ、ちゃんと産んであげるんだ。」
「・・・カイル、私と子供守ってくれるよね?」
「あたりまえだろ?」
こうして夜は、過ぎていった。

第6話 お疲れ                              作 ひねもすさん

カイルの『子供ほしい発言の後』、ユーリに安らかな眠りと穏やかな夜は訪れなかった・・・。
リュイ「ねえ、シャラ。ユーリ様、お疲れのご様子よね」
シャラ「うん、毎晩陛下に付き合っているんだもん。
なんかおやつれになったわよね・・・」
ハディ「本当に陛下も少しは控えていただかなくちゃ。
あれじゃご懐妊される前にユーリ様が倒れてしまわれるわ・・・・・。
ユーリ様が本当の側室になられる前の頃が懐かしいわ。
あの頃は必死になってお二人に結ばれていただこうといろいろ画策してたのよね~~。ああ、懐かしい」
リュイ「あの頃の陛下は結構我慢強かったのにね。」
シャラ「一度、魔がさしたけどね」
3姉妹のかしましいおしゃべりを柱の影から聞いていた者がいた。

第7話 つかれさせてなるものか                     作 しぎりあさん

ユーリが、毎晩お疲れだと?
拳がふるふる震えた。
とっくの昔に帰ったはずの某エジプト国将軍が、なぜか柱の陰にいる。
はっ!やばい!!
双子が近づいてきたので、すばやく柱と同色の布をかぶった。
とたんに彼の姿は見えなくなった。
将軍ともなれば、忍びの技などお手のモノだ。
「でも、陛下も毎晩こんなに熱心なんですもの、きっとすぐに御子もおできになるわ~」
のんきな会話を見送って、ラムセスは歯がみした。
くそう、いくら息子の嫁を製造中だとはいえ、ユーリが疲れるほどナニだとは、腹の立つ。
なんて羨ましいんだ、ムルシリ二世。
こんな気分でエジプトに帰れるものか。
ずずっ
盛大に鼻をすすり上げる音がして、ぎょっとする。
しまった、おれの他にも間者が?(出歯亀の間違いだろう?)
そっちをみると、やっぱり震えているおかっぱあたま。
どうみても、近衛副長官に見える。なんで、後宮で泣いているんだ?
「ユーリ様・・おいたわしい。私がせめて半分でもお代わりすることができたら・・・」
言いながらルサファは鼻をかんだ。本気か?そうか、ルサファ、けなげだな。
ラムセスは、にやりと笑った。」


第8話    かわりになりたい               作 ひねもすさん

(ならば代わってもらおうじゃないか)
野心的な瞳はその輝きをいっそう増した。
自称エジプト一の色男は、泣いているルサファの首元めがけて吹き矢をはなった。
見事、吹き矢は命中。
美しい黒髪をサラサラさせてルサファは倒れた。
後は簡単。
ガス式こてを使ってルサファの髪をカールして、ユーリ風くせ毛に・・・。
腕のすね毛を除毛剤できれいに・・・と。
ファラオの地位を狙う将軍ともなればカリスマ美容師なんてめじゃないのである。 
一日の仕事を終えた今、一番の楽しみはユーリとの ひ・と・と・き!
知らず知らず顔の筋肉が緩むカイルは皇帝のベットルームへ入っていった。
薄暗い部屋。香る乳香・・・・。
狂おしいばかりに愛しい人は、その黒髪だけをシーツの間から覗かせている。
「ユーリ、眠ってしまったのかい?」
「ぎゃ~~~~~~」 
「きゃ======」
「わ~~~~~~~」ヒッタイト王宮を揺るがす悲鳴が響きわたった。
「カ、カイル・・・。どういうこと。ルサファまで・・・。
今日は私の部屋に来てくれるって聞いたのに、あんまり遅いから来てみたら・・・」
ユーリは日本にいる時、姉の部屋で見た怪しげな自費出版本を思い出していた。
そして、姉に無理やり読まされたル○-文庫の小説・・・・。
「いや~~~、そんな、愛した人が〇〇だったなんて!しかもルサファまで!
私のベールにキスしてたのも、本当はカイルの移り香があったからなのね。
もしかして、私はいい面の皮ってやつなの!」
興奮してる割には冷静な判断をしているユーリ。
さすがはタワナアンナ。
ヒッタイト一の女性。
「ユーリ、何を勘違いしているんだ!」
「いや~~~。」ユーリは泣きながらその場をかけ出していった。
 
第9話 ショック                              作 あかねさん

「な、なんでルサファがこんな所にいたんだ!!」
ユーリを追いかけながら、ルサファに問いかける。
こいつのせいで・・・・・・・く~~~~~~~!!

