下弦の月が浮かぶ夜(完)

下弦の月が浮かぶ夜19

* 雲一つない吸い込まれそうな青い空。 上を見上げながら吐きだした息が白く見える。 そのまま落ち込みそうな心も一緒に天上まで持って行ってくれたらいいのにと本気で願った。 「まーきの」 間延びした様な感じで私の名前を呼ぶのは一人しかいない。 その響…

下弦の月が浮かぶ夜18

* 不機嫌がそのまま服を着て歩いてる。 そんな司を見たのは久しぶりだ。 「おい」と軽く片手を上げた俺をじろっと一瞥。 そのまま通り過ぎた。 あの状況の司を呼び止めるほどの心臓は運よく持ち合わせてはいないことに感謝。 どうせ牧野がらみのことだろうと…

下弦の月が浮かぶ夜17

* 「ねぇ、見た?」 「見た」 「やっぱかっこいいわ」 「どっちがいい?」 「どっちも~」 ざわつきは階を昇るごとに大きくなる。 そのざわつきを遮断するように静まり返る最上階。 ドアを開けた先から流れ出る冷ややかな空気。 「何考えてる」 空気も凍りそ…

下弦の月が浮かぶ夜16

* 人肌が気持ちいい。 もう少しこのままで・・・ 朝なんて来なくていいのに・・・ ンッ? ここどこだ? どう考えても私と素肌を寄せ合って抱きしめる相手は一人しかいない。 ヤバーーーーーッ。 あのまま寝てしまったんだ。 また無断外泊だ。 最近は両親の方…

下弦の月が浮かぶ夜15

* 「帰らないで・・・」 腕をからめて身体を寄せて頬に柔らかい唇が触れる。 じらして楽しむ手管。 最近忘れてた。 つーか・・・ ここ数日そんな手管を使う相手を相手にしてなかった。 牧野つくしに東條葵。 めずらしく俺のタイプでない女が側にいる。 引き…

下弦の月が浮かぶ夜14

* 「得したよね」 「昨日のランチ一生忘れられないわぁ」 「側で見られただけでも幸せだったのにーーーッ」 昨日のランチから会社に戻って一晩経っても続くテンションの高さ。 「アホらしい」と葵だけがその中から浮いている。 「君たち、会社の子だよね」 …

下弦の月が浮かぶ夜13

* 「俺に内緒で何やってるッ」 最初から何も聞くつもりもなく責めている。 「あきらと昼間会ってたんだよなッ」 「もうばれたのッ」 驚きとともに赤く牧野の顔が染まる。 「あぁ、ご丁寧に写真付きで教えてくれるお節介な輩がいるもんでな」 テーブルの上に…

下弦の月が浮かぶ夜12

* 目の前でスパゲティーをうまそうに頬張る。 俺の前で大口開けてうまそうに食べる女。 他にはいない。 牧野・・・ だからってどうしてこの店なんだ? 俺の会社は目の前。 さっきから集中的に注がれる視線。 耳に入る声。 「社長?」 「キャーッ!女の人と一…

下弦の月が浮かぶ夜11

* 緊張した面持ちが顔を上げて視線が会った瞬間に赤く色ずいた。 それは・・・ けして女性が俺を見てほんのりと頬を染める照れた感情ではなくて怒りをあらわにして興奮気味の感情。 牙をむきだしで凄まれてる気分。 それがなぜだか面白い。 「あーーーーーッ…

下弦の月が浮かぶ夜10

* 「ったく、頭にくるっ!」 ドンとデスクが大きな音を立てる。 「葵、やけに機嫌悪いね」 「別に普通だよ」 同僚の言葉にあの客のお陰でバイトがクビになったんだからとは愚痴も言えず頬が引きつらせたまま葵は笑顔を作った。 「ねぇ、見た?」 「見たッ!…

下弦の月が浮かぶ夜9

* どうして・・・ 今ここにいるのか。 自分から会いに行く必要はない。 身の置きどころがない淋しさで眺めるネオン。 黒猫の絵の書かれた看板がじっと俺を見据えてる。 黄色く光て見つめるネコ目。 冷たく感じた。 「いらっしゃいませ」 静かな口調で明けた…

下弦の月が浮かぶ夜8

* 訳ありなんだよな・・・ 今度の相手。 牧野を見送った後何気なく見下ろす夜の夜景。 原色に交る淡い灯。 何気にさびしげに映る。 窓辺にもたれかかって窓ガラスに移る俺は牧野がいた時みたいに笑うことはできなくなっていた。 牧野に彼女のフリをさせでな…

下弦の月が浮かぶ夜7

* 「牧野、このままあの噂に付き合うか?」 「えーッ!」叫んだ後にごくりとなる喉。 『かたづを飲む』って、この事を言うのかと息をひそめた。 もし・・・ このまま美作さんの言うとおり彼女のふりして、噂が広まれば道明寺の耳にも入るよね? どうなる? …

下弦の月が浮かぶ夜6

* 鈍感なのか・・・ 敏感なのか・・・ 分からなくなる。 目の前でじっと見開いたままの真剣な瞳。 無邪気な色を乗せたまま心配そうな表情を向けられた。 抱きしめたくなる。 きっと・・・ こんな表情を無意識に作る牧野に司も弱いんだろうな。 ふと浮かぶ親…

下弦の月が浮かぶ夜5

* 連れられて行ったのは最上階のレストラン。 名前を告げる前にいそいそと黒のスーツを着込んだ支配人らしき人物が頭を下げる。 慣れた仕草で聞き流す様に挨拶を受けている美作さんを眺めてる数秒間。 「牧野」 名前を呼ばれて我に返る。 私・・・ こんな格…

下弦の月が浮かぶ夜4

* 「こんなところで何してる?」 「司がいたらあいつ半殺しだぞ」 睨みを利かせた表情が瞬時に和んで優しい瞳を向けられた。 「いや~美作さんも結構な迫力だったけど」 言いながら少し照れくさくなるほど甘いマスク。 一発で女性を引き付けるのは健在で、す…

下弦の月が浮かぶ夜3

* 会いたくて・・・ 恋しくて・・・ 心が・・・ 震えた。 会わなければ忘れられる。 そんな・・・ 恋しかしてこなかったんだと今さらながらに気がついた。 それを、恋愛から一番疎かったやつらに教えられた。 まだ・・・ 間に合うだろうか? いつか・・・ お…

下弦の月が浮かぶ夜 2

* ひと際は目立つ存在感。 格別なオ-ラが立ち込めてる空間。 その中で見え隠れする淡い色のパウダーアクアのドレスをまとった華奢な身体。 あいつらが大きすぎるせいで顔は見えない。 誰にも取られないように守られてる雰囲気に心なしか安心している。 一通…

下弦の月が浮かぶ夜 1

キリ番リクエストのひょん様に応えての新しいお話です。 リクエストありがとうございました。 今回のお話の設定はF4が大学を卒業したあたりになるでしょうか。 原作の『三日月の夜に』のあきら君の思いを織り交ぜてのストーリー展開になると思います。 ま…