「分からないんです。なんか、首にちくっと来たと思って、目覚めたら・・・・。」
「えぇい!おまえ、髪までユーリに似ているからいけないんだぞ!」
こんな争いをしているのなんか気にしないで、ユーリは自分の部屋に駆け込んでしまった。
そして、いつか、いざというときのために作っておいた「「カギ」」をかけた。
「カイルが・・・カイルが・・・・・。うわ~~~!!」
「ユーリ!ここを開けるんだ!誤解だから、別に私はルサファと・・・・。」
「その先は言わないで~~!カイルのバカー!!」
完全に誤解しているユーリ。
しかしまぁ、あんな場面を見たら、誤解したくもなりますけど。
ユーリは完全に閉じこもって泣いている。
カイルとルサファは誤解を解きたい。
「・・・今日は無理だな。明日にでも誤解を解く。」
今日はぜったいに無理だと判断したカイル。
まぁ、明日にでも誤解を解けばいいさ・・・。

そして、翌日。ユーリは、部屋に三姉妹しか出入りを許さなかった。
翌日も、その次ぎもその次ぎも・・・・・・・。
もうすでに、一週間が経過していた。
その間、ユーリは部屋ですべてをやっていた。
カイルは、一週間もユーリの顔を見ていない。
「ユーリ!いつになったら出てくるんだ!!」

第10話 うらわざ                             作 妃 瑠佑華さん

カイルはこの所いらいらしっぱなしだった。
原因は、ユーリに誤解されたままというのもあるが、やはり一週間もユーリを見ていないのが一番の原因だった。
「「ようし、こうなったら…。」」
なんと、カイルはユーリの部屋の窓に向かって壁を攀じ登り始めた!!部屋にいたユーリは…
「「なんか、変な音がするなあ…ラムセスが、登ろうとしてるのかしら…あいつときたら神出鬼没の上に、壁でも平気で攀じ登るし…」」
そう、ラムセスは壁攀じ登り前科一犯であった。
そう思いながら窓から下をのぞくと…
「カイル!何してるのよ!!」
「いや、これは…お前が部屋に入れてくれないから、ドアからがダメなら、窓から入ろうと…。
部屋に入れてくれないと、誤解も解けないし…。」
そう言うと、カイルはユーリの部屋に入ってきた。
「誤解なんかしてないよ。カイルとルサファは〇〇な関係なんでしょ。
今はカイルの顔なんか見たくない!大っ嫌い!!」
「「ガーン」」
「ユーリ!それは誤解だ!!なぜか私のベッドにルサファがいて、髪がくせっ毛になってたから、薄暗かったし、それでお前と間違えたんだ!!私は〇〇じゃない!!」
そう言うと、カイルは強引にキスした。
「いや、やめて!!」
「ユーリ…お前だけを愛してる。お前がなんと思おうと、お前だけを愛してる。
だから…「大っ嫌い」は、取り消してくれないか。
お前に嫌われているのだけは耐えられない。」
「いや…!いつも、そうやって私をだましてたんでしょ!」
「そうじゃない!大体、私がお前を愛していないというのなら周りがあきれるほどの、毎日の情事は?お前を本当に愛してるからこそ、あきれられようと、毎日愛したくてしょうがなかったんじゃないか!」「……。」
もう少しで誤解が解ける!!頑張れカイル!
「ちょっと、何してんの!」
カイルはユーリをベッドに運び、服を脱がせていた!
「一週間も、お前を抱いてないんだ!もう私は我慢できない!!」
「ちょっと…あっ…わかったから…真剣っぽいし、もう誤解してないから止めて。」
「いやだ。一週間もじらせた罰だ…」

第11話  よく考えてみよう                     作 しぎりあさん

「やだっ・・・てば・・」
抵抗の声が、途切れる。
寝技に持ち込めば(笑)後は、カイルの本領発揮。
ユーリもいつまでも、拒めるはずがない。

  ※  ※  ※  ※  ※


先ほど皇帝陛下がよじ登って不法侵入を果たした窓からの風が、火照った肌に心地よい。
 うっとりと、カイルの腕に身を預けるユーリの髪をもてあそびながら、ささやきかける。
「どうだ、私の気持ちがわかったか?」
「・・うん・・」
そのまま身体をすり寄せてくるのを、抱え直し、胸の高さまで引き上げると、唇を重ねた。
柔らかな感触を味わい、甘い吐息を楽しむ。
「・・カイ・・ル・・」
「黙って」1週間もお預けを食らわされていたのだから、まだまだ足りない。
気力は十分、ユーリだってまだまだ大丈夫そうだし(1週間、邪魔されずよく眠ったせいです、きっと)。
逸らされた首筋に口づけつつ、秘かに安堵のため息。
思えば、長い一週間だった。
今更ながら、離れては生きていけないと実感する。
だいたい、あの夜、ルサファとユーリを間違えるなんて事をしなければ・・
間違えること自体、愛情を疑われても仕方ないけれど。
でも、髪をカールしたルサファってホントに似ていたんだ・・・。
そう、似ていた。
部屋も暗かったし。
・・なんで、ルサファは、髪をカールしていたんだ?
眠らされた、とか言っていたな・・。
誰に?
「・・カ・・イ・ルゥ・・」
動きを止めてしまったカイルに、ユーリが不満げな声をあげた。
「・・しまった!!」
「えっ?」
ユーリからの閉め出しに頭がいっぱいで、よく考えなかったが、この悲劇(笑)には、裏で糸を引く誰かがいる!!
「まさか・・?」
ヒッタイト後宮に入り込み、ついでに寝所にまで入り込み、近衛副長官を捕らえてカリスマ美容師並の腕の見事さでセットをしたヤツ。
「ね、ね、急にどうしたの?」
険しい表情のカイルに、組み敷かれたまんまのユーリも不安そうにたずねる。

第12話 差し出された手                      作 ひねもすさん

カイルがこの悲劇(?)の真相に気が付ついた瞬間!

《ガサゴソ》

先ほど、カイルが壁を攀じ登って入り込んだ窓から
今度は金と青の瞳を輝かせた美丈夫が現れた。
皇帝夫妻のお取り込み中に入り込んできたのである。

壁攀じ登り前科二犯となったラムセスはベットへと目をやると叫んだ。
「ム~ル~シ~リ~!
 おまえは性懲りもなく、またユーリを疲れさせてるのか~~!!
 なんて堪え性のない奴なんだ!!ユーリ、エジプトへ行こう。
 俺なら、もっと計画的に子作りに励むぞ!
 こんな奴と一緒にいたら腹上死しちまうぞ!」

カイルはローブをまとい、ベットから飛び出すとラムセスの前に立ちはだかった。
「夫婦の寝室に忍び込むとは!!!!
おまえには、遠慮と言うものがないのか!恥知らずめ!
それに、ユーリは私の下にいるから腹上死なんてしない。」
勝ち誇ったようにラムセスに言い放つカイル。
「余計な心配はぜず一人でエジプトへ帰れ~~~」


「来い!ユーリ、私の部屋で続きを楽しもう。」
「ユーリ!エジプトに行くんだ。今なら遅くはない!」
ヒッタイト皇帝とエジプトの将軍は同時に叫び、手を差し出した。


シーツを巻きつけたユーリは呆然としていた。
そして、心の中で思った。

(どっちの手をとっても、毎晩ぐっすり眠れそうもないのは確かだわ。)


第13話ユーリに異変が                   作 那須さん

「もう!いいかげんにしてよ!カイルもラムセスも私のことなんだと思ってるのよ!
女は子供を産む機械じゃないのよ!!」
ユーリがバカ2人に向かって怒り始める
「しかし!ラムセスのせいで危うく私はおまえとルサファを間違えるところで…」
カイルか必死に弁解しようとしているが、ユーリは立ち上がる…
「ったくもう…何かムカつく」
もう私一人がいいと、皇帝とエジプト将軍を残し部屋を飛び出すユーリ。
こうして今夜も夜が更けた。

第14話 そうは問屋がおろさない                      作 しぎりあさん

「ユーリ、食欲はまだないか?」
 おろおろとカイルがきく。
朝一番で、カイルの顔を見たとたん、吐き気を覚えて部屋から走り出てしまった後を、追ってきたのだ。
「・・・う、うん・・ちょっと・・」
「ムルシリ!朝から鬱陶しい顔を見せるんじゃない!!」
 高らかに吠えながら、ラムセスが現れる。
「ラムセス・・・ぐうっ・」
「なんかすっぱいものが食べたい」
「もずく酢なんかあるといいんだけどな」
「ここにはないよね?」
「待ってろぉぉユーリィィ!俺が絶対に、もずく酢は捕らえてやる!!」
 戦車に飛び乗ると、ラムセスは雄叫びを上げ、エジプト方面に走り去った。
 城壁の上から、それを見送りながら、カイルはにんまりとほくそえむ。
「ラムセスは、行ったか。これでユーリの心痛の元がいなくなったってわけだ」
自分が、心痛の種のひとつだなんて、考えもしないカイルである。
「では、陛下」
イルが、頭を下げる。
カイルがうなずくと、さっと片手を挙げて合図する。
とたんに、門が開き、数騎の伝令が走り出してゆく。
「各地方知事、および藩属国あてに、親書を送りました」
「うむ。『皇后ユーリ・イシュタルはもずく酢を所望』か。すぐにユーリの望みはかなえてやれるだろう」 地平に消える伝令を満足そうに見送ると、軽やかに歩き出す。心はすでに、後宮のユーリのもとだ。邪魔者がいなくなったいま、心ゆくまでいちゃいちゃするつもりだった。

 一難去って、また一難。

 古代オリエントにこんなことわざがあったかどうか。
けれど、カイルはユーリ立后までの波瀾万丈で、そのことを身にしみて知っていたはず。
しかし、今は思い出しもしなかった。はっきりいって、平和ぼけである。
毎日の心配事といえば、ユーリのご機嫌伺い。国政は安定し、他国との関係も良好なのだから、仕方がない。
 異変に気づいたのは、ハットウサの王門を守る守衛だった。
「なんだ、あれは?」
 街道の彼方にあがる土ぼこり。ものすごい勢いで近づいてくるそれは、あきらかに大量の騎馬部隊だった。
「て、敵襲!?」
 慌てて閉門の合図を送ろうとした門衛の耳にかすかに聞こえる声?
「・・・・・さ・・まぁ・・・」
 激しいひずめの音に混じって、確かに女性の(それも、若い)声がする。
「お、おい、あの旗印は!」
 見張りが、櫓の上から叫んできた。聞き返す間もなく一隊は、それと分かるまでに近づいた。声も、しっかり聞き取れる。
「おねえさまぁあ!アレキサンドラ、おねえさまの『もずく』お届けにあがりましたわぁぁぁ!!」
「ア、アルザワ軍!?」
 
 度肝を抜かれた門衛が、アルザワ軍とその王女をあっさり通過させると、王宮は大騒ぎになった。報告を受け取ったイル・バーニは眉を寄せたまま、歓待の準備を申しつけ、足早に後宮に向かった。
 後宮の中庭の木陰で、愛妃の膝枕で和んでいる皇帝に、非常事態を注進するためだった。
 


第15話   いちゃいちゃ                   作 しぎりあさん

後宮の中庭には爽やかな風が吹き、日陰を得るために植えられた木々をさわさわと揺らしていた。
踊る木漏れ日の中、寄り添うのは皇帝夫妻。
 皇妃は積み上げたクッションに腰を落とし、その膝に皇帝が頭を預ける。
皇妃の指が皇帝の端正な輪郭をなぞり、皇帝はその指をとらえ、口元に運ぶ。
軽やかな笑い声とともに、引かれた指は、やがてたわわに実った葡萄の一房を取り上げた。
 イル・バーニは、中庭に足を踏み入れるのを一瞬ためらった。
己が無粋な闖入者であることを自覚したからだ。
風が、二人の会話を運ぶ。

「ねえカイル、ブドウ、食べる?」
「あ~、食べゆ~、ユーリあーんしてぇ」
「カイルったら、あ・ま・え・ん・ぼ!じゃあ、あーん」
「あーん、もぐもぐ」
「あっ!だめよ、あたしの指までもぐもぐしちゃ」
「だって、こっちのが美味しいんだもーん」
 ・・・・・
 イル・バーニは目頭が熱くなった。
かって、ヒッタイト帝国の第三皇子、カイル・ムルシリといえば、その武勇と聡明さと、冷静な判断力で(ついでに、ハットウサ一のプレイボーイとしても)オリエント中にその名をとどろかせていた人物である。
 それが。
 ただの色ぼけの阿呆になってしまわれた・・・
 たしかに、今はプライベートだ。最愛の恋人であり、妻でもある皇妃のユーリとどんな会話を交わそうが、自由である。
自由ではあるが、あーんはないだろう。
 あーんで、崇高な理想の国家が作れるのか?
「まあ、イル・バーニ様、お二人はおくつろぎですわ。なにか、急ぎの用件でも?」
 不意に、物陰から声をかけられて、内心驚いた。が、表情には出さない。
「ハディ、急ぎだ。陛下にはお気の毒だが」
 気の利いた女官たるもの、邪魔にならないよう姿を隠しながらも、用があればいつでも対応できるよう、そばに控えるモノらしい。
 ハディは、心外そうに見返している。そのむこうで双子が、ほほえましげに皇帝夫妻を見守っている。
 あーんが、ほほえましいのか?
 ・・・・・
「じゃあ、ユーリにも、おかえし、ほら」
「また、口移し?カイルって、ス・ケ・ベ」
「スケベ?ちがうぞ、ほんとのスケベってのは、こう・・・」
「きゃあ」
 もう、我慢ができなかった。
イルはハディの制止を振り切って、中庭に踏み込んだ。
「申し上げます、陛下」
「なんだ、イル・バーニ」
 カイルがさっと身を起こす。
両腕をユーリの腰のあたりにまわしてはいるが、その表情は冷静で聡明な皇帝そのものだった。
 変わり身がはやい。このはやさがあれば、帝国は安泰と言うことか?
「はっ、ただいま、アルザワより王女とその御一行が到着されました」
「アルザワ・・・もずく酢か!?」
 今のところ、頭の回転も鈍っていないようだ。
素早く判断すると、立ち上がる。立ち上がる前には、ユーリの唇をかすめることも忘れない。
「待ってカイル、もずく酢って?」
 皇妃の顔に戻ってユーリが聞き返す。
「お前のために、取り寄せた。ここで待っておいで」
「でも、アルザワって、国賓でしょう?あたしも行くよ」
 これは、お腹を気遣ってかゆっくり慎重に立ち上がる。
「お前は休んでいていいのに」
 手を貸そうと寄ってくるハディと双子を目線で制しながら、カイルの腕がやさしくユーリの腰にそえられた。
「でも、行く。ありがとう、カイル。あたしのために」
「お前のためなら、なんでもしてやるよ」
「王女がお待ちです。陛下、お急ぎ下さい」
 イルが言葉を割り込ませたのは、また話が長くなりそうだったからで、決してあてられるのが馬鹿馬鹿しくなったからではない。

第15話  悪い虫                      作 ひねもすさん

「皇帝ムルシリ2世陛下、皇后ユーリ・イシュタル陛下、
このたびの皇后陛下のご懐妊、わが母、アルザワ国女王クラウディアの名代として、アルザワ国、第一王女アレキサンドラ、心より、お祝いを申し上げます。
皇后陛下におかれましては、もずく酢をご所望とのこと。
材料となる『もずく』を献上致したく、アルザワよりお持ち致しました。
ぜひ、お納めくださいませ。」

謁見の間で久しぶりに会ったアレキサンドラ王女は以前のように、色白でやわらかそうな長い髪を後ろで束ねていた。
しかし、どこか違っていた。

かつて、ユーリも「固く閉じていたつぼみが開き始めたかのよう・・」と囁かれたように、アルザワ国の王女も美しい変化の時を迎えたようだ。

ユーリはアレキサンドラがずいぶんと大人びた事は分かったが、それは単に成長したからだと思った。何が彼女を大人びさせたのか分からなかった。自分がかつて花開いたと囁かれた時、自分ではそのことに気が付かなかったのと同じように・・・。
だが、ユーリを変化させた張本人であるカイルはすぐにピンときた。

カイルは王女に言った。
「王女には遠路わざわざご苦労でした。『もずく』のことお礼を申します。
しばらくお会いしない間にずいぶんと大人になられたようですね。」

アレキサンドラは、カイルの言葉の裏の意味が分かったらしく、顔を真っ赤にした。
「はい・・・。早速、お姉さまに、いえ、皇妃様に『もずく』をお召し上がり頂きたいのですが。それに、お許しいただければ、少々お話を・・・」

「ええ、王女も皇妃に報告があるのでしょう?
 皇妃、ここは下がってよいから王女と一緒にもずく酢を食べてきなさい。」

      *************

ユーリとアレキサンドラが下がってゆく後姿を見送りながら、カイルは考えていた。
『あんなに子供っぽかったアレキサンドラ王女がね・・・。
 王女が以前、ハットゥサに滞在していた時、ユ-リを慕う王女を見て、娘ができたらこんな感じかな?と思ったが、女の子は変わるもんだな・・・・。』

以前はあちこちで、女の子を変えていたカイルは大変なことに気づいた。

『娘!もし娘が生まれたら!?
 悪い虫がつくかもしれない!!!」 

かつて悪い虫だったカイルは愕然とした。
 

第16話   赤ちゃんの胎音                     作 マユさん

「う~困ったぞ~」
カイルは謁見の間で一人ウロウロウロウロ歩き回っている。
「ああ…もしユーリの腹の子が娘で将来、悪い虫がついたらどうしよう…」
できれば今ここでユーリの腹の子は皇子だよと教えてやりたいくらい顔面蒼白である。
「う~しかしな…ユーリの腹の子は息子なのか?それとも娘なのか?」
また新たなことに興味が湧いてしまったカイルは即キックリを呼びつける。
「何の御用でしょうか陛下」
「おいキックリ!今すぐにフレッド博士を呼べ!」
「え…胎教育を唱えられているフレッド博士ですか?」
「そうだ!そのフレッド博士だ!いいからとっとと呼べ!」
「陛下…ユーリ様のお腹にいらっしゃる御子を教育でもするんですか…?」
キックリは微妙にだがあきれていた…
「ああ…もしもユーリの腹の子が娘だったら悪い男がつかないように今から教育しなければ!例え息子でも教育は早い方がいいのだ!」
キックリは完璧にあきれていた…
「わかりました…すぐにフレッド博士に使者を使わせます…」
キックリが謁見の間から去っていく…後に残るのはカイル…
「さ~てユーリも妊娠7ヶ月目だし 、そろそろベビー服やベビーベットの発注もしなくてはな~
おっと、その前に産着と産湯用にベビー用の風呂も特注しなくては!
あ~何色を買おうかな~赤?青?…そうだ白と黄色にしよう!これなら息子でも娘でも大丈夫だしな!早速、プロに注文しなくては ハハハ!」
キックリの涙が出そうだった…
(これはとんでもない親ばかになりそうだな…はあ…)
そう思いながらも彼は胎教育博士・フレッドに使いを出した。

数時間後

「皇帝陛下 お呼びでございますかな?」
「ああフレッドよく来た!率直に聞くが今皇妃は私の子を懐妊している。
でだ…腹の子の性別と話し掛けてみたいのだができるか?」
「はいお任せくださいませ、 では、皇妃陛下にお会いさせていただきたいですな」
こうしてカイルはアルザワ使節団の使者達ともずく酢を食べ終え、部屋に戻っていたユーリを自分の部屋に呼んだのだ。

「カイル…何の用?」
ユーリがカイルの部屋にやって来た。
大きなお腹を抱えてノロノロと歩いている。
ユーリが部屋に入ってくるやいなや…すぐに抱きかかえるとベットに運ぶ。
「カイル?どうしたのよ???」
「ユーリ紹介しよう この者は胎教育者のフレッド博士だ」
ユーリが振り返ると40代前半の柔和な男性が座っていた。
「お初お目にかかります皇妃陛下 、早速ですが皇帝陛下の命により、皇妃陛下のお腹の性別の御子の診断にやって参りました」
「お腹の子の性別がわかるの!?」
ユーリはビックリ仰天だった…なんたって医学の発達した20世紀ならともかく、紀元前14世紀にどうしたら腹の中の子の性別がわかるというのだ!?
「大丈夫です これを使います」
フレッドが取り出したものは…
「この片方を皇妃様のお腹に当てて…皇帝陛下 こちらをご自分の耳に、でこちらから胎児に話し掛けてみてください」
こんなので本当に腹の子と話せるのか?と皇帝夫妻は思いながらも博士のいう通りにやってみることにした。
「コホン…聞えるか?私がおまえの父様だよ 聞えたら答えてごらん」
こんなの無理に決まってるとカイルもユーリも思っていた…がしかし!!

『ユサッ ユサッッ』

「なっ!ユーリの腹の中の子が動いてる!?」
「ええっ!私のお腹の中の子が動いてるわ!?」
2人は驚きを隠せなかった…


第17話   父の愛、父の心配                 作  ひねもすさん


使い物にならなくなった皇帝を無視し、イル・バーニーはひたすら政務をこなした。
皇帝夫妻のアツアツを横目でみながら、イル・バーニーは皇帝が皇妃の腹の子が男か女かを、そんなに気にする真の理由に気づいていた。

(陛下はどうやら皇子をお望みらしい。
まあ、確かに初子は皇統を継ぐべき男をと思うのは普通だろうが、陛下の場合、理由は違うだろう。
大方、アルザワ王女の変わりようを見て、自分の過去の行状を思い出したんだろう。
遊んでいたからな・・・。
まあ、それなら、対策もあるが)

イル・バーニーはカイルの弱みに付け込むのが上手だ。
だから、今まで仕えることができたのであろう。
今回も弱みをすばやく見つけ、そこを突く。

「陛下・・・。
先ほどのフレッド博士の話によると、生まれてくる子の性別は、胎児に最も多く話しかけた者の性別に影響されるそうです。」
「どういうことだ?」
らぶらぶに水を差されてちょっと不機嫌に聞き返すカイルであった。
「女性たくさん話し掛ければ男の子に。男性がたくさん話しかければ女の子になるそうです。
胎児は、母の胎内で徐々に性別が定まっていくそうなので、もし、陛下が皇女をお望みなら陛下が沢山お話ください。
もし、皇子をお望みならユーリ様が沢山話し掛け下さい。
ですが、今までの陛下のご様子からすると、お生まれになるのは皇女さまですな。
きっと陛下とユーリ様に似たお美しい方でしょう。
黒い髪に黒い瞳、年頃になられましたら求婚者が後を絶たないのでは?」

(女の子が生まれる。
それは嬉しい。
イルの言うとおり、私達の子だ。可愛いだろう。
だが、危険だ。
女の子はまだ、危険だ。
子育てに慣れてきてからじゃないと、目が行き届かない!どんな男が娘に手を出すか・・・。)

もう、七ヶ月目なのだからお腹の子の性別は決まっているだろうし、イルの言うとおりなら、母親が一番胎児に話かけるのだから、世の中は男の子ばかりになるだろう。
矛盾だらけなのだ。
でも、ユーリのことになると、理性もなにも働かないカイルは慌てた。

(ユーリと会ってはいけない!嬉しくて、つい腹の子に話しかけてしまう。
 ユーリ、最初は男の子を産んでくれ!)

カイルはその日から、執務室で眠り、食事をし、ユーリとも会わないストイックな男の人生を歩み始めた。

第18話   嘘も方便                      作 あかねさん

「ねぇ、イル・バーニ。なんか、カイルがこの頃おかしいんだけど・・・。」
ユーリはおなかをさすりながらいった。
どんどん大きくなるおなか。
カイルは、ユーリにあってはいけない!と、決心を固めていたが・・・・。
そんなもの、一週間が限界だ。
しかし、今ここであってしまえば自分の子供の一生が台無しになる。
そこで考えついたのが・・・・・。
「今日の、陛下からの手紙でございます。」
一日に何回も、ユーリに手紙を出していた。
もちろん運ぶ役目はイル・バーニ。
「何々・・・・。『ユーリ、元気か?私はもう疲れたよ。早くいい子供を産んでくれ。
 でないと先に、私が死んでしまう。』・・・やっぱり、カイルおかしいよ。
 イル・バーニのせいだね。まぁ、あの時は正直助かったんだけど。」
あの時、ユーリが口を出さなかったのは困っていたからだ。
せっかく側近達が考えて、ユーリの側で仕事ができるようにしてくれたのに、全く仕事をしようとしなかった。
ユーリは困り果てていたのだ。
「カイル、執務室から出てこようとしないんだもん。どお、イル・バーニ。
 ちゃんとお仕事してる?」
「・・・・全く。いつもぽーっとしておられて、仕事なんて一時間に一つできればいい方です。」
「え~!!全然ダメじゃない。どうしたらいいかなぁ・・・・・。」
せかっく、ユーリの側から引き離すことに成功したのに・・・・。
今度は政務をやらなくなってしまった。
       *                *
ところ変わって政務室。
イル・バーニがいない今、この部屋にはカイルとキックリしかいない。
「陛下、大丈夫ですか?」
「・・・・あぁ、つらいものだな。いくら子供のためとはいえ、ユーリに会えないなん て・・・。もう、一週間近くユーリにあってない。話してない・・・・。」
「じゃぁ、会いに行けばよろしいじゃないですか。」
何も知らないキックリ。
「だってな、キックリ。子供というのは、多く話しかけた方と逆の性別の子供が産まれ るんだそうだ。わたしとしては、皇子がほしいわけで・・・。そのためには、わたし ははなしかけちゃいけん!!」
「・・・陛下、お言葉ですがそんなことないと思いますよ。」
「なに!?イル・バーニはそうだといったぞ!!??」
キックリは、しまった・・・・・と、思った。
これは、イル・バーニ様の作戦だったのだ・・・・と。
しかし、もう遅かった。
「キックリ!どういうことだ!?」


第19話   嘘は方言                作 しぎりあさん


しまった、しまった、しまった。
 キックリは、必死に目を見開いて、考えた。
このままイル・バーニの努力を水の泡にしてはならない。
「も、もちろん、そう言う学説もあります!」
「学説?」
カイルは疑わしげに訊いた。
「はあ、子供の性別の決定が、母親の心理状況に左右されると言う・・・だから、男親が話しかけた方が、やさしい女の子が産まれる確率が高いと・・・」
なんて、いいかげんな。
自分でもそう思いつつも、キックリは必死だった。
カイルの怒りもこわいが、イルの嫌みもこわい。
「・・・それは、男親に放っておかれると、母親がやさしくない気持ちになるということか?」
鋭い目つきのままのカイル。
「ああ、そうとも言えますね・・」
キックリは一応二児の父親なのだから、ここはひとつ先輩らしくどうどうとしていてもいいはずだった。けれど、どうしても、声がうわずってしまう。
「・・・しまった!!」
カイルは、立ち上がった。
娘かわいさに、うっかりかわいいユーリのことを失念していた。
カイルにとっても初めてのことだが、ユーリにとっても初めての出産なのだ。
たったひとり、大きなお腹を抱えてどんなに不安なことだろう。(三姉妹はいるが)
不安で、気持ちがすさんでしまったらどうしよう。
考えれば、いてもたってもいられなくなった。
「キックリ、後宮に行くぞ!!」
「陛下?」
 ああ、どっちにしても、イルの嫌みを聞くハメになる・・・ 

第20話     失敗                   作 あかねさん

「ユーリ!!」
バタバタと後宮内を駆け回って、ユーリの部屋へ来た。
ユーリはベットに寝ころんで、三姉妹と話をしている。
側にはイル・バーニがいて・・・・・。
「キックリ!なんで陛下がここにいるんだ!?」
という目つきでにらんでいる。キックリは、かたまった。
「ど、どうしたの・・・・カイル?なにかあった?」
「いや、今キックリに聞いたんだが・・・。確かに私は男の子がほしいが、
 そのためにユーリをほっておくのも・・・・なぁ?」
「陛下!!ちょっと失礼いたします!!」
イル・バーニは、キックリと三姉妹を連れて部屋から出ていった。

バタン!!
「キックリ!!なんであんな事を言った!!!!!!!??????」
「すみません!!!!!!ついうっかり、口が・・・・。」
「「ばかじゃないの?」」
リュイとシャラも、イル・バーニと同じ意見。
2人の妻にそういわれて、よりいっそうシュンとなる。
「ともかく、陛下にはユーリ様離れをしてもらう!!!!」
「その役は、やっぱりキックリよね。」
ハディだ。カイルに、ユーリ様から離れてください、という役目はどうやら
失敗したキックリの役目らしい・・・。
キックリの目には、うっすらと涙がたまっていた。


第21話   考え中                       作 YUUさん

キックリは考えた。自分のせいで計画がだめになったのだから!!
1、さっき言った事を上手く流してなかった事にしてもらう。
2、イルバーニ様に助けてもらう。
3、ほっておく。
「ふぅ~~~!!」どれも無理そうだ。


第22話   ユーリ策は                        作 りよんさん

キックリはユーリに泣きついた。
「ユーリ様、どうにかしてください。
イルやハディ、双子の妻達にまで白い目で見られたのでは私は生きて行けません。
ユーリ様何とか良い御知恵を貸してください。」
キックリの細い目から涙が溢れていた。
(ああ‥キックリ。あなたは本編の中で一度だけ、その糸のような目を大きく見開いたことが有ったよね。私はちゃんと覚えているよ…。)
―と、その時ユーリが思ったかどうかは別として―
「こうなったら最後の手段だわ…」
そうつぶやくユーリの顔が見る見るうちに殺気をおびた。
流産したあと、エジプトでカイルの側近にスパイがいることに気がついた時のあの表情だ。
ユーリはそのまま何も言わず出て行った。
「お――!!ユーリ様のあんなお顔を見るのは久しぶりだ!きっと何か良い策が有るに違いない。」
まだ涙の乾かないそばかすホッペのままキックリは少しほっとしたのであった。

――数日後。ここはエジプト、ラムセスの家。
「お兄様!!お兄様!!ビッグニュースよ!!」
ネフェルトの大声でラムセスは目を覚ました。
ラムセスの隣には、着ても着なくても一緒くらい透け透けのネグリジェを着た
美しい女は……いるわけない!(いてたまるか―!!)
ラムセスは眠い目をこすりながらベッドから体を起こした。
「‥ったく騒々しいヤツだ。朝っぱらから何だっていうんだ。」
勢いよく扉を開けて飛び込んできたネフェルトの手には粘土版が握られていた。
「お兄様!!これ、誰からだと思う?!ネ!ネ!ネ!」
「どうせまたどこかの姫君からのラブレターだろう。で、今度はどこの国だ?どんな大国の姫だろうと、オレはしばらくはユーリ以外の女と結婚する気はねーよ。
まあ‥ユーリと同じあの象牙色の肌と、黒い髪、黒い瞳を持っている娘なら、ちょっと会ってやってもいいケドな。
そんな娘この辺にはいねぇ!」(日本においで、手ぐすね引いて待ってるワん♪)
「何いってるの、そのユーリからよ!
ねえ、早く開けて!!何が書いてあるのかしら、
もしかしたらルサファがやっと私と結婚する気になって、
でも恥ずかしいからユーリにそう伝えてくれって頼んだりなんかしちゃったりして…♪もう、恥ずかしがり屋のルー君!!」
ラムセスは粘土版を、ひとりで盛り上がっているネフェルトの手からもぎ取ると、
その表書きを見た
「う~ん、確かにユーリからだ…。やっとオレのところへ来る気になったってわけ
か。それならこんな書簡などよこさなくても、いきなり体ひとつでオレの胸に飛び込んで来ればいいのに♪むふふ…」
よく似た兄妹である。
ルンルン気分で中をあけた二人が見たものは…!
それはユーリからのラブレターある。
ラムセス唖